人化ケネス
出発までの間に手紙のやり取りを終わらせ、旅の準備もきちんとして、出発の日を迎えた。
準備物の最終確認をするのはサムエル。
「……大丈夫ですね。では、行きましょうか」
サムエルがマントを翻す。
いつもと違い、動きやすい服装に身を包んでいる。
リディオノーレとグレイザックも騎士服ではないが、動きやすい服装だ。
2人ともサムエルと同じく、マントもつけている。
「お気をつけて下さいね」
ムナグレークが3人に言う。
「執務は任せたぞ」
グレイザックがも3人に返す。
「かしこまりました。出来るだけやっておきます」
バルデミアンが頭を下げた。
「お早いお帰りをお待ちしております」
フェルバールも告げる。
6人が挨拶を交わしている中、一頭余っている天馬がいる。
リディオノーレは訝しみ、グレイザックを見る。
「……来た来た」
グレイザックは言う。
精悍な顔つきの灰色の髪の長身の男性がやって来た。
リディオノーレは初めて見る顔に首を傾げる。
「……誰、ですか?」
リディオノーレはグレイザックの袖を掴んで、少し隠れながらグレイザックに尋ねた。
「後で教えてやる」
グレイザックはそう答える。
その灰色の髪の男性は、余っていた天馬に先に跨る。
「揃ったことだし、出発するか」
グレイザックも天馬に跨る。
それを見て、リディオノーレも天馬に跨った。
サムエルが最後に跨り、先頭に立つ。
「では、お気を付けて」
代表してムナグレークが挨拶する。
「後は任せた」
グレイザックも3人に向かって言うと、手綱を打つ。
サムエルを先頭に4騎の天馬が空へと駆け上がった。
リディオノーレが勝手に帰領したあと、学院ではスティルナーデが発狂していた。
シャーリネーヴェもはじめは宥めていたが、途中から諦めた。
リディオノーレに早く帰ってきてくれ、と手紙を出したら、今度は旅に出るとか言うものだから、呆れてものが言えなかった。
それを聞いたスティルナーデは更に発狂していた。
アングロードも早くリディオノーレに帰ってきてくれるようお願いするしか出来なかった。
アリウォーナは学院長から責められ、グレイザックに苦情の手紙を送る。
回復薬のことも返事が返ってこないし、やきもきしていた。
返ってきたと思ったら、今度は旅に出るから連絡が取れないとか言うし、もう意味が分からない。
学院から勝手に帰って、あの師弟は一体何をしているのか。
師弟とは連絡が取れないから、アリウォーナはアラウィリアに手紙を出し、回復薬のことを尋ねることにした。
詳細を尋ねると、今度はアブストールから詳細はあの師弟に聞いてくれ、と言われるし、アリウォーナはものすごい拗ねた。
全然関係ない素材で回復薬をつくり、どうなったかを聞きたいのに聞けないこのもどかしさで、彼女はおかしくなりそうだった。
学院ではリディオノーレに関わる者たちがそんなことを思っていることなど露知らず、リディオノーレはグレイザックの隣で天馬を駆けながら話しかけた。
灰色の髪の男性は、最後尾でついてきている。
「グレイザック様、あの人は誰なんですか」
リディオノーレは小声で問いかける。
「よく見てみろ。分かるから」
グレイザックは笑う。
リディオノーレは、後ろにいる灰色の髪の男性を見つめた。
その男性はにやりと笑った。
「!グレイザック様、私、あの人見たことないですよ」
リディオノーレは小声で抗議する。
「よく思い出してみろ。誰かに、何かに、似てないか?」
そう言われ、リディオノーレはジロジロと男性を見る。
「灰色……」
灰色の髪などアインズビルでは見たことがない。
誰だろうか。
あの髪の色は特徴的だし、会ったら余計に覚えているはずだが、こんな男性は見たことがない。
考え込むリディオノーレにその男性とグレイザックが吹き出した。
「……分からんか」
グレイザックは笑いながら尋ねる。
「名前を聞いてもいいですか?」
リディオノーレは拗ねた顔をしながら尋ねた。
「ケネスだ」
その男性が答える。
「ケネス様?ですか?グレイザック様の使役獣と一緒の名前じゃないですか」
リディオノーレは目を丸くして、グレイザックを見た。
「……………え?」
リディオノーレはケネスと名乗った男性を見る。
そして、グレイザックを見る。
その後、再びケネスを見つめた。
「え?その灰色の髪………え?」
リディオノーレは困惑する。
そんな訳がない。
「え?いや、でも………」
リディオノーレは考え込む。
彼の使役獣は喋る。普通は喋らないのに喋ることが出来るのだ。
なら、有り得るのだろうか。
「でも、そんな記述を見たこともないし……」
リディオノーレは呟く。
でも、彼の使役獣だ。
有り得ないことが出来る。
規格外な人間に、規格外の使役獣。
「………グレイザック様の使役獣である、あの灰色の狼のケネス様、ですか?」
リディオノーレは恐る恐る尋ねた。
本来なら有り得ない。
使役獣が人化するなど、聞いたこともないし見たこともない。
だが。
ケネスはにやりと笑って「そうだ」と頷いた。
「!!」
リディオノーレは目を瞬いて、グレイザックを見た。
「規格外の主人だと使役獣も規格外なのですね。改めてよく分かりました」
リディオノーレは納得した。
有り得ないことを考えても無駄だ。
今、有り得てしまってるのだから、考えるのはよそう。
「因みにどうやって人に化けてるのですか?あれ、もしかしてこちらが本来の姿ですか?」
リディオノーレは思わず尋ねる。
「ぷっ。……くくっ」
ケネスは噴き出した。
「本来は狼だ」
ケネスは笑いながら答えた。
「あと、化けたいと思って化けるだけで、どうやって、というのは説明できん」
「凄すぎませんか」
リディオノーレは唖然とする。
そんな使役獣がいるのか。
「リディは怖くないのか」
ケネスは視察前に彼女と対面したときと同じ質問をした。
「何がですか?」
リディオノーレは聞き返す。
「喋る使役獣というだけでも恐ろしいのに、人化できるとなれば、更に気持ち悪いだろう?」
ケネスは問うた。
「気持ち悪くはないですよ。驚いているだけです。というより、唖然?ですか。凄すぎて唖然、です」
リディオノーレは答えた。
その答えにケネスは微笑む。
「本当に我が主の弟子は、同じく変わってるな」
「変わってません!」
「聞き捨てならん」
師弟2人が同時に答える。
「くく」
ケネスが笑い、先頭を駆けるサムエルも苦笑いしていた。




