汚れ防止の魔法陣
アインズビルに帰った翌日からは、リディオノーレは色んな人に護衛を代わってもらいながら1日図書室にこもりまくった。
その前に眼鏡を受け取り、眼鏡生活が始まる。
あらゆる角度から、目線から、色んな人の意見も聞きつつ情報を仕入れ、調べ尽くしたのち実験に入る。
入学まであと3日。
汚れ防止の魔法陣に苦戦しているリディオノーレだった。
「ここにこんな記号が入ってたと思うんですが……」
庭で実験していると、サムエルが口を挟んだ。
今の時間はサムエルが彼女についててくれている。
「ここにですか?」
リディオノーレは聞き返す。
本当になかなか上手くいかない。
この文字記号を組み入れると別の所に組み込んだものが発動しなかったりして、全然成功しない。
汚れ防止とは一体何なのか。
リディオノーレは呻く。
難しすぎる。
だが、難しいからこそ面白いのもまた事実である。
いいところまで行っていると自分では思っている。
なら、もうちょっと。
だが、あと3日で出来上がるかは分からないが。
就寝時間になっても、リディオノーレは実験を続ける。
紙にひたすら描きまくっていた。
グレイザックはそれを読書をしながら横目で見ていた。
「………いい線まで行ってるじゃないか」
グレイザックは思わず口を出した。
「ですよね?」
彼女は嬉しそうに問い返す。
「でもこれがあるので、これを組み込むと相殺するんですよね……」
「……面白いな」
グレイザックはそう言う。
「なるほど。着眼点が俺と違うな。俺とはまた違う汚れ防止の魔法陣が出来上がるかもしれん」
グレイザックは紙に描かれている魔法陣を指でなぞる。
「俺は防御の方から考えたが、お前はそれぞれの汚れに対して考えてるわけだな」
「私、新しい魔法陣をつくってます……?」
リディオノーレは恐る恐る尋ねた。
「ああ。だが、その観点でいっても汚れ防止になるだろう。面白い」
グレイザックは唇の端を上げ、紙に描いた未完成の魔法陣をたくさん覗きこむ。
「いいんじゃないか。俺と違う観点だから少し助言をやろう」
グレイザックは口を開いた。
見たことのない未完成の魔法陣に対して助言をくれるとは、恐るべし頭脳である。
「これとこれの共通点を探せ。あとは省けるだけ省け。そしたら、汚れに対応できる魔法がもう2つくらい描けるだろう」
グレイザックはまた面白い、と呟く。
「ここは、水をはじくための文字列だろう?あとは砂や土、埃系だな。俺はそれらを盾で防ぐ感覚だが、お前は違うな。お前は自分が思いつく服の汚れについての対抗魔法、といったところか」
「………流石、師匠」
リディオノーレは思わず呟いた。
服を汚すことで思いついたものは、雨と汗。そして食べ物。後は、土埃など。日常生活をしていて汚しそうな場面を想像した結果、そうなった。
因みに消臭効果も施そうとしている。
「面白いな」
グレイザックはもう一度面白い、と言う。
本当に楽しんでいる顔をしている。
「俺もそのまま一緒にやりたい所だが、今日はもう寝るぞ」
グレイザックは促す。
「はい。間に合いますかね」
リディオノーレはそそくさと布団にもぐりながら、そう尋ねた。
「お前なら、な」
グレイザックはそう言って、彼女に睡眠魔法をかけた。
そして、彼女が汚れ防止の魔法陣を仕上げたのは、入学当日の朝だった。
「できた!できました!やったーーーー!!!!」
リディオノーレは制服を持って跳ね回る。
「………うるさい」
グレイザックは頭を押さえる。
結局2人は徹夜したのだ。
「朝から何事ですか」
サムエルが一目散に部屋にやってきた。
そして、散らかる魔法陣の紙、ボサボサの髪の毛の2人、制服を持って興奮しているリディオノーレ、極めつけは2人の目の下の隈。
それらを見てサムエルは雷を落とした。
「グレイザック様!あなたがついていながら何をしているんです!?」
「リディも!今日入学でしょう!?そんな隈がある顔で行かせられませんよ!!」
2人は正座をしながら、サムエルの叱責を長々と受けた。
その内、フェルバールが部屋にやってきて、3人の何かよく分からない状況を見て回れ右をした。
「後ほどお迎えにあがりますね」
フェルバールはにこりと微笑んで、その場を逃げた。
「……ち。あいつ賢くなったな」
グレイザックが舌打ちして呟いた。
「本当に!何してるんですか!急いで支度しますよ!」
サムエルはそう言うと洗浄魔法を2人にかける。
何だかんだでサムエルは優しい。
「………お2人共、少し寝ますか?」
サムエルは尋ねる。
グレイザックとリディオノーレは顔を見合わせる。
「お前は30分でいいから寝てろ」
グレイザックはそう言うと、問答無用で彼女に睡眠魔法をかけた。
リディオノーレが寝たのを確認すると、グレイザックはサムエルに指示を出す。
「素材の保存箱を収納魔法の袋に入れておいてやれ」
「………本当にリディには甘いんですから」
サムエルが言う。
あの貴重な収納魔法がかかった袋をあげるということだろう。
あれは一年分の給料くらいに匹敵するかなり高価なものである。
「後はお前に任せる。俺も少し寝るから、後で起こしてくれ。朝食は軽くつまめるもので頼む」
「かしこまりました」
サムエルは返事をして部屋を辞した。
グレイザックも彼女の隣の長椅子に横になり、目を閉じた。
彼ら2人が起きた時には、他の皆は用意が完璧に終わっていた。
「食べながら聞いて下さいね」
サムエルはリディオノーレに話しかける。
彼女はパンを齧りながら頷いた。
「この収納魔法の革袋の中に素材の入れた箱を入れています」
「!!いいんですか?」
リディオノーレは驚いてグレイザックを見た。
「お前が稼いでまた俺に買ってくれたらそれでいい」
「………いつになるか分かりませんよ?」
「構わん」
グレイザックの答えにリディオノーレは頬を緩めた。
「ありがとうございます。大事に使います」
「次に、こちらの袋にあなたが粛清時にもらった報奨金の一部を入れています。もし、足らなくなったらご連絡下さい。無駄遣いはしないように」
「はい」
「リディが準備物で覚えておくのはこの2つだけです。後はフェルバール様にお任せしていますので、細かいことはそちらに聞いて下さい」
「分かりました」
「食べ終わったら、制服に着替えて隣の部屋に来い。髪を結うぞ」
そうして、全ての準備が整い、リディオノーレとフェルバールを見送りにたくさんの人が庭に集まった。
勿論、お決まりの小言の連続である。
リディオノーレに関わりのある人たちが次々と言い募る。
「………なかなか喋る機会がなかったな」
領主ライリルムントが彼女に話しかける。
「帰ってきてから忙しかったものですから」
リディオノーレは苦笑する。
「私がいない間、グレイザック様をあまりこき使わないでくださいね」
リディオノーレは進言した。
「お前、本当に言うようになったな」
ライリルムントは苦笑すると手を差し出す。
リディオノーレは握手を交わす。
「勉学に励めよ」
その言葉には、彼女は苦笑いで返しておいた。




