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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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2人の食事




夕の鐘が鳴り終わると共に、領主の執務室の扉が開いた。

「リディ、帰るぞ」

グレイザックはそう言って、彼女の書類を奪う。


相変わらずの集中ぶりに苦笑しながら、グレイザックは彼女を見る。


「!!」

リディオノーレは顔を上げた。

「わざわざ迎えに来るなんて、優しいじゃないか」

ライリルムントは少しからかいながらグレイザックに言う。

「約束してましたので」

グレイザックは素っ気なく答えると、奪った書類を読んで署名した。


「ほら、帰るぞ」

「もうそんな時間ですか?」

「ああ。あと手紙も返ってきてるぞ」

「皆、返信早いですね!ご飯食べたらお返事書きます」

リディオノーレは立ち上がった。


「義兄上」

グレイザックはそう言えば、とライリルムントの方を向く。

「5日後からひと月ほど休暇を頂きます」

休暇の許可を貰うのではなく、問答無用で休暇に入るという宣言をするグレイザック。


ライリルムントは妻のシャイリーネと目を瞬きながら顔を合わせ、グレイザックに視線を戻す。


「何かあるのか」

「少し旅に出ます」

「え!?何て言った!?」

ライリルムントが聞き返す。


「ひと月が少しなのか?旅!?どこに!?」

ライリルムントは目を剥く。

「急にどうしたの」

シャイリーネも尋ねる。


「リディが帰領している内に、と思いまして」

「待て待て。どこに行く」

「ドロゴルミットです」

グレイザックはあっけらかんと答える。


「何しに行くんだ」

「ドロゴルミットと言えば、魔獣狩りですよ」

グレイザックは何を当たり前のこと聞いているんだ、という顔をしている。


「何故」

ライリルムントは険しい顔をやめない。

「魔石の調達。リディの実力試し。他国の調査も兼ねています」

「今な理由は何だ」

「下級生の間が1番忙しくないのと、今の時期は執務もそこまで多くありませんし」

グレイザックは理由を述べていく。


「卒業してからで良いのではないか」

「俺がどこまでついててやれるか分かりません。俺がいる間に、俺がいないとできないことをしてしまうつもりです」

その言葉を聞いていた3人が険しい顔になる。


「待て。聞き捨てならん。どこかに行くつもりか」

「その内そうなるでしょう」

グレイザックはそう答え、リディオノーレの背中を押す。


「帰るぞ、リディ」

「……はい」

リディオノーレは何か言いたげな顔をしていたが、何も言わずに後に続いた。


扉の外で護衛していたフェルバールは、2人の後に続きながらリディオノーレの様子がおかしいことに気が付いた。


「どうかされましたか」

「……いえ、大丈夫です」

リディオノーレは無理矢理笑顔をつくって答えた。


「グレイザック様、今日は休めましたか」

リディオノーレは空気を変えるために質問をする。

嫌なことは考えないでおこう。


「ああ。かなり助かった」

「良かったです。言っていたあの書類、少し書いておきましたよ」

「明日読ませてもらう」

グレイザックはそう答えた。


2人が自室に入ったのを確認し、フェルバールは護衛から外れて戻って行った。


「明日から執務半分でいいぞ。出発準備の方をしておけ」

「分かりました」

頷くリディオノーレ。


用意してある食事のところに2人は腰を下ろし、静かに食べ始める。


「犀や象を倒すのに最適の魔法は何ですか」

静かなのも嫌なので、リディオノーレは頑張って話題をつくる。

「何だったか…。あまり考えて術を使ってないからな。その時に適した術がパッと思い浮かぶしな」

「すごい天才発言しましたね」

リディオノーレは苦笑しながら言う。


「倒したことはあるんですか」

「犀を一度だけな。象はここらじゃ出没しないし、ましてや鯨も知らん。この国から出たことないからな」

「じゃあ楽しみですね」

リディオノーレは笑顔で言う。


「ああ、少しな。町も見て回りたいしな」

「私もです!時間が余れば、行きたいです」

「そうだな。なかなか行ける機会がないだろうしな」

「楽しみになってきました!」

「それなら何よりだ」

グレイザックは答える。


「見てください、これ」

食事しながら手紙を読んでいたリディオノーレは、苦笑しながらそれをグレイザックに見せた。

「双子の兄の方からか」

グレイザックは手紙を見る。


そこには、スティルナーデがご乱心だと書いてある。

授業に全然ついて行けてないらしい。

早く帰ってきて教えてあげてほしい、と切実に綴ってある。


「……脳筋の妹をもつと大変だな」

グレイザックはため息をつく。

「初日から寝てましたからね。アングロード様は大変だと思います」

リディオノーレは苦笑する。


「そう言えば、お前から学院の話を聞いていなかったな。聞かせてくれ」

「何が聞きたいですか?そうですね……」

リディオノーレは思い出す。


「あまりにも皆がバニヴィアンですら成功しないので驚きました」

「馬鹿なんだろ。杖を貰ったら試しておくべきだと思うがな」

「ですよね。後は魔力を各部に流すことが難しいのを知りませんでした。威圧って難しいらしいですね」

リディオノーレは他人事のように呟く。


「そうらしいが、俺にも分からん。お前も苦労してないだろう?」

「……はい。残念ながら、皆の気持ちが分かりません」

リディオノーレは頭を掻きながら答えた。


「だろうな」

「素材の授業も覚えるだけですし。半分取れば首席だと言ってらっしゃいましたし、余裕でしょう?」

「普通はな。そう言えば、ひとつわざと答えなかった問題があるらしいな」

「………」

リディオノーレは視線を逸らす。


「もしかして、ルングか?」

その問いに彼女は思わず肩を揺らしてしまった。

「……体は正直だな」

グレイザックは苦笑する。


「あの試験、思ったより難しくなかったんです。グレイザック様なら満点間違いない試験でした」

リディオノーレは呟く。

「実際、学院時代、あの試験満点でしたか?首席だということは知っていますが」

「ああ、満点だった」

「だと思いました。だから、1つ間違おうと思ったらその問題だと思ったのです」

リディオノーレは答えた。


「………?」

グレイザックはその答えに考え込む。

意味が分からない。

「弟子が師匠に並ぶにはまだ早いです」

リディオノーレは笑って言った。


「………そういうことか」

グレイザックは苦笑した。


自分の嫌いなおかずをリディオノーレの口の前に差し出す。

彼女は口を開けてそれを食べた。


「そんなもの気にしなくて良い」

グレイザックは笑って、彼女の器に入ってる「そのおかずを寄越せ」と言う。

リディオノーレも同じようにフォークで刺して、グレイザックの口元に持って行く。


グレイザックも彼女と同じようにそのまま食べた。


「………ぷ」

リディオノーレは思わず笑ってしまった。


グレイザックは咀嚼して呑み込んだあと、片眉を上げた。


「何がおかしい」

「グレイザック様が口を開けるところは、案外間抜け面だと思いまして」

リディオノーレは笑いながら答えた。

グレイザックは彼女の頬をつねる。


「ぃぃいだいですぅぅ!!!」

「煩い。俺をからかったんだから、これくらい甘んじて受けろ」

グレイザックは両頬をつねりあげ、満足してから手を離した。




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