食事会のあと
食事会が終わり、女子たちは先にお暇することになった。
リディオノーレも許可が出たので、そそくさと帰ろうとする。
だが、部屋を出る間際にグレイザックに声をかけられた。
「…今日はもう遅いから何も言わん。が、明日、覚えておけよ」
すごい笑顔でそう言われた。
笑顔がとても怖い。
「……グレイザック様ぁ……」
半泣きになるリディオノーレ。
「お前は俺の弟子なんだろう?俺の考えてること、分かるよな?」
笑顔で言うセリフではない。
「……うー」
抗えないのでリディオノーレは半泣きの目で訴える。
「諦めなさい。今日は早く寝て、明日に備えるといいですよ」
サムエルが彼女の肩に手を置いて、そう微笑んだ。
リディオノーレはしょんぼりしながら、部屋をあとにした。
完全に気配がなくなって、ライリルムントは口を開いた。
「弟よ、楽しくやっているようだな」
面白がっている。
現在部屋に残っているのは、ライリルムント、グレイザック、サムエルとライリルムントの側近ザファムートの4人だ。
グレイザックは睨みつけながら、酒を注いでライリルムントに渡す。
「お前が俺の家族の前であんな饒舌なところを初めて見たぞ」
注がれた酒を一気に飲む。
「とてもいい影響だと思います」
サムエルは笑顔で口を挟んだ。
「仕事漬けだったグレイザック様が他人を気遣いながら生活しているのですから。しかもグレイザック様の昔を見ているかのような生活態度の彼女を改善しようと奔走しているさまはもう感慨深いものがございます」
サムエルは本当に嬉しそうに話す。
「食事もまともに摂らなかったグレイザック様が彼女の食事管理をするため、一緒に食事を摂るようになったのですから本当に良い影響でございます」
「他には、仏頂面のグレイザック様が笑うことがあるなんて!と、本館の者たちは言っておりました」
ザファムートも頷きながら話す。
赤髪の20代半ばくらいの青年だ。
「本館の廊下で、お2人がわいわい話しているのが目撃されております。グレイザック様が軽口を叩いているのを見て、皆が驚いているのですよ」
ザファムートが微笑む。
「楽しそうで何よりだ」
ライリルムントも酒をグレイザックに注いでやり、にやりと笑う。
「そんな感じの噂になっているのか…」
グレイザックは眉間に皺を寄せる。
「おかげでグレイザック様に話しかけやすくなった、と皆が言っております。お1人のときは流石に話しかけにくいようですが、リディがいるときは話しかけやすいようですよ」
ザファムートもニコニコしている。
何故かザファムートも愛称で呼んでいる。
リディオノーレと仲が良い証拠だ。
「だから、やたらと話しかけられるようになったのか」
グレイザックは更に皺を寄せる。
「勉強面もついてこれているのだろう?」
ライリルムントが尋ねる。
「ええ。分からないことを放置にはしませんね。納得いくまで自分で調べてから、それをまとめた上で尋ねてきますね」
最近酒を飲んでいなかったので、久しぶりの酒が美味い。
味わいながら酒を飲む。
「元々読書好きもあり、興味あることに対して貪欲に吸収していきます。最初に言った通り、普通に首席が取れます。難なくと」
グレイザックはグラスをまわす。
「懸念事項としては、彼女が学院入学後、自分で生活できるかが問題ですね。集中しすぎる所がありますので、のめり込むと寝食忘れてしまいます。グレイザック様もそうでしたが、本当に瓜二つです。そして、グレイザック様はグレイザック様で仕事漬けの日々に戻ってしまい、食事や睡眠もまともに取らないのではないかと思っております」
サムエルは真剣に述べる。
「2人揃うことでまともに普通に生活できているわけだな。確かにそれは懸念されるな。難題だな」
ライリルムントは顎に手をやり考える。
「まあ3年後の話なので、良いではありませんか」
グレイザックは話を切り上げようとする。
「サムエル、対策を考えておけよ」
ライリルムントはサムエルに命じる。
「御意」
「それはそうと、シャーリネーヴェは何故、あんなことを?」
グレイザックは心底面倒くさそうに述べる。
「……」
ライリルムントはため息をつく。
ザファムートとサムエルでさえ、やれやれ、と頭を振る。
「だが、よくお前が許可したな」
ライリルムントは驚いたことを述べる。
「……リディが休みをくれると言ったので」
グレイザックは目を逸らしながら言う。
「……師匠と言われたのが、どうやら嬉しかったようですね」
サムエルは苦笑しながら口を挟んだ。
「呼ばれたことなかったのか?」
「本日、初めて呼ばれました。リディなりに色々交渉内容を考えたようですね」
サムエルが思い出しながら笑顔になる。
「グレイザック様を頷かせるとはなかなかのやり手ですね」
ザファムートも褒める。
「いやはや、お前を笑わせることができる奴がいるとはな。賑やかでいいじゃないか。で、カルムクラインはどうなった?」
ライリルムントは急に声色を変えた。
「……まだ泳がせます。黒幕が尻尾をださないですね。出来れば、黒幕ごと一網打尽にしたいですが」
「そうか」
「まあでも一年ですね。一年以内には片を付けたいので、最悪カルムクラインだけでも粛清します」
「了解した」
ライリルムントは酒を飲み干した。
「あの娘はどうするつもりだ」
まっすぐグレイザックを見つめる。
「どうするも何もいつも通りです。仕事をしてもらいます」
話を聞く限りこれだけ甲斐甲斐しく世話をしている弟子に辛い現実を突きつけるらしい。
「大丈夫なのか」
ライリルムントは眉間に皺を寄せる。
「俺の弟子だ」
グレイザックは自信をもってそう答える。
「軽口を叩いてますが、使えるように育てているつもりなので。今日も俺の空気を読んで言葉を選んでいた。ある程度は育っている自信がある。あとは切り捨てる覚悟があいつにあるかどうかだ」
グレイザックは真剣な顔でライリルムントを見つめ返す。
「……兄はどうなっている」
「リディの言っていた通りでしたね」
自分で酒を注ぎ、自分であおるグレイザック。
「現領主夫妻により毒で倒れたようです。ほぼ毎日毒入りの生活だったようです。リディの食事まで毒が入ってたので防ぐために頑張ったようですが、許容量をこえて寝たきりに」
「……それだけでも大罪ですが」
サムエルの目が怖い。
「ああ。あともうひとつ。前領主夫妻は不慮の事故での死亡と聞いていたが、どうやら違うようです」
グレイザックの目が怖く光る。
皆が無言で先を促す。
「……現領主夫妻が暗殺したそうだ」
「!!!」
グレイザック以外が驚きを露わにする。
その3人の様子を見て、グレイザックは唇の端を上げる。
不穏な微笑みを見せ、「面白いだろう?」とそう言った。




