案内
寮に入ると、在学生たちが待っていた。
「寮監は私、アリウォーナですが、私がいない時はこちらのアインズビル領主息女のシャーリネーヴェ様にお尋ね下さい」
アリウォーナがシャーリネーヴェを紹介する。
「何か分からないことがあれば、聞いてくださいね」
「リディオノーレ様はアインズビルご出身ですからご存知ですよね?」
アリウォーナがリディオノーレに話を振る。
彼女は思わず嫌そうな顔をした。
気配を消して、新入生の真ん中辺りに紛れ込んでいたのに名指しされたら前に出るしかないではないか。
「お姉様、と慕っております」
リディオノーレは答えた。
彼女がリディオノーレなのね!と一瞬でそこに居た者に周知された。
少しざわめきが起こるが、リディオノーレは知らんぷりしてスティルナーデの隣に戻った。
「はい」
アリウォーナは一回手を打つ。
静まり返ったのを確認し、アリウォーナは寮内の説明を始めた。
「こちらは共用場所ですので丁寧に使用して下さい。そちらにある本棚にある本も共用なので、破ったり汚したりしないように」
「先生!」
リディオノーレが手を挙げた。
今、すごくいいことを聞いた。
「そこの本、読みあさってもいいということですか!?」
「構いませんよ」
「ありがとうございます!」
リディオノーレは嬉しくなった。
次にアリウォーナは新入生たちの部屋の一室のつくりを説明する。
ひと通り説明しおえると次は学院内の案内に移った。
その際はフェルバールも同行する。
とりあえずリディオノーレが覚えたのは、図書室と実験室だ。
あとはフェルバールが覚えていてくれるはずである。
「……懐かしいですね」
フェルバールは校内を一緒に歩きながらそう呟いた。
「フェルバール様がいた時と何も変わってませんか?」
「変わってないですね」
「じゃあ、教室までの案内とかお願いしますね」
リディオノーレはお願いしておく。
「……その顔は図書室しか覚えていませんね?」
フェルバールは眉間に皺を寄せながら尋ねた。
「失礼な。実験室も覚えました」
リディオノーレは唇を尖らせて答えたのだった。
リディオノーレと違い、スティルナーデはもの珍しそうに色んなところに興味津々の様子でアリウォーナの説明を聞いている。
積極的に質問したりする場面も窺えた。
「学院内の案内はこれで終わります。側近の方々もここの出身者が殆どの筈ですから、側近の方がいれば迷わないでしょう。今日はこれで終わりです。明日から早速授業になります。授業予定は広間で配布した書類を確認して下さい。教科書は各授業のはじめに配布されます」
「次に、昼の鐘が鳴りましたら昼食になります。食事は食堂でお願いしますね。夕食も同じく。消灯の鐘には必ず寮に戻っておくこと。点呼も取りますので、その際に居なければ罰則があります」
その言葉に皆がざわめく。
「はい!罰則とは何がありますか?」
リディオノーレが質問した。
「そうですね。例えば、食堂の片付けの手伝いや図書室の本の整理など、掃除関係が多いです」
アリウォーナは答えた。
「図書室に入れるからと言って罰則を受けるのは駄目ですよ。グレイザック様に叱られます」
フェルバールがリディオノーレに小声で囁いた。
「………そうですね」
リディオノーレは仕方なしに頷いた。
「でも、よく分かりましたね。私の考えてること」
「……ええ」
フェルバールは苦笑した。
「点呼を取るまでに寮に戻っていれば問題ありません。自由時間は好きにして頂いて構いません。では、ここで解散と致します」
アリウォーナの号令に従い、各々が行きたい所に散開していく。
スティルナーデは早速訓練場に行って手合わせしようとリディオノーレを誘う。
相変わらずの彼女にリディオノーレは少し笑ってしまった。
「ちょっと待ってて。まだ聞きたいことがあるの」
リディオノーレはアリウォーナに呼びかけた。
「何でしょう、リディオノーレ様」
アリウォーナはにこりと微笑む。
話しかけられて、少し嬉しそうな様子だった。
「手紙を送る方法を教えてください」
「こちらです」
アリウォーナが歩き始め、リディオノーレがついていくのでスティルナーデも仕方なしについていく。
その道中、アリウォーナが質問を投げかけてきた。
「調合が出来ると面談時聞きましたが、何をつくれますか」
「杖も。回復薬も、他の薬も粗方は出来るかと?」
リディオノーレは思い出しながら答える。
その答えにアリウォーナの目が輝いた。
「あ、実験室はいつでも借りれるのですか?」
「誰もいなければ大丈夫ですが、主に私がいます」
アリウォーナが答えた。
「………じゃあ、調合器具を借りて行くことはできますか?」
「新入生たちは基本、調合を知りません。なのでリディオノーレ様の腕を確認させて頂いて、大丈夫だと判断したらお貸ししましょう」
「……分かりました」
めんどくさいが仕方ないので頷くリディオノーレ。
「スティルナーデ様も良かったらご一緒にどうですか」
アリウォーナがすすめる。
「私が出来るはずないじゃない」
スティルナーデはさも当たり前のようにそう答えた。
「あと、素材をもらえたりは出来ますか?」
「たくさんある素材なら構いませんが、貴重なものは無料であげることは出来ません」
「では、素材採集に行きたいのですが」
「!!」
「リディオノーレ様、いくら何でも早すぎます……」
フェルバールが小声で咎めた。
「素材採集もゆくゆくは習うんだから今しようが一緒じゃないですか?」
リディオノーレは首を傾げる。
「物には順序というものがありますからね……」
フェルバールは答える。
「素材がある分でなくなる場合には、採集に行きましょう。とりあえずはある分でどうにかして下さい」
アリウォーナはそう答える。
その言葉を聞いて、リディオノーレはにやりと笑った。
その顔を見て、アリウォーナは少し目を丸くした。
にやりとした顔がグレイザックにそっくりだった。
「二言はないですか?ある分は使わせてもらいますよ?」
「……使い切らないのであれば、大丈夫です」
「分かりました」
リディオノーレはにこりと微笑んだ。
庭の端に天馬小屋と使役獣小屋がある。
リディオノーレ達が乗ってきた天馬も授業用と区別するために、名札をつけた首紐をかけている。
「こちらの小屋番に手紙を送りたいと申し付けて下さい。鳥を貸してくれますので」
アリウォーナが小屋番の男性を紹介してくれる。
「リディオノーレと申します。天馬の世話、ありがとうございます。アインズビルまで手紙を出すとしたら、最速でどれくらいで着きますか」
リディオノーレは尋ねる。
「片道30分くらいですかね」
「分かりました。その時はよろしくお願いします」
リディオノーレは頭を下げる。
「手紙が返ってきたら、小屋番が宛名を確認して寮監へと渡してくれます。それを寮監が生徒に渡す、という手筈です」
「分かりました。では、先生。早速、私の調合の腕を確認して下さい。大丈夫そうならすぐさま器具をお借りしたいです」
その発言にスティルナーデが悲痛の声を上げた。
「えええ!私と手合わせは!?」
ひたすら黙ってついてきていたスティルナーデが怒った。
「私の用事が全て終わったらいくらでも付き合ってあげるから、それじゃ駄目?」
「絶対よ!?絶対だからね!!」
スティルナーデは叫んだ。
「分かってる分かってる。一緒に調合する?」
「しない!そんなの嫌いだもの。アングロード呼ぶ?」
「そうしよっかな」
リディオノーレはスティルナーデの提案を受け入れ、アリウォーナに確認を取る。
「………仕方ないですね。今日は授業もないですし、良いでしょう。アングロード様には後ほど実験室に来るようお伝えして下さい」
スティルナーデは一目散に男子寮に向かって行く。
彼女の側近も負けない速さで一緒に走って行く。
「あの側近の方は騎士ですね」
フェルバールは呟いた。
「そうなんですか?」
リディオノーレが聞き返す。
「スティルナーデ様も見るからに結構鍛えていらっしゃるようですが、あちらの側近のかたの方が強いですね」
フェルバールの観察眼にリディオノーレは驚いた。
「ティルの側近をするとはなかなか大変ですね」
リディオノーレは思わず呟く。
「……」
その言葉にフェルバールは息を吐いた。




