散歩
翌朝。
リディオノーレが目覚めると、グレイザックの簡易寝台の方で寝ていた。
グレイザックは反対に彼女の寝台で寛いでいた。
「早いな」
グレイザックは少し驚き、読書していた本を閉じた。
彼は暇さえあれば、ひたすら本を読んでいる。
「気分はどうだ?」
「もう一回ぎゅってしてくれたら、大丈夫になります」
リディオノーレは駄目元でせがんでみた。
「調子に乗るなよ」
グレイザックは彼女の額を弾く。
「まだ早いから散歩でもするか?」
リディオノーレは窓から外を覗いて見ると、まだ陽はのぼりきっていなかった。
「行きます!」
リディオノーレは布団から跳ね起きた。
グレイザックは本当に勝手知ったるかのようにアラウィリアの庭を案内してくれた。
「……詳しすぎません?」
リディオノーレが思わず言ってしまうほど。
「そりゃ半月も居ればな」
グレイザックは唇の端を上げながら答えた。
「聞いてもいいですか」
リディオノーレは口を開く。
グレイザックは無言で促した。
「何であんなに早く到着できたんですか」
「定期連絡はフェルからもケネスからも届いていたからな」
「ケネス様?ですか?」
リディオノーレは驚く。
「お前に紹介していない使役獣がもう1人いる」
グレイザックはにやりと笑った。
「え、ずるいですよ」
「そいつがケネスと番なんだ。ケネスが念話をそいつに届けることができる。だが、番の方からは届けられないが。ケネスの魔力が他と比べて段違いなおかげで、そんな芸当ができる」
リディオノーレは驚いた。
そんな使役獣がいるのか。
主人が規格外だと使役獣も規格外になるのだろうか。
「……やっぱり規格外ですね」
リディオノーレはその一言で済ますことにした。
それが1番納得出来る。
すると額を弾かれた。
「自分は違うように言っているが、お前も充分規格外だ」
グレイザックは少し呆れた風に述べた。
「師匠には負けます」
リディオノーレは答えた。
「あのとき、剣に炎を纏わせたり、指先魔法を見せたりしちゃいましたけど大丈夫でしたか」
「いつもなら後が大変だったろうが、あの事件に関しては皆が知らない振りをしてくれている」
「じゃあ、噂は広まっていないんですか」
「そうだな。それこそ本当に〝規格外″でまとめられている。しかもこの事件、知る者は限られている。あの双子とアラウィリアの騎士が広めない限り、学院で話題に上がることはないだろう」
それを聞いて、リディオノーレは安堵した。
「この事件が終わったからと言って気を抜くなよ。学院でも毒などに気を付けろ」
「…………これが始まりですよね?」
リディオノーレはちら、とグレイザックを見る。
「因みに、これからどうするつもりなのか聞いてもいいですか」
リディオノーレは踏み込んでみた。
今なら話してくれるかもしれないという期待を込めて。
「………滅ぼす」
「一国をグレイザック様お一人で?」
その言葉だけを聞けばあり得ないことなのだが、彼なら出来るかもしれない。
「もし、俺の作戦が分かった時は言いにこい」
グレイザックは微笑んだ。
「……」
その微笑みは、何も聞くなという顔だった。
「……分かりました。あ、ひとつ聞いてもいいですか」
リディオノーレは話題を変える。
「何でグレイザック様の周辺はチカチカと光るものが多いんですか。他の人は全然そんなことないのに」
「………」
グレイザックは苦い顔をしながら彼女を見た。
「その内分かるときが来る。光る方に目線を動かさないよう気を付けろ」
「何故ですか?思わず見ちゃうんですけど」
「だから、帰ったら早急に眼鏡もかけておけ」
「今、教えてはくれないんですか」
リディオノーレは唇を尖らせる。
「その光るものが見えるのが、お前を引き取った1番の理由だ」
「!!」
リディオノーレは目を見開く。
何か今すごい重要なことを言われた。
「その内分かる。学院で、目薬と眼鏡をかけてもどうしても眩しくなったら連絡しろ」
グレイザックはそう真剣に述べた。
「……分かりました。あ、帰り道、ひとつお願いがあるのですが」
リディオノーレは再度話題を変える。
「何だ」
またややこしいことを言うんじゃないだろうな?という顔だ。
「回復薬の素材を収集しながら帰りたいです」
「それならいいぞ」
グレイザックは答える。
「片っ端から収集してやろう」
彼はにやりと笑った。
散歩が終わって部屋に戻るとサムエルが怒った顔で2人を待っていた。
「何処かに行く際は言付けて下さい」
サムエルはグレイザックを見る。
「すまん。皆が起きる前に戻る予定だった」
グレイザックは悪かったな、と応える。
「仲が良いのはいいことですがね」
サムエルは少しため息をついてリディオノーレを見た。
「朝食も皆さんで一緒に大広間で、と誘われております。急いで支度しますよ」
その言葉通り驚くくらいの速さで支度をさせられ、大広間に向かうと全員が集合していた。
騎士団たちもだ。
そして、リディオノーレはひたすらスティルナーデに振り回された。
それに付き従うフェルバールとアングロード。
グレイザックはアブストールと酒を飲んでいた。
「朝から仲良しだったな」
「……起きてたのか」
グレイザックは目を丸くする。
「グレティアーナと朝から飲んでいたからな」
「………ほぉ。盛んなことで」
グレイザックはからかう。
「うるさい。お前らはどうなんだ」
アブストールが尋ねる。
「何を聞いてる?意味が分からん」
グレイザックは酒をあおる。
「あまりしつこいと全員威圧するぞ」
グレイザックは脅す。
「アブストール様、グレイザック様は本当にしますのでお気を付けを。アインズビルで既に大量に失神させました」
サムエルが後ろから口を挟んだ。
「………相変わらずだな」
アブストールは顔を引き攣らせながら言った。
「お前の妹と弟の学院での働き、期待しているぞ」
グレイザックはアブストールの肩に手を置いた。
その顔はにやりと笑っていた。
「じゃあ、帰るね。また後日、学院で」
リディオノーレはスティルナーデに手を振る。
「アングロード様も学院で」
リディオノーレは頭を下げた。
「ええ。学院ではよろしくお願いします」
アングロードは微笑んだ。
「ティア様、この度は色々とありがとうございました」
リディオノーレはグレティアーナに頭を下げる。
「ほら、いらっしゃい」
グレティアーナは両手を広げたので、リディオノーレは抱擁を交わした。
「いつでもいらっしゃい。大歓迎よ」
グレティアーナは微笑んだ。
「リディ、道中も気を付けて。学院ではティルのことよろしく頼んだ」
アブストールがリディオノーレと握手を交わす。
「ありがとうございます。回復薬は出来次第、お送りしますね」
リディオノーレは微笑んだ。
「ああ、楽しみにしている」
「領主さま、この度は大変お世話になりました」
リディオノーレは最後に領主に跪く。
「被害もほぼ無かったし、上々の結果だ。よくやった」
領主はそう言ってからりと笑った。
「アラウィリアにはいつでも来ていいぞ。嫁いでくるなら大歓迎だ」
領主は面白そうに告げた。
「………馬鹿なことを仰らないで下さい。リディはまだやれません」
グレイザックが口を挟んだ。
「……くく。素直になればいいものの」
領主はからかうようにそう言って、手をひらひらと振る。
「道中気を付けろ。またな」
それを合図にリディオノーレはグレイザックと相乗りに。
フェルバールとバルデミアンも相乗りに。
サムエルとムナグレークが天馬車を引っ張る。
リディオノーレとフェルバールの天馬は殺されてしまったため、乗るものがないので必然的に相乗りになる。
荷物が乗っていた馬車は壊されずに済んだので、ケネスはそれに乗り込む。
手綱を握り、上空へと駆って行きながら、リディオノーレは姿が見えなくなるまで手を振り続けた。




