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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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仕事人間のグレイザック




全ての手紙の返事を終えたリディオノーレは、当分執務に追われる羽目になった。

正直、執務から離れて1週間半くらいしか経っていなかったので、執務の勘を取り戻すのは早かった。


「丁度よい。リディオノーレも帰ってきたことだし、グレイよ、側近として働け」

領主に命じられ、グレイザックはライリルムントの側近になった。


そして、リディオノーレはグレイザックの位置についた為、仕事が増えた。

彼女の側近としてサムエルがつき、フェルバールとバルデミアンは護衛として仕事に就いた。

ムナグレークは時々執務の補助をしてくれる。


執務をし始めて1週間経った頃、リディオノーレは流石に愚痴をこぼした。


消灯の鐘が鳴り、少ししてからグレイザックは領主の執務室から出てきた。

彼は部屋を出た瞬間、待っていた人物に目を瞬く。


「何してる」

グレイザックは眉間に皺を寄せながら尋ねた。

「グレイザック様を待ってたんです」

リディオノーレは腕組みをしながら答えた。


「ずっとお帰りが遅いのを気にしてらっしゃったのですよ」

彼女と一緒に待っていたサムエルが説明する。


「にしても、寝る時間だ」

グレイザックはため息をついて、彼女の額を弾いた。

「グレイザック様も寝る時間です。いつまでも仕事し過ぎですよ」

リディオノーレは少し怒りながら言った。


「俺のことは良い」

グレイザックはまたため息をつくと「ほら帰るぞ」と言ってスタスタ歩き出す。

リディオノーレは少し走って、彼の隣に並んで歩く。

隣に並ぶと、グレイザックは歩く速度を彼女に合わせてくれる。


そんな小さな気遣いに、サムエルは背後を歩きながら感心していた。


「遅くまでリディに付き合わせて悪かったな」

自室に着いたグレイザックはサムエルにそう言った。

「いえ。大丈夫です」

サムエルは笑って答え、その場を辞した。


部屋に入ったグレイザックは自身に洗浄魔法をかける。


「先に寝てろ」

グレイザックはそう言って書類を読み始める。

「何やってるんですか。流石に寝ますよ。ここ1週間、ずっと睡眠時間が少なすぎます」


リディオノーレはまだ怒っている。

グレイザックを側近として召し抱えるのはいいけれど、帰りが遅すぎる。

リディオノーレはグレイザックが仕事を早く終わらせられるように、必死に頑張っているのに全然効果が現れていない。


「もう少しの辛抱だ。ちょっと待ってろ。休暇を取るために今前倒しで仕事をしている」

「………本当ですか?」

リディオノーレはまっすぐ彼を見つめた。


「ああ。ちょっと待ってろ」

グレイザックは彼女の頭を撫でた。


「早く帰ってきてください。寂しいです」

帰ってくるまで基本待っているリディオノーレだが、たまに寝落ちしてしまう。


「そういうのは素直だな」

グレイザックは苦笑した。

あまりにも素直に言い過ぎだが。


「じゃあ、これだけ読むから待ってろ」

グレイザックは書類をぱらぱらと流し読みする。

それで読めているのか疑問だが。


「よし、寝るか」

グレイザックは長椅子に寝転んだ。

リディオノーレも布団にもぐる。


「ドロゴルミットに行く前に少しだけ手合わせするぞ」

「……分かりました」

「あまりやってないと鈍るからな。明日の夜、少しやるか」

「夜?ですか?」

リディオノーレは目を丸くする。


グレイザックは仰向けで寝ていたが、彼女の方に横向きに姿勢を変えて、口を開いた。


「人目を避けた方がいいだろう?あの事件から剣先を見たか?」

「いえ…」

正直、あの突きつけられていた剣の切っ先を見たくない。


「なら、人目を避けた方が良い」

グレイザックは彼女の頬を手の甲で撫でる。

「夕の鐘から2時間待っててくれ。絶対に仕事終わらせるから」

「その台詞、絶対終わらないやつですよ」

リディオノーレはくすりと笑う。


「終わらせると言ったら終わらせる。大丈夫だ。訓練場で待ってろ」

撫でている手をリディオノーレは握る。

「あまり無理しないでくださいね」

グレイザックが毎晩遅いのを知っているが故に、体調も気になる。


「俺のことは良い」

「私も頑張ってるつもりなんですけど、全然グレイザック様の負担が減っていなくて自分の無力さが嫌になります」

手を握る力が少し強くなる。


「いいから自分のことだけ気にしてろ」

グレイザックは言う。

リディオノーレが十分、頑張っていることはよく分かっている。

グレイザックに上がってくる書類を減らし、出来るだけ簡単な状態にして、ほぼ決裁だけで済むよう仕上げて持ってきている。


領主に持っていく書類はそのままだが、グレイザックだけには決裁だけで済むように差別しているのを知っている。

だから、先々の書類に取り掛かることが出来ているので、それは褒めるべきことだった。


「お前も頑張りすぎだ。あまり無理するな。サムエルから報告を受けている」

「あれくらいなら全然。グレイザック様の方が心配です」

「だから、俺のことはいい」

グレイザックは息を吐き、続ける。


「本当に頑固だな」

「グレイザック様に言われたくないですけどね」

リディオノーレは唇を尖らせた。


そして、ぎゅ、と一段と強く手を握った。


「寝るぞ」

グレイザックは手を握られたまま、仰向きになった。

「魔法かけてやろうか」

「大丈夫です。寝れますよ」

リディオノーレはくすりと笑って目を閉じた。




翌日。

夕の鐘から2時間後、グレイザックは訓練場に現れた。

「………」

グレイザックは訓練場を見て、目を瞬く。


「何だこれは」

机や椅子やら用意してあり、食事まで運んであるではないか。

流石のグレイザックも驚いた。

それにいつもの面子も揃っている。


「はいはい、どうぞどうぞ」

リディオノーレは椅子を引き、グレイザックに席をすすめた。

グレイザックはすすめられるがままに腰を下ろした。


「サムエル様」

リディオノーレに呼ばれ、サムエルが食事を取り分けた皿をグレイザックの前に置く。

飲み物はムナグレークが注ぐ。


「お仕事お疲れ様でした。では、皆さんも一緒に頂きましょう」

リディオノーレが声をかける。


サムエル、ムナグレーク、フェルバールにバルデミアンが着席し、リディオノーレが最後にグレイザックの隣に腰を下ろす。


気心が知れた面子での外での食事が始まった。




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