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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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少しのお説教と回復薬のこと




「その通りです。リディ、どれだけ没頭しても構いませんが、寝るのと食べるのは忘れてはいけません」

サムエルが言う。


「……すいません」

リディオノーレは唇を尖らせた。

夢中になったら、そんなことなど頭から抜け落ちるのだから。


「そして、グレイザック様」

サムエルがグレイザックに呼びかける。


「師匠として、もう少し弟子の生活面にも気を配って頂けると助かります。仮にもリディは女性ですので、生活面は気を遣うべきです」

「仮にもって何ですか、仮にもって……」

リディオノーレは拗ねたように呟く。


すると、またグレイザックから膝をはたかれた。


「こいつの集中っぷりは俺には止められん。管轄外だ」

グレイザックはそう答えた。

「管轄外だろうが何だろうが、この帰領している間にそういう所を強制的に直すようにして下さい。これでは側近が困りますし、たくさんの嘆願書や報告書が届いて執務が滞りますので迷惑です」

サムエルは言い切る。


グレイザックは長い息を吐いたのち、リディオノーレを見た。

そして、サムエルを見る。


「………はぁ、リディ」

グレイザックに呼ばれ、リディオノーレは彼を見た。


「学院で別に調合しようが何だろうが構わん。だが、今度また同じことがあれば調合を禁止とする」

「ぅええええええ!!!!!」

リディオノーレはそれはもう大声を上げた。


「ええええ!無理ですよー!調合禁止されたら、私禁断症状出ちゃいます」

「……禁断症状って何だ」

グレイザックは片眉を上げて尋ねた。


「……咄嗟に出た言葉なので、聞かないでもらえるとありがたいです…」

リディオノーレは肩をすくめながら答えた。

そのやり取りに「ぷ」と吹き出すムナグレーク。


「んもうっ!」

リディオノーレは拗ねる。


「相変わらず仲が良くて何よりです」

ムナグレークは笑いながら口を挟む。

「アラウィリアからたくさん手紙が届いていますよ」

ムナグレークは手紙の束を取り出した。


「お、届いたか」

グレイザックは身を乗り出す。

「何のお手紙ですか?」

リディオノーレは尋ねる。


「お前の回復薬の感想だ。どこがどう違うか詳細に書けと命じておいた」

「!!!届けてくれたんですね!!」

リディオノーレは喜び、同じく身を乗り出す。


2人の同じ態度にムナグレークは更に笑った。

「似た者同士ですね。アブストール達は困ったようですよ。色んな素材で回復薬をつくりすぎだ、と呆れていました」


「一体、どんな回復薬をつくったのです?」

フェルバールが尋ねる。

「では、お先にどうぞ」

ムナグレークがフェルバールに渡す。


「ええ!先に作成者に見せてくださいよー!」

リディオノーレが抗議する。

「見せたら、集中してまた周りの声が聞こえなくなるでしょう?」

ムナグレークの言葉に彼女は「う」とたじろいだ。

よく分かっている。

「なので、また後で見て下さい」


フェルバールはひと通り見た後、すぐムナグレークに手紙を返した。


「私には分かりません」

フェルバールが苦笑しながら感想を言った。

「バル、ちょっと見てみろ」

フェルバールの言葉にバルデミアンも手紙を覗く。


少し読み進めると、バルデミアンも苦笑し、リディオノーレを見た。

「一体、何故ここまでして回復薬の研究をしているのですか」


「………」

バルデミアンの質問にリディオノーレは苦笑いになった。

サムエル達は彼女が研究好きだから、そんなことをしていると思っているが、バルデミアンはどうやら何か引っ掛かったらしい。


「……意図があるのか?」

グレイザックが少し目を丸くして尋ねる。

「……えへへ」

リディオノーレは笑って誤魔化す。


何か言えない理由があるのだろうか、と皆が疑問に思う。


「言え」

グレイザックは鋭い目で彼女を見つめる。

リディオノーレは思わず距離を取るため、椅子の端にじりじりと寄る。


「……」

グレイザックは無言で追い詰める。

彼女は落ちるように椅子から立ちあがると、サムエルの後ろに隠れた。


「ほら言え」

グレイザックは執拗に彼女を追いかける。

リディオノーレはサムエルの背後から少しだけ顔を覗かせる。


「何でもいいじゃないですか」

「よくないだろ」

「好きにさせてください」

「お前の好きにさせたら、周りの被害がすごい」

「そんなことないです」

「それに理由が分かれば、俺も手伝えるぞ」

「駄目です。私1人でやるんです」

「何故だ。俺も手伝った方が早いだろ?」

「それは分かってます。でも、グレイザック様に手伝ってもらうと意味ありません」

「??」

グレイザックは眉間に皺を寄せる。


「………グレイザック様に知られたくない?」

サムエルがそう呟き、考え込む。


「言え」

グレイザックは鋭く言い放つ。

「嫌です。長期的計画なんです。どうせ、いつか分かりますよ」

リディオノーレが拗ねた顔でサムエルの後ろから告げる。


グレイザックは彼女が隙を見せた瞬間に頬を引っ張った。


「いぃぃぃだぁいですーーーーっ」

彼女は悲鳴を上げる。

「ほら、言え」

片頬をつねり上げられ、リディオノーレはグレイザックを睨んだ。


「………」

2人は睨み合う。


グレイザックはつねる手に少しずつ力を込めていく。


「…っ」

リディオノーレは痛さに顔を歪める。

「言え。読心術をかけるぞ」

「っ!!」

リディオノーレはますます彼を睨み上げる。


そして観念してゆっくりと口を開いた。


「……ナックルンドとルングです」

「???」

皆が首を傾げた。


「どういうことだ」

「ナックルンドのルングと言えば、現存する回復薬の最高級の素材ですよね」

サムエルが口を開いた。


「それしか言えません」

リディオノーレは口を閉じた。


グレイザックは頬から手を離す。

「………お前、ルングに代わる回復薬をつくろうとしてるのか」

グレイザックは考えたのち、そう口を開いた。

リディオノーレは膨れっ面のまま、ゆっくりと頷いた。


その答えを聞いて、グレイザックは苦い顔をし、サムエルは「ああ…なるほど」と呟いた。


ルングは高値で取引される。それに媚薬成分を持つ素材。それはグレイザックを貶めた素材である。

ルングに代わるものが発見されれば、その価値は下がり流通も減る。それにナックルンドと取引しなくて済む。


「お前は……」

グレイザックは呆れる。


サムエルは彼女を見て思わず微笑む。

彼女ならいつか大発見をするかもしれない。


グレイザックは額を押さえて呻いているが、でもどこか嬉しそうな顔をしていた。


「お前は本当に……」

「ルングのルの字も聞きたくありませんからね」

リディオノーレは腰に手を当てて言う。

そして、続ける。


「私のグレイザック様を貶めた罪は重いです。絶対に許しませんし、師匠の言った通り、彼の国は滅ぼしたいほど憎いです」

リディオノーレは真剣な顔で告げた。


グレイザックは苦笑すると彼女の頭を撫でた。


「馬鹿だな、お前は」

グレイザックは笑いながら彼女の額を弾いた。

グレイザックの嬉しそうな顔を見て、彼以外も思わず微笑む。


リディオノーレがどれだけグレイザックのことを想っているのかよく分かり、それをグレイザックも受け止めているのがよく分かるからこそ、この2人には幸せになって欲しいとこの2人以外の4人は常に思っている。


「お前は彼の国を滅ぼしたいなら、どういう作戦を取る?」

グレイザックは尋ねてみた。

「今はまだ思いつきません。ただ、ザファムート様がやっていた通り、潜入が1番良いのかもしれません。でも、潜入は死ぬ確率が高いので誰にもやって欲しくないです。自分がやる分には構いませんが」

リディオノーレはそう答えた。


その答えにサムエルは思わず息を呑んだ。

グレイザックも苦笑いである。


「やっぱり、そうか」

グレイザックはそう答えるとまた彼女の頭を撫でた。


「お前たちに執務、任せて良いか。アラウィリアからの手紙を読みたい。リディと部屋にこもる。何か連絡があれば言ってくれ」

グレイザックはそう言って、リディオノーレと自室に戻って行った。


2人がいなくなり、サムエルは息を吐く。

「説教が説教でなくなってしまいましたね」

「……リディは本当に回復薬でルングを上回ろうとしているのですか」

バルデミアンは呟く。

「恐らくそうでしょう。そして、それは世紀の大発見になります」

サムエルは答える。


「そこまでいくと彼女の価値がこれ以上ないくらいに上がります」

バルデミアンはそう言った。

「??確かに」

ムナグレークは首を傾げながら頷いた。

「リディはどうするつもりなのでしょう。目立ちたい性格ではないはずです」

バルデミアンは言う。


「……確かに。え、いや、まさか……」

サムエルは少し思い至ることがあり、まさか、と呟く。

「まさか………ね。そんなことはないでしょう」

サムエルは1人呟いた。




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