有名人のサムエル
「もうすぐ国境門です」
サムエルに言われ、目を凝らすリディオノーレ。
「あれだな」
グレイザックが指を差す。
「このまま天馬で国境を越えられないのですか」
リディオノーレはふと疑問を口にした。
「他国の人間が国境を越えるには、入国許可の魔法をかけてもらわないといけません。その魔法をかけてもらっていないのに入国した場合は、見えない結界に弾かれて入れません」
サムエルが答えてくれる。
「なるほど」
「では、降りますよ」
ケネスは降りている最中に人化を解いて狼に戻り、そのまま天馬に乗っておく。
国境門に近付くと何組か入国許可を待っていて、列を成していた。
リディオノーレ達の番がまわってきて、グレイザックが前に出ようとしたがサムエルが先に出た。
「名前を」
中年の門番2人が3人と狼を見て、そう言った。
「サムエルと申します」
門番はサムエルに紙を渡して、名前を書いてもらう。
「何か身分を証明できるもの………は?」
名前で貴族ではないと分かった門番は、サムエルを見た。
「え?………サムエル殿!?」
門番は目を瞬いた。
門番2人は顔を見合わせ、叫んだ。
「も、もしかして、あのサムエル殿ですか!?」
「この翠の眼はそうですよ!最恐の請負人、翠眼のサムエル殿ですよね!?」
門番2人が興奮する。
「最恐の請負人……?」
リディオノーレは首を傾げ、復唱する。
「おいおい、本気か………」
グレイザックの顔が引き攣っている。
「知ってるんですか?」
リディオノーレが小声でグレイザックに尋ねる。
「また後で説明する」
グレイザックの顔が戦慄していた。
「まだ私の名前を知っているとは、嬉しい限りです。20年以上前の話になりますので」
サムエルは門番2人に微笑む。
「勿論知っていますとも!我が国では伝説ですから!お帰りなさいませ、サムエル殿!!」
門番の嬉々とした叫びにサムエルは苦笑する。
「残念ながら、今回はこちらに魔獣狩りに訪れたのです」
サムエルは苦笑しながら述べた。
「こちらの彼女の実力試しを兼ねていまして」
サムエルがリディオノーレの手を持って、門番の前に立たせた。
「こちらの娘ですか?名前は?」
門番が鋭い目でリディオノーレを見る。
「……リディオノーレ・ネルク・オルネリアです」
名前を述べたのち、杖の魔石に刻まれているアインズビルの紋章を見せた。
「オルネリア?アインズビルの紋章?赤紫の髪………」
門番が1つずつ何かを確認する。
「そちらの金髪の方のお名前は?」
「グレイザック・グリス・アインズビル」
「赤紫の髪と金髪の組み合わせ……。そして、アインズビルのグレイザックと言えば……」
門番が思わずおののく。
「では、この娘はあのグレイザックの弟子と名高い悪辣非道の技を使う生き残りっ!?」
門番の叫びにサムエルとグレイザックが苦笑した。
リディオノーレの眉がぴくりと動いたが、魔力が漏れることはなかった。
「ちょっと待ってください!悪辣非道は誤解です!!」
リディオノーレは慌てて抗議する。
悪辣非道で他国にまで名前が通っているのは嫌である。
「いいじゃないか。他国にまで知れ渡っているんだぞ。有名人じゃないか」
グレイザックは唇の端を上げて言う。
完全に面白がっている。
「サムエル殿と何の関係が?」
門番が尋ねる。
「サムエルは今、私の側近として働いている。そして、この娘に武器の扱い方を教えてくれている」
グレイザックはそう答えた。
「なるほど。サムエル殿に教えを請えるとはなんて羨ましい!」
門番が叫ぶ。
本気で羨ましそうな感じにリディオノーレは思わず引いてしまう。
「グレイザック様とリディオノーレ様ですね。入国許可の魔法をかけますので、お手を」
言われた通り手を出すと、ぐい、と引っ張られ、袖をめくられ手首の内側になにやら魔法をかけられる。
「出国する際にその魔法を消しますのでまたこちらに来て下さい」
「分かりました」
リディオノーレが答える。
「そちらは使役獣でお間違えないですか?」
門番が尋ねる。
「ああ」
グレイザックが答える。
「かしこまりました。使役獣には入国許可の魔法は施さなくて大丈夫なので、このまま通過して下さい」
門番が説明する。
「では、お気をつけて」
門番はサムエルに頭を下げた。
そう、サムエルだけに。
グレイザックとリディオノーレは苦笑いでサムエルの後に続いて、国境門をくぐった。
くぐると、賑わう町が一瞬で目に入る。
旅人のような姿がたくさん目に入るし、活気がすごい。
「旅人さんかい。ご飯はこっちで食べて行きな!」
「土産はこっちで買って行ってくれ!」
「道に迷えば、地図はこっちで買ってくれ!」
色んな店の人が一気に声をかけてくる。
「地図を1つ、もらっても?」
サムエルが話しかける。
リディオノーレとグレイザックは2人で小声で話す。
「最恐の請負人とは何なんですか」
「知らないか?20年以上前に恐れられた魔獣狩りを」
「私、生まれてません。グレイザック様も生まれてないじゃないですか」
「だが、有名だぞ。大分前の話なのにあのサムエルより年下の門番は知っていた。ということは、語り継がれているか伝記がある筈だ」
グレイザックは言う。
「そんなにすごいんですか」
リディオノーレは目を瞬く。
「魔獣狩りでは負けなし。どんな魔獣でも倒せないものはないという。請負人に頼めば、必ず倒してくれると聞いたことがある」
グレイザックの言葉にリディオノーレは地図を買っているサムエルを見た。
「………思い返せば、私、サムエル様のこと何にも知りませんね」
歳も知らない。
出自も知らない。
ただ、グレイザックの側近ということだけしか分かっていない。
「サムエル殿ですか!何年ぶり……いえ、何十年ぶりですか!」
地図を売ってくれた店主がサムエルと話が盛り上がっている。
「先を急ぎますので、今日はこれで。時間があればまた」
サムエルは笑顔で受け応えると、地図を持ってリディオノーレ達の方に戻ってきた。
「昼は町で食べてから向かいましょう。あちらの女将がご馳走してくれるそうです」
サムエルは笑顔で佇む女将を紹介した。




