旅の予定
「なあ、サムエル。ドロゴルミットの話をしてくれ」
食事をしながら、グレイザックはサムエルに話を振った。
「何が聞きたいですか?大体は答えられると思います」
サムエルは2人にお茶を淹れながら返事した。
「そうだな……。ここからだとどれくらいで着く?」
「天馬で駆けて、国境門のところまでなら半日あれば」
「その国境門では何を確認されるのですか」
リディオノーレも尋ねる。
「名前だな。姓があれば、基本は問答無用で通してくれるが……」
そう言って、グレイザックはサムエルを見た。
「私は大丈夫ですよ。伝手がございますから」
サムエルは微笑んだ。
「本当か?」
グレイザックは失念していた、という顔でサムエルを見る。
サムエルは他の人と違って名前が短い。
その時点で元々貴族ではないのだ。
グレイザックが生まれる前から前領主の側近として働いているため、何があって側近として働くことになったのかまではグレイザックも知らない。
「本当ですとも」
サムエルが微笑むのでグレイザックは何も聞けなかった。
「ということは、やっぱりサムエル様はドロゴルミットの出身なんですね!」
リディオノーレが身を乗り出す。
「秘密です」
サムエルは微笑みで隠す。
リディオノーレは唇を尖らせながら、嫌いなおかずをグレイザックに移す。
グレイザックも無言でおかずを交換する。
「ドロゴルミットには、大型の魔獣が多いんですか?」
リディオノーレは質問を変えた。
「そうですね。お2人の犀の魔石はドロゴルミットで取れることが多いです。ここではあまり犀の出没を聞きませんしね。犀以上の魔石が欲しければ、ドロゴルミットをおすすめします」
「なるほど。では、象も出るんですか?」
「出ますよ。ドロゴルミットに遠征へ行けば、狩りの腕が否が応でも上がります」
サムエルは答える。
「そうなんですね!頑張ります」
リディオノーレは拳を掲げた。
「でも、リディ。今は剣を扱えないですよね?」
サムエルが尋ねた。
リディオノーレは、ぎく、と肩を揺らしてしまう。
「……やはり、そうでしたか」
「ご存知だったのですか」
「あれほど間近に剣の切っ先を向けられていましたからね」
「……すいません」
「謝ることではありません。リディが悪いわけではないですからね。では、鞭を重点的にやっていかないといけませんね。道中、私と訓練しましょう」
サムエルの提案に師弟2人は目を丸くする。
「サムエル様と、ですか?」
リディオノーレは聞き返す。
「そうです。因みに、鞭の方が得意です」
「……」
リディオノーレは目を瞬き、グレイザックを見る。
「いや、俺も知らん。俺の剣はサムエルから教えてもらったものだから、剣しか知らない」
「その事実にも驚きなのですが……」
リディオノーレはサムエルを見つめる。
「え、それだと、サムエル様の方が強いってことですか?」
「俺はそうだと思っている」
グレイザックが答える。
その答えにリディオノーレはまた驚く。
驚きの連発である。
「サムエル様が得体の知れない人物だということが分かりました」
「同感だ」
グレイザックも言う。
サムエルは微笑んでいるだけ。
「その大型魔獣が出る所まで国境門からどれくらいかかる?」
「そうですね……」
サムエルは顎に手をやり考える。
「ここらではドロゴルミットが1番広いですからね。近場の山でも結構大型が出ますが、やはり象や犀を狙おうと思えば北西の渓谷で、鯨を狙うならその渓谷を越えた先にある海になりますし……」
サムエルは考える。
「渓谷の入り口までは天馬で1時間もあれば行けますが、そこからは天候が安定しない所になりますので歩きになります。渓谷で大型を狩るまで狙うとしたら、3日くらいはみておいた方がいいですかね」
「ふむ。大型の巣穴まで辿り着くのに3日というわけか」
グレイザックも考え込む。
「そこから、海まではどれくらいになる?」
「渓谷を越えますからね……。しかも徒歩ですし。5日から7日はかかりますかね。グレイザック様なら強行しても良いですが、リディもいますから」
「なるほどな。では、短くても2週間かかるとみてるのは丁度いいくらいか」
「そうですね。鯨も狩れたら良いですが、なかなか現れないですからね。下手すると出現するまで1週間くらいかかったりしますし」
「ひと月ほどかかる可能性もあるわけか」
「私、何を準備しておけばいいですか?」
リディオノーレは少し不安な顔をする。
「身体強化をしたまま進むことになりますので、最低限の魔力だけを使った身体強化を。これに関してはそこまで心配していませんが、体力をつけておいて下さい。身体強化の反動がありますからね」
「分かりました」
「基本野宿になりますので、防寒具や保存食なども必要です」
「ということは、グランエール様にでも頼んで保存食をつくっておいてもらった方がいいというわけですね」
「そうですね。あとは肉を焼く網と鍋と携帯できる水入れと、フォークとスプーン、そして調味料ですね」
「了解しました」
「お皿や串などは葉っぱと木があれば何とかなりますので大丈夫でしょう」
本当に慣れたように話すサムエル。
どこかウキウキしている。
「包丁などは小刀に変えた杖で代用できますし。出来るだけ荷物は少なくして行きましょう。結構大変な道のりになる可能性が高いですが、大丈夫そうですか?」
サムエルはリディオノーレに尋ねる。
「分からないですが、魔石のためならやります」
「道のりが大変なだけか?普通は大型魔獣を倒す方が大変だと言うと思うがな」
グレイザックは口を挟んだ。
「何を言いますか。鬼畜師匠と悪辣非道の弟子がいれば全く問題ないでしょう?」
サムエルは言う。
「………お前、面白がってるな」
グレイザックは睨む。
「でも実際にそうでしょう?結婚式の時点であれだけの魔法を放っていましたしね。人相手でない分、好き放題出来ますから大丈夫でしょう」
サムエルはリディオノーレに向かって微笑んだ。
「やっぱり犀や象などになると難しくなるのですか」
「本来はな。騎士団が一丸となって臨むものだからな」
「でも、私とグレイザック様で倒せるのですよね?」
リディオノーレは首を傾げた。
「倒せると思いますよ。あなた達2人の魔力は桁違いですからね」
サムエルが答える。
「ですが、私自身すごい魔力が多いとは感じたことはありません。どちらかと言うと、私の方がよく枯渇しています」
リディオノーレは思い出しながら、苦い顔をして告げた。




