ケネスの語り
リディオノーレの睡眠魔法が切れ、目覚めるとまだ真夜中だった。
「起きるのが遅い」
グレイザックは呆れた様子で口を開いた。
「危機感が無さすぎる」
布団代わりになっていたケネスもため息をつき、のっそりと起き上がって体を震わせた。
「???」
4人の周りには大きな結界が張ってある。
結界の外には盗賊らしき人たちがたくさん群がっていて、結界を囲んでいる。
グレイザックは何も動じず、お茶をすすっている。
サムエルもお茶を飲んでいた。
結界の中は呑気なものだが、外はものすごく殺伐としている。
怒号がたくさん聞こえるし、結界に何回も攻撃を仕掛けている。
「あの……どういう状況ですか」
リディオノーレは思わず尋ねる。
「まあ座れ」
グレイザックはちょいちょいと彼女を手招きする。
リディオノーレは彼の隣に行ってちょこんと座ると、彼の飲みかけのお茶を渡された。
「どこで飲んでもアラウィリアのお茶は美味しいですね」
リディオノーレは何の躊躇いもなくお茶に口をつけ、そう感想を述べた。
ホッとする味だ。
「呑気だな、お前」
グレイザックは苦笑する。
「1時間前くらいから盗賊が現れて、こんな状況だ」
「魔獣狩りに向かう者たちを標的にしてる盗賊たちですね」
サムエルが説明する。
「お前は呑気に寝てて起きないし、結界を張ったんだ。かなり煩いはずなのに、よく起きないもんだと皆で感心していたところだ」
グレイザックはため息をつきながら述べた。
「すいません。………で、どうするんですか?」
リディオノーレは結界の外を見やる。
結界に弾かれながらも諦めない盗賊たちの根性に、内心拍手しているリディオノーレ。
「何もしない。俺とサムエルは少し寝る。何かあれば起こせ。ケネス、頼んだ」
グレイザックは寝袋の中に潜り込んだ。
サムエルも盗賊たちなんて丸無視で同じように寝袋の中に入る。
「グレイザック様の結界っていうだけで、安心感が違いますね」
リディオノーレはグレイザックからもらったお茶の残りをすすりながら、ケネスに話しかけた。
「知らない土地でぐーすか寝れるリディがすごいがな」
ケネスはため息をつきながら、彼女の隣に移動する。
「グレイザック様の結界が破れるわけないじゃないですか」
リディオノーレは答える。
「にしても、もうちょっと危機感持ってもいいだろう」
ケネスは呆れた。
強固な結界なので確かに何の問題もないが、うるさい。かなり、うるさい。
ぎゃーぎゃー喚いている中で、リディオノーレはぐーすか寝ていたのかと思うと自分の豪胆さに笑ってしまう。
「このうるさい中で寝られるのもすごいですね」
リディオノーレはちらりとグレイザックとサムエルを見る。
「野営はこんなものだ」
ケネスは答える。
「あまりにもうるさいので、黙らせてもいいですか」
リディオノーレは物騒なことをぬかす。
「放っておけ。リディの魔力を使うほどでもない」
ケネスはそう答える。
「……じゃあ何しましょ」
「昔話でもするか」
ケネスは狼姿のまま、にやりと笑った。
寝たふりをしているグレイザックを少しちらりと見たケネスは、昔語りを始めた。
「我が主は、使役獣が棲まう森の奥の奥まで1人でやって来た。そこらの使役獣には目もくれず」
ケネスは思い出す。
「魔力の高い人間が来た、と森では獣たちが騒いでいた」
「魔力が高いとか、やっぱり分かるんですか」
「分かる。纏う空気が違うからな。しかも、我が主は精霊に愛されし男だった」
「精霊に愛されし……?」
リディオノーレは聞き返す。
「その内意味が分かる。我が主がどれだけ凄いのか」
「どれだけ凄いかは知ってますよ」
リディオノーレは答える。
結界の外が煩くて、彼女は少し睨んだ。
「リディが想像している以上に我が主は超人だ」
「超人なのも知ってます」
「本当にリディは運が良い」
ケネスが笑う。
「それも知ってます。グレイザック様があの時視察にこなければ、今の私はいませんでしたから」
「そうだな。本当に運が良い」
ケネスは唇の端を上げる。
「我が主と出会った時に、この人間が我の主人になる人か、と運命のように分かった」
「そんな何となくで分かるんですか」
「分かる。そんなものだ。使役獣探しに行ったときに、今言ってる意味が分かる」
「楽しみです。出来れば、喋ってくれる使役獣がいいです」
「すまんが、そういうのはいないし、人化するのもいない」
「確かに喋る使役獣なんて聞いたことはないんですけど、師匠がこんな規格外な使役獣なのに弟子が普通では良くないですよ」
その言葉にケネスは笑う。
「普通で良い、普通で。目立たなくて良い」
「でも〜……」
「何やら色々画策しているようだが、あまり無茶はするなよ」
「それをそっくりそのままグレイザック様に言ってあげてください」
リディオノーレは唇を尖らせる。
「主のことを優先させるのも良いが、自分のことも大事にしろ」
「その台詞もそっくりそのままグレイザック様にどうぞ」
「お主たちは………」
ケネスはため息をつく。
互いが互いを思い合ってるからこそ、相手のためにどうしたらいいかずっと考えているのを知っている。
「今回のこの旅、立案はグレイザック様なんですが、どうして行こうと思ったかご存知ですか」
リディオノーレは尋ねる。
ケネスはちらりと寝ているグレイザックを見た。
結界の外が煩いとグレイザックとサムエルが寝られないではないか。
リディオノーレはもう一度、盗賊たちを睨む。
「リディが大型の魔石を欲しがったついでに、他国の調査だな」
「ナックルンドが今、王女と王子が政をしているって言ってましたよね」
料理をご馳走してくれた女将がそう言っていた。
「それをどう考える?」
ケネスは真剣な目で彼女を見つめて問うた。
「崩御したとは聞いていませんし、病か何かですか?」
リディオノーレは考えを述べた。
「我も詳しいことは知らんが政に携われない状態ということは間違いないな」
ケネスは頷く。
「では、床に臥せている状況ってことですね」
「恐らくだがな」
「亡命者が出ている時点で王女と王子に政の腕は無いに等しいですよね」
「バッサリ切り捨てるんだな」
ケネスは苦笑する。
「どう足掻いても、政の手腕はグレイザック様に劣りますよ」
「何故そう言い切れる?国政と領地の執務は別物だぞ」
「それでもです。グレイザック様は先見の明がありますから。執務の腕もアインズビルでは1番ですし。全てにおいて早くて正確ですから。ただ、面倒くさいからと言って何でも自分でしてしまう癖はよくありませんが」
「くく」
ケネスは少し笑った。
「色んなことを知っているあの知識量は、常軌を逸しています。正直、今の領主様よりは上手に領地を纏められると思います。けど、仲良くない人には無愛想なのでそれくらいが難点ですね」
「くくく」
ケネスは更に笑った。
「じゃあ、リディは我が主がアインズビル領主になることを願っているのか?」
ケネスは少し真剣な目で問うてみた。




