サムエルの謎
「お前の提案か?」
グレイザックはおかずをひょいひょいとリディオノーレの皿に入れながら尋ねた。
「はい。気分転換に」
リディオノーレもおかずを渡す。
「嫌いなものはもらいますが、これは食べてくださいよ」
リディオノーレは、むす、とした顔をする。
「お前、体重がまだ戻ってないだろ」
グレイザックが指摘する。
「私はいいんです!!」
「なら、俺にも気を遣うな」
「それは無理な話です」
「なら、食べろ」
リディオノーレは唇を少し歪ませながら、おかずを口に運んだ。
それを見て、グレイザックも食事に手をつける。
相変わらず互いに気遣う様子を見て、他の者は苦笑した。
「領主さまの側近のお仕事はどんな感じですか」
リディオノーレは尋ねる。
「普通だ。何ら変わらん。側近と言うより、執務の補助だからな。お茶出しなどはしていない」
「なら、私がそっちしましょうか?」
「いや良い。気にするな。俺の方が勝手を知ってるから早く終わる。あれに行くんだろ?」
グレイザックはパクパクと食べながら尋ねる。
どうやら、そこそこお腹がすいてたようだ。
「口を挟んでもいいでしょうか」
サムエルが言った。
グレイザックは無言で促す。
「あれに行くとは何でしょう?」
グレイザックはリディオノーレを見た。
『どう思う?サムエルは残しておいた方が執務が滞らないが』
グレイザックは念話を飛ばす。
『どうでしょうか。細かいことに気付くのはサムエル様ですし。執務は最悪フェルバール様とバルデミアン様がいれば最低限は出来ますよ?』
『確かにそうだな。お前はサムエルも連れて行くべきだと?』
『何でも補助してくれるのはサムエル様ですし』
『ならそうしよう。他に誰か連れて行くか?』
『んーーー』
考え込むリディオノーレ。
『というより、私の意見聞かなくても決めてもらって大丈夫ですよ』
その言葉にグレイザックは少し笑った。
少し間があいていたのでサムエルは怪訝な顔をしており、グレイザックはそこで念話を終わらせた。
「大事な話をするから聞いてくれ」
グレイザックはサムエルを見て、そして他の人も順番に見つめ、口を開いた。
「魔獣狩りに行きたいと思う。出来れば大型の」
「大型ですか。どちらに?」
ムナグレークが尋ねる。
「ドロゴルミットだ」
グレイザックの答えにリディオノーレ以外が驚く。
「そこで、だ」
グレイザックは口を開く。
「俺とリディは行くのだが、俺たち2人がいない間に執務も滞りなく進めておいてもらう為、アインズビルに残ってもらう人員も必要なわけだ」
「私は残ります。小屋番もありますので」
ムナグレークが答えた。
フェルバールとバルデミアンが互いを見て、その後にサムエルを見つめた。
「サムエル様はどうされますか。サムエル様が魔獣狩りに行くのであれば、執務の腕を考えると私たち2人は残るべきだと思うのです。それにサムエル様はお強いですし」
フェルバールが答える。
皆がサムエルを見つめた。
サムエルはひとつ咳払いをすると、「私がついて行ってもよろしいですか」とグレイザックに尋ねた。
グレイザックは片眉を上げながら、口を開いた。
「どうした、サムエル。何か嬉しいのか?」
「いえ。少し、懐かしいな、と思いまして」
サムエルはにこりと微笑んだ。
「サムエル様はドロゴルミット出身なのですか!?」
リディオノーレは目を瞬く。
「秘密です」
サムエルは爽やかな笑みを見せた。
「……まあ、喜んでいるようで何よりだ。俺の執務が片付き次第、出発する」
グレイザックはサムエルの様子に少し引きながら、そう言った。
「執務は残るお前たち3人で上手に振り分けろ。きついかもしれんが、大分先の書類まで終わらせて行く予定だから1つずつ確実に、丁寧にやれば大丈夫だ」
「かしこまりました。何とかなるでしょう」
ムナグレークは答える。
「日程はどれくらいで考えてらっしゃる感じですか」
バルデミアンが尋ねる。
「そうだな。長くて1ヶ月。早ければ2週間くらいか」
「分かりました。頑張ります」
バルデミアンが答えた。
「因みに行ったことがないからどれくらいかかるか知らんがな」
グレイザックは言う。
「先程仰った日程くらいでしょう。ひと月くらいは余裕みておいた方がいいですね」
サムエルが答えた。
「ドロゴルミットに詳しいんですか?」
リディオノーレは尋ねる。
「この中では私が1番詳しいかと。案内できると思いますよ。魔獣狩りなら特に」
サムエルは微笑んだ。
グレイザックはサムエルを見つめる。
「………俺はサムエルの過去を知らんからな。気になる所だが、まあ追々聞くとしよう」
グレイザックは唇の端を上げて、そう言った。
「気になりすぎます」
リディオノーレも唇の端を上げる。
「まあまあ、追々聞いて下さい。さあ、ご飯を食べ終わりましたら甘味がありますので、リディ、お茶を」
サムエルは命じる。
「はい!」
リディオノーレは慣れた手つきで甘味に合うお茶を淹れる。
そうして、皆で束の間の休息を楽しんだ。
「片付けはしておきますので、先に帰っていていいですよ」
サムエルが言う。
「ですが、私が立案者ですし」
リディオノーレは譲らない。
「子どもは寝る時間です。今でさえ、まだ少し皆より背が低いのですから、いっぱい寝て大きくなって下さい」
フェルバールが母親のようなことを言う。
「ですけど…」
「折角早く仕事を終わらせてきたグレイザック様を接待するのがリディの役目ですよ」
バルデミアンも彼女の背中を押す。
「グレイザック様を少しでも休めて差し上げて下さい。肩でも揉んではどうですか」
ムナグレークが提案する。
「いいですね!やってきます。ありがとうございます!」
リディオノーレは皆に礼を言い、待ってくれているグレイザックの元へ駆けて行った。
師弟2人が城内に姿を消したのを見て、サムエルに他の3人が詰め寄る。
「サムエル様の過去、聞かせて下さい」
フェルバールがずい、と身を乗り出す。
「私も聞きたいです」
バルデミアンも身を乗り出す。
「是非、私も。気になります」
ムナグレークも微笑む。
サムエルは3人に問い詰められたが、のらりくらりとかわしながら曖昧に答えたのだった。




