ケネスとリディオノーレ
「そんな地位でおさまる器だと思われますか?」
リディオノーレはケネスに聞き返した。
その言葉にケネスは唇の端を上げる。
「そんなわけがなかろう」
ケネスが答えた。
「我が主は宰相辺りが良いのではないか。それか王宮騎士団長」
ケネスが言う。
「同感です!上に立つ器ではあると思うんですが、まあまあ非情なので怖い王様は印象良くありませんし…」
彼女の言葉にケネスはまた笑う。
「宰相は1番お似合いの地位かもしれませんね!騎士団長の地位も嬉々として騎士たちをしごきそうですが」
リディオノーレは苦笑する。
容易に想像できる。
「くくっ。楽しくしごきそうだな。それは同感だ」
「ですよねー!」
グレイザックの体がぴくりと動いたのを視界の端で見たリディオノーレは、びく、と体をすくめる。
グレイザックが起きたのかと思った。
彼女は結界の外をまた睨む。
そろそろ疲れてきたのか、盗賊たちは座り込んでいた。
「じゃあ、リディが宰相になればいいのではないか?」
「ぶっ!!!」
リディオノーレは思い切り噴き出した。
「いやいや流石にグレイザック様の頭脳には劣りますから無理ですし、政に興味ないですし」
慌てて否定するリディオノーレ。
「だが、我が主と思考がよく似ているぞ?」
「宰相になるくらいなら、騎士団長になりますよ」
リディオノーレは答える。
「ほお。剣が今使えないと聞いているが?」
ケネスがにやりとしながら尋ねた。
「騎士団長が絶対に剣を使わないといけない理由なんてないですよね」
リディオノーレは言い返す。
その言葉を聞いて、ケネスはにやりとする。
「その通りだ。流石、我が主の弟子」
ケネスは言う。
型に嵌まらない思考は常識と外れているのだが、別に悪いことではないし、むしろそういう思考をしていかないとグレイザックにはついて行けないだろう。
「だから、鞭の扱いを頑張ります。剣も追々扱えるようまた訓練します」
「いいんじゃないか」
ケネスは唇の端を上げた。
「リディが王宮騎士団長で我が主が宰相でどうだ」
ケネスが提案した。
「いいですね!やる気出てきました!」
リディオノーレは言う。
「でも、私、騎士団長になれる程の実力があると思われますか」
「このまま研鑽を積めば大丈夫だろう。魔法で補うことも出来るしな」
「剣に炎を纏わせたり、とかですか」
「ああ。非常識だがな」
「宰相と騎士団長。しかも史上初の女性騎士団長。いいじゃないか」
ケネスはにやりとする。
「どうやったらなれますか」
リディオノーレは尋ねる。
「学院で名を馳せることだな。そして、卒院式で王族に顔を覚えてもらうことだな。元々、声はかかっているんだろう?」
「騎士団に所属か研究者はどうか、などと言っていた気がします」
確か王妃がそんなことを言っていた。
「研究者はやめておけ」
ケネスが言う。
「どうしてですか」
「今でさえ不摂生なのに、研究者となれば仕事と称してもっと籠るだろう。不摂生で死ぬぞ」
「不摂生で死ぬって……流石にないですよ」
リディオノーレは笑う。
「不摂生で死ぬとかダサすぎますし」
「大いに有り得るから言ってる。リディも我が主も、不摂生で死ぬ可能性の方が高い。2人共、研究を邪魔されたくないだろうから誰も入れないように結界を張るだろう?そして、寝食忘れて研究に没頭する。目に見えている」
そう言われるとそんな気がしてきたリディオノーレ。
「グレイザック様も没頭しちゃいますかね」
「没頭しないと思うか?いつもリディと何かする時は楽しげだぞ?」
その言葉に彼女は嬉しそうな顔をする。
「嬉しそうなところ悪いが、2人で研究者になるのは辞めてくれると助かる。周囲が困る」
すごい切実に言われるので、リディオノーレは苦い顔になった。
「だから、我がすすめるのは宰相と騎士団長だな。まあそれか、2人でどこかの領地をつくるかだな」
「それもありですよね!グレイザック様が領主でしょ。私とサムエル様が側近で、グレーク様にフェルバール様、バルデミアン様もいて、ケネス様がいたら充分ですよ」
リディオノーレは思い浮かべながら、嬉しそうに話す。
「領主夫人は誰なんだ」
ケネスが尋ねる。
「グレイザック様、結婚するんですかね。どうなんでしょう」
リディオノーレは寝ているグレイザックをちらりと見た。
「領主が流石に結婚しないのはまずいぞ」
「そうですよね……。シャーリーお姉様でどうでしょう」
その発言に今度はケネスが噴いた。
「待て待て。現領主息女のシャーリネーヴェのことを言っているのか?」
「はい。だって、お姉様はグレイザック様のこと好きですし」
リディオノーレは答える。
「………」
ケネスは少しため息をついてから口を開いた。
「シャーリネーヴェが我が主に釣り合うと?」
「釣り合う釣り合わないを抜きにして、グレイザック様を好いてくれる人って少ないじゃないですか」
「お主なかなか言うな」
ケネスが苦笑する。
「現実的な問題、グレイザック様の眼中にもないと思いますが……」
「その通りだな。根本的に魔力が釣り合わんから却下だ。リディは好いてる奴はいないのか?」
ケネスが尋ねる。
「私ですか?異性として好き、っていう感情がよく分からないんですよね。グレイザック様のことは勿論好きなのですが、それが異性としての好きなのか家族としての好きなのか、私には分かりません」
「ふむ……」
ケネスは少し考える。
「じゃあ、あのラルシャーク領主の息子とウィスナビアの末息子はどうなんだ」
「ラルシャーク領主ご子息のことは、あまり何も思ったことないです」
「リディはそうだろうな。だが、あちらはリディに気があると思うが?」
「でも、手紙を出すと言っときながら手紙来てませんよ?」
リディオノーレは首を傾げた。
その言葉にケネスは目を瞬き、グレイザックを見た。
完全に彼が握り潰している。
ケネスは思わずため息をつく。
「ウィスナビアの方はどうなんだ。面と向かって言われたんだろう?」
「メディオール様のことですよね?ええ、まあ、面と向かって求婚はされましたね」
リディオノーレは苦笑いになる。
「何と答えたんだ?」
「メディオール様が成人されたとき、私がまだ独身だったならもう一度求婚してください、と」
「何歳差だったか」
「4歳だったかと」
「ふむ。なるほど。今あっちが9歳か?卒院するまで6年か。ふむ」
ケネスは「ふむふむ」と1人で考え込む。
「何ですか」
「いや、こっちの話だ」
ケネスは答える。
「それをひとつの期限として、あと6年でナックルンドをどうにか出来ると思うか?」
ケネスの不意な真剣な問いにリディオノーレは目を瞬いた。
「6年で……ですか」
リディオノーレは考え込む。
具体的な数字の提示に思わず唸る。
「なかなか難しいですね……。6年……。その内の3年は、私は学院生活ですから」
「だが、何か考えているんだろう?」
「グレイザック様も考えてますよね?」
リディオノーレは尋ね返した。
「どうしてそう思う」
「グレイザック様ですから。策を考えていない筈がないですよね」
リディオノーレはケネスの目を覗きこむ。
「弟子なだけあるな」
ケネスはからりと笑った。
「私とグレイザック様で戦を仕掛けても負けますか?」
その質問にケネスは目を瞬く。
「全く現実的ではないが、2人では無理だな。どれだけ2人が強いと言っても流石に多勢に無勢だ」
「決死の覚悟でも、ですか?」
彼女の質問にケネスは目を細めた。




