手紙
リディオノーレはフェルバールの小屋に一旦向かうと、グレイザックへ手紙を書く。
今日既に20本回復薬ができたので、それを送るための転移陣が必要なこと。
その転移陣を教えてほしいと書く。
あとは、回復薬をつくるのに代替品になりそうな素材をアリウォーナから貰ったことも。
もしかしたらアリウォーナからその素材のことについて尋ねられるかもしれない、と一応書いておく。
あとは仕事はほどほどに、と添えて締めくくる。
「これ、手紙お願いしてもいいですか。素材は全部、この革袋に入れてもらってもいいですか」
グレイザックからもらった収納魔法の革袋に素材を全て入れてもらう。
そして、薬瓶を持って、リディオノーレは女子寮へと向かう。
「リディオノーレ様」
フェルバールは慌てて声をかける。
「シャーリネーヴェ様をお呼びして頂いてもいいですか」
「???分かりました」
リディオノーレは疑問に思いながら返事して、寮へと入って行った。
寮に入ったのをきちんと確認すると、フェルバールも小屋に入って手紙を書き連ねる。
初日からアリウォーナに調合器具を借り、調合をしたこと。
アングロードもそこに居たこと。
素材をたくさんもらったこと。
回復薬の代替素材になる物ももらったこと。
アリウォーナからそのことについて尋ねられるかもしれないこと。
「………突っ走りすぎです……」
フェルバールは苦い顔で呟く。
そして、自分とリディオノーレの手紙を使役獣の小屋番のところに持って行き、鷹にくくりつけて飛ばした。
少しすると、シャーリネーヴェが側近と共にフェルバールの元に訪れてくれた。
「ご足労おかけしまして申し訳ありません」
フェルバールは先に謝り、本題をすぐに告げる。
「毎回の食事の時間、出来ればリディオノーレ様を誘ってこちらまで連れてきていただけると助かります」
それを聞いて、シャーリネーヴェは苦笑した。
「分かったわ。とりあえず昼食に誘ってくるから待ってなさい」
シャーリネーヴェが承知してくれたので、フェルバールは安堵した。
「グレイザック様、鷹が来ています」
サムエルが執務室の窓から外を見て声をかけた。
「?」
グレイザックが訝しがる。
鷹は小屋番であるムナグレークの元に降り立った。
ムナグレークは差出人を確認すると、下からグレイザックの執務室の方を見上げた。
「……俺宛てのようだな」
グレイザックは降りるぞ、とサムエルに声をかけてムナグレークの元に向かった。
「どちらもグレイザック様宛てです。1つはリディから。1つはフェルバールからです」
ムナグレークが手紙を渡す。
「サムエル、フェルからのを読んどいてくれ」
グレイザックはフェルバールからの手紙をサムエルに渡した。
読み終えると今度は互いの手紙を交換する。
どちらのも読み終え、グレイザックはムナグレークにも手紙を読め、と渡す。
そうしていると、もう一羽、鷹が飛んできた。
「人気者ですね」
ムナグレークは苦笑しながら、その鷹からの手紙をグレイザックに渡した。
「アリウォーナからだ」
グレイザックは少し驚いて中身を読む。
「……めんどくさいな。アリウォーナのは後回しだ」
グレイザックはアリウォーナからの手紙を読んで、そう言った。
「すぐに返事を返す」
グレイザックはそこに筆と紙を取り出した。
筆は勿論、リディオノーレから貰ったものである。
荷物を運ぶための転移陣を紙に描いていく。
それを2枚。1枚は自分で持ち、1枚は返信用だ。
次にフェルバールへの返信を書く。
試験を受けれると判断したら、さっさと試験を受けてすぐさま実験をする可能性がある為、部屋にこもりきりにならないように注意を促しておく。まあ無理だろうが。
アリウォーナからのことは気にしなくていいと書くと、ムナグレークへと渡す。
「頼んだ」
グレイザックは手紙を託すと執務室に戻って行った。
「………これは、先行きが不安ですね」
サムエルが執務室に戻りながら話しかける。
「まあ、予想の範囲内だからマシだな。ここからが大変だぞ。何かに集中し始めるとあいつは寝食を忘れるからな」
「………女性の側近がいれば良かったのですが」
サムエルは嘆く。
「何もなければ良いが」
「……そんなはずないでしょう」
サムエルが突っ込む。
「だよな」
グレイザックはからりと笑う。
授業に少しでも食いついて、楽しいと思ってくれれば穏やかに済むのだが、はてさてどうなることか。
グレイザックは思わず笑ってしまった。
学院では、昼食をシャーリネーヴェと共に摂っていたリディオノーレの所にアリウォーナが手紙を持ってやってきた。
「あ!もう返ってきたんですか!」
リディオノーレは嬉しそうにアリウォーナから手紙を受け取った。
彼女に対する返信は転移陣だけだった。
リディオノーレは見たこともない魔法陣に目を細めた。
普通の転移陣とはまた異なる変わった魔法陣だった。
「グレイザック様は何と?」
フェルバールが尋ねる。
「魔法陣を描いて送ってくれただけです」
もうちょっと何か返信書いてくれたらいいのに、とリディオノーレは思った。
フェルバールは自分宛てにも届いた手紙を読んで、頭を抱えた。
寮にこもられたら、彼は何も手出し出来ない。
難題である。
昼食を隣同士で摂る彼女たちの向かいにアリウォーナは腰を下ろし、口を開いた。
「シャーリネーヴェ様、あなたが言っていたことがよく分かりました」
「何かありましたか?」
シャーリネーヴェは尋ねる。
まだ初日でさほど時間も経っていないのに。
「調合の様子を見せてもらったのです」
「………」
シャーリネーヴェはちらりとリディオノーレを見る。
そして、次にフェルバールを見た。
彼女はため息をつくと、アリウォーナに向き直った。
「一体、何の調合を?」
「回復薬です」
「………リディ」
シャーリネーヴェは呆れたように彼女を呼ぶ。
「何ですか?」
リディオノーレは首を傾げた。
「下級生で調合を出来る者はいないわ」
一応、一般常識を教えておく。
「あれ?素材を習うのは下級生ですよね?なら、調合もするのでは?」
リディオノーレは記憶を辿るが、どれが下級生で、どれが中級生で、どれが上級生の授業内容かちゃんと知らなかった。
「………困ったわ。グレイザック様が詰め込ませすぎなのよ……」
シャーリネーヴェが頭を抱える。
「まあいいわ……。苦労するわね、フェルバール」
シャーリネーヴェは同情する。
フェルバールは苦笑しながら頷いた。
「寮内では私が見張っておくわ。授業中はアングロード様に言っておいた方がいいわ。彼ならしっかりしてるし」
「助言ありがとうございます」
「それでは私はこれで。明日の授業でお会いしましょう」
アリウォーナは去って行った。
「今日はどうするつもりなの?」
シャーリネーヴェが尋ねる。
「図書室に行きたいです」
「夕食も一緒に食べましょう。だから、夕の鐘が鳴れば帰ってくるのよ?」
「はい」
リディオノーレは元気良く返事して、フェルバールと共に図書室に向かった。
そして、案の定、図書室に浮かれるリディオノーレは、夕の鐘が鳴ったのも気付くわけもなく、フェルバールに本を取られるまで集中しまくっていた。




