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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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その頃のアインズビル




「良かったです」

ケネスの言葉を聞いて、リディオノーレは微笑んだ。


「何だこれは」

グレイザックは眉間に皺を寄せる。

「見た目と味と効果が合っていなくて、訳が分からん」

グレイザックはそうは言いつつも器を差し出しておかわりを入れてもらう。


リディオノーレは人数分のスープを器に入れた。


男3人は不思議そうにしながらもスープを完食した。


「………不味くはないが、色が悪すぎる」

グレイザックが告げる。

「仕方ないです」

リディオノーレは答える。


「でもこれ、普通の回復薬より効果が早すぎませんか」

サムエルが言う。

男3人はとても怪訝な顔をしている。


「増幅素材を入れたからですかね」

「………ちょっと待て。その言い方だと、初めて試したような台詞だぞ」

グレイザックは恐る恐る口を挟んだ。


「はい。駄目でした?効果があるなら良いのでは?」

リディオノーレは首を傾げる。

「………」

男3人は顔を見合わせる。


「よし、分かった。本当に疲れているときだけ、お前に料理を頼むことにする。それ以外は座ってて良い」

グレイザックは結論を出した。


「何でですか」

リディオノーレは頬を膨らます。

「何でもだ。料理は見た目も大事だ」

グレイザックはそう言った。


彼女は思わず睨む。


「別に2度とつくるな、とは言っていない」

「じゃあいつつくってもいいんですか」

「本当に皆が疲れているときだけだ」

譲らないグレイザック。

つくらせる気がないではないか。


師弟の睨み合いが少し続く。


「………分かった。アインズビルに帰ったら俺のためにつくってくれ」

その言葉にぱぁっと笑顔になるリディオノーレ。


なんだかんだで彼女に対して本当に甘くなったグレイザックにケネスとサムエルは思わず苦笑した。


グレイザックは頭を掻きながら、「片付けるぞ」と皆を促した。





ドロゴルミットで魔獣狩りにリディオノーレ達が挑んでいた頃、アインズビルには客が訪れていた。


「申し訳ありません。リディオノーレ様は不在でして……」

フェルバールが対応する。


何と、ラルシャーク領主子息が訪問してきたのだ。


「いつ帰ってくるのですか」

「それは少し分かりかねます」

フェルバールは申し訳ない顔で告げる。


「分かりかねるってどういうことだ。あなたは側近なのでは?側近なのに何故主人の予定を知らないんだ?」

ごもっともな意見だった。

フェルバールは思わず苦笑いになる。


「リディオノーレ様から1回も手紙が返ってこないんだが、あなたが握りつぶしているのか」

子息はフェルバールを睨みつけた。

そんな事実を初めて知ったフェルバールは、目を瞬く。


この子息が送ったのは恋文だろう。

そして、リディオノーレは返信をしない薄情者ではない。

ということは、必然的に誰が握りつぶしているのか予想がつく。


(グレイザック様………)

フェルバールは顔に出ないよう内心でため息をついた。

せめて、一言くらい教えてくれたらいいものを。


「リディオノーレ様は本当にお忙しい方でして……」

「だが、もう試験を終えて帰ってきたのも聞いている」

子息は頑として居場所を知りたいらしい。


「……少々お待ち頂けますか」

フェルバールはこれはムナグレークに相談した方が良いと判断し、執務室へと向かった。


「グレーク様、どうされますか」

経緯を説明し、フェルバールは尋ねた。

執務室にはバルデミアンもいる。


「……魔獣狩りのことを告げるか?」

ムナグレークが言う。

「だが、その魔獣狩りに向かわれても困るが」

ムナグレークは唸る。


「そうですね……。大型魔獣の渓谷に向かうと仰ってましたし、そんな所にあの子息が行ったらひとたまりもないでしょう」

バルデミアンが言う。


「では、どうしますか」

フェルバールが困り果てている。

「帰ってきたら確実に手紙を出す約束をして来い」

ムナグレークは告げた。


「手紙だけで納得できますかね」

フェルバールが眉間に皺を寄せる。

「無理か………」

「無理でしょう。返信がなくて会いに来るくらいですから、本気なのかもしれませんね。リディには伝わっていませんが」

フェルバールは言う。


3人はうんうんと唸り、どうするか知恵を絞る。


「とりあえずは帰ってきたらこちらから連絡することを約束し、もし会いたければ再度来てもらうようにしよう」

「分かりました」

フェルバールは頷き、子息に伝えに行った。


子息はせめて今の居場所でも教えてほしいと食い下がったが、グレイザックの許可なく教えるわけにもいかないので、フェルバールは断固として答えなかった。


子息は渋々引き下がると、また来ますと言って帰って行った。


その数日後は、なんとウィスナビアの子息が訪れた。

しかも、メディオールではなく、彼の兄だった。

長兄と次兄である。


リディオノーレが学院から帰領したことを知り、訪問したそうだ。

彼女に会わせろとしつこく、領主ライリルムントが対応する羽目になった。


「このことを知ったらグレイザック様怒りますよ……」

ムナグレークが頭を掻く。


この2人の兄の訪問理由はなかなかに酷いものだった。

メディオールが領主を目指すと言ったせいで、兄弟関係が悪くなり、その原因はリディオノーレのせいだとぬかしている。


メディオールやリディオノーレが知ったら絶対に憤慨するような内容である。


彼女が帰ってくるまで居座ると言い出したが、正式にウィスナビア領主に抗議すると言ったら、そそくさと帰って行ったのだった。




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