相変わらずのリディオノーレ
その日の夜、寮に戻ると点呼も済ませ、全員がいるのを確認されると、自分に与えられた部屋に入ることが出来た。
リディオノーレは早速結界をかける。
部屋全体は魔力をたくさん使うため、扉の前にだけ結界を設置する。
四隅に魔法陣を描き、魔力を流す。
因みに用心のため、重ね掛けをしている。
その準備が出来たら、部屋の床にグレイザックに描いてもらった魔法陣の紙を置き、魔力を流した。
すると陣が浮かび上がる。
紙をどけ、陣を床に貼り付けた。
とりあえず、その魔法陣の上に薬瓶を置く。
陣に杖を当て、魔力を流して「ディプレビール」と唱え、発動させた。
すると薬瓶が入っていた箱が消え去った。
「うわ。魔力すごい吸われた……」
リディオノーレは驚く。
すると、魔法陣がすぐに光り、手紙の返信が来た。
「わ!」
彼女は嬉しくて慌てて手紙を見る。
手紙と言っても紙きれだが。
「……もっと何か書きようがあるでしょう」
リディオノーレは笑ってしまう。
そこには「寝ろ」と書いてあった。
彼女は「おやすみなさい」と手紙を返して、布団にもぐった。
消灯の鐘が鳴り終わり、そろそろ連絡が来るだろうと思って読書をして待っていたグレイザックは案の定、転移の魔法陣が光ったのを見て笑った。
送られてきた薬瓶の数を見て、また笑う。
「一回でこれだけつくるとは、やりすぎだろ」
まあ全て学院の素材だったらしいから良しとするが。
これは全て基本の魔力回復薬である。
言わば、教科書通りの回復薬だ。
心配ごとはたくさんあるが、とりあえず今は消灯の時間も過ぎたし、「寝ろ」と手紙を送っておく。
当分は授業があるだろうから、調合するのは日があくだろう。
すると「おやすみなさい」とわざわざ手紙を送り返してきた。
「無駄に魔力を使うな、馬鹿が」
この魔法陣、かなり魔力を吸うのだ。
わざわざ送り返してこなくていいものを。
グレイザックはそう思いながらも、少し嬉しかった。
翌日、陽が昇る前に目覚めたグレイザックは魔法陣で手紙を送った。
朝起きたリディオノーレは、手紙が届いているのを見て跳ね起きた。
「授業をきちんと受けてこい。試験まで受けてから調合を始めるように」と書いてある。
「………ということは、早く試験を終わらせろってことですか」
リディオノーレは俄然やる気が湧いたのだった。
身支度をして、結界を解除し、扉を閉める。
貴重品は身につけているので、部屋に侵入した所で何もないし、魔法陣は絨毯で隠しているので分からない。
部屋を出るとスティルナーデが待っていた。
「ご飯行くわよ」
「あら、スティルナーデ様がいるなら大丈夫ね。行ってらっしゃい、リディ。きちんと授業受けてくるのよ?」
シャーリネーヴェはそう言って、2人を見送った。
フェルバールとも合流したのち、食堂で食事を摂り、はじめての授業へと向かった。
側近は皆、授業中の間は自由時間になる。
フェルバールにとっては息抜きの時間だ。
今日初めての授業は素材の授業だった。
担当は勿論、アリウォーナである。
席はどこでも自由に座れるようで、リディオノーレの右にスティルナーデ、その右にアングロードが着席した。
周囲の生徒がリディオノーレを見て何か囁いているが、害はないので放置である。
配布された教科書をすぐさま開けてリディオノーレは中身を確認する。
グレイザックに見せてもらった内容と全く一緒だった。
とりあえず、アリウォーナによる授業が始まったが、リディオノーレは回復薬の代替素材になりそうな素材が他にないか、教科書をめくり探す。
アングロードは真面目に聞いているが、スティルナーデはもう眠そうな顔をしていた。
アングロードがすかさず妹を注意する。
リディオノーレはそんなの知ったこっちゃないので、授業を聞いている振りを続けていた。
「……ノーレ様!」
「リディオノーレ様!!」
「リディオノーレっ!!!」
誰かが大声を出している気がするが、リディオノーレには届かない。
「リディオノーレ様」
アングロードも彼女を呼ぶがリディオノーレには気付かない。
アリウォーナが彼女のところに近付いてきて、読んでいた教科書をいきなり閉じた。
「あぁ!!!!!」
リディオノーレは大声を出して閉じた相手を見た。
「……先生じゃないですか、何するんですか」
リディオノーレは抗議する。
「名前を呼んでいるのに反応が無いからです」
「え?呼ばれてました?」
リディオノーレはアングロードを見る。
スティルナーデは机に突っ伏して寝ていた。
「呼ばれていました……」
アングロードは申し訳なさそうに述べた。
「何でしょう?先生」
リディオノーレはまっすぐ先生を見つめる。
折角読んでいたのに邪魔をされて、少し拗ねていた。
「話を聞いていらっしゃいましたか?スティルナーデ様も起こすように言ったのですが」
「すいません、教科書に集中していました」
「………何の授業をしていたか分かっていますか」
アリウォーナに聞かれ、リディオノーレは前を見る。
書かれていることを見て、リディオノーレは何のことか分かると普通に答える。
そのスラスラ答える彼女に周囲が驚嘆する。
「………本当によくご存知なようで」
アリウォーナはため息をつく。
「スティルナーデ様はあとで補講です」
アリウォーナはアングロードに言う。
「分かりました。伝えておきます」
アングロードもため息をついた。
「先生」
リディオノーレは呼びかける。
「試験はもうつくってあったりしますか?」
「!!!!」
その質問に一斉に皆がざわついた。
「………3日、お待ち頂けますか?」
アリウォーナはこめかみを揉む。
この授業は覚える量が驚くほど多いので、一年を通して習う授業なのだ。
試験は最後である。
「3日ですね?3日後の夕食後で構いませんか?試験お願い致します」
リディオノーレの言葉に皆が「そんな馬鹿な!」と声を上げる。
「この量を覚えているというのか!?」
「そんなわけないだろう!?」
「嘘よ絶対に!!」
「あのグレイザック様の弟子だと言っても流石にこれは嘘よっ!!」
リディオノーレは面倒くさいな、と思ってしまった。
口には出さなかったつもりなのだが、口に出してしまっていたらしい。
「面倒くさいだと?」
「あれ、言ってました?」
リディオノーレはアングロードに尋ねる。
アングロードは困った顔で頷いた。
「………あー、もう。なら何か問題出して下さいよ。全部答えますので」
リディオノーレは面倒くさそうに言い放った。
周りの生徒が次々と頁の後ろの方から問題を出してくる。
しまいには、アリウォーナでさえ問題を出す始末。
しかもアリウォーナは教科書に載っていない問題も出してきた。
「………それ、載ってませんよね?回復系は載ってますけど、痺れ薬みたいな使う用途が限られていることは学院で習いませんよね?攻撃魔法を教えないのと一緒で」
リディオノーレはアリウォーナを見た。
アリウォーナは唇の端を上げる。
「よくご存知ですね。でもお分かりなるんでしょう?」
「分かりますけど。だって、天馬合戦に使えますからね」
リディオノーレは答える。
喉専用の痺れ薬もつくったことがあるのだから。
あまりにもスラスラと答えるリディオノーレに周囲の顔がどんどん引き攣っていく。
「……これくらいでいいしょう。よく分かりました。規格外なのがこれで皆さんもお分かりでしょう。学院長から許可をもらい、試験をつくりますので3日お待ち下さい」
「分かりました。よろしくお願い致します」
リディオノーレは内心でやった!と喜んだ。




