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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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繋がった事実




「今回は色々とご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした」

リディオノーレは領主の前に跪き、低頭した。


「良い。病み上がりで跪くな。座っていろ。グレイザックが怖い」

領主はそう言って、手をひらひらとして座れと命じる。

リディオノーレは苦笑しながら、グレイザックの右隣に腰を下ろした。


「スティルナーデ様とアングロード様にもケガを負わせてしまい、本当に申し訳ありません」

「……良い。それを覚悟で2人もついて行ったからな」

領主は双子に視線を送る。


「私こそ、守れなくてごめんなさい」

スティルナーデがしょんぼりとし、顔を伏せた。

「僕も力不足で申し訳ありません」

アングロードも謝る。


「私の方こそお2人を巻き込む羽目になって本当にごめんなさい」

リディオノーレも謝る。

「リディが目覚めないと聞いてとても心配していたんだ」

アブストールが苦笑しながら言う。

「だから、目覚めたと聞いて一目散に部屋に向かったの。邪魔してごめんなさいね」

グレティアーナが話す。


「色んな方にご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」

リディオノーレはアブストール夫婦にも頭を下げた。


「いいのよ。無事に回復したらそれでいいの」

グレティアーナが微笑む。

「グレイザックがずっと診てくれてたんだぞ」

アブストールがからかう。

グレイザックは彼をギロリと睨んだ。


「……知ってます」

リディオノーレは微笑み返し、左に座るグレイザックをちらりと見た。

グレイザックを見るとチカチカが少し増える。


グレイザックは彼女の左頬を引っ張りながら、口を開いた。


「長期滞在、本当に迷惑をかけたな」

彼はアブストールに向かってそう言って、引っ張る頬を離す。

「……いや、構わない」

アブストールはそう答えながら少しニヤリとする。


「相変わらず、仲が良いな」

「……普通だ」

グレイザックはぶっきらぼうに答えた。


「リディ、体は大丈夫なのか?」

アブストールは尋ねる。

「大丈夫です。むしろ、気を失う前よりいい方で」

「なら良いが。無理はするなよ。明日帰ると聞いたぞ」

「入学まであと1週間と聞いて、準備がまだできてませんので、早急に帰りたく存じます」

リディオノーレは苦笑いで答えた。


「何の準備があるんだ?」

アブストールが少し首を傾げた。

「女の子だから色々とあるでしょう!」

グレティアーナが咎める。

「………制服に施す魔法陣がまだ完成してなくて」

リディオノーレは言いにくそうに答えた。

「?」

斜め上の答えにグレティアーナは首を傾げる。


「え?」

リディオノーレは右隣に座るムナグレークに視線を向ける。

彼はそのまま扉の近くに控える彼女の側近、フェルバールの方を向いた。


フェルバールはバルデミアンと顔を合わせ、そのままサムエルを見た。

サムエルはフェルバールを見つめ返す。


あなたが側近でしょう?という顔だ。


「……やはり、そうなりますよね……。サムエル様がいるからサムエル様がご説明してくれるとかそんなのは無いですよね……」

フェルバールはひとりごちる。


フェルバールは息をひとつ吐いてから、言葉を口にした。

「衣装に何か魔法陣を施すなど、普通はしません」


「でも、ほら、結婚式の天馬合戦のとき、防御の魔法陣とか描きましたよ?」

リディオノーレは反論する。

「………待て待て。そんなのしてたのか」

アブストールが突っ込む。

「してました。私がグレイザック様の衣装に、グレイザック様が私の衣装に」

リディオノーレは答える。


「………おい」

アブストールはグレイザックを見て呼びかける。

「何か問題でも?」

グレイザックは何か文句があるのか?といったような顔だ。


「………お前のせいで、リディが非常識すぎるぞ」

「今に始まったことじゃない」

グレイザックは答える。


「その魔法陣を完成させるのが、入学までの課題なのです。なので、急いで調べないと間に合いません」

「………それは、どういう意味………いや、何もない」

アブストールは詳しく尋ねようとしたが、途中で辞めた。

今、魔法陣を完成させると言っていなかっただろうか?

それはどういう意味なのか思わず尋ねたかったが、聞くだけ無駄な気がして、途中で口を閉じた。


「頑張れ。リディなら出来るんだろ?」

アブストールがグレイザックに尋ねた。

「………だと思ってるが、半月寝てたからな」

「なので、明日帰りたく存じます。今日までのお礼は追ってお送りしますのでお待ちください」

リディオノーレはアラウィリアの面々を1人ずつ見つめる。


「お前、そんなこと約束していいのか」

グレイザックは片眉を上げながら、リディオノーレを見た。

「お世話になりましたから。皆さんに効力高めの体力回復薬と魔力回復薬をつくって送ります」

「!!」

「そりゃリディがつくったら効果覿面だろうが、素材が足らないだろう?」

アブストールが言う。


「学院の素材も使わせてもらいます。出来上がりが少し遅くなりますが、いいですか?」

リディオノーレは尋ねる。

「………ちょっと!そんな薬つくってたら、私と手合わせする時間ないじゃない!!」

スティルナーデが急に叫んだ。

理由が彼女らしい理由なので、リディオノーレは笑ってしまう。


「ティルとアングロード様が手伝ってくれたら、すぐ終わると思う。それなら、手合わせ出来る時間も増えるはず」

リディオノーレは2人に提案した。

ちゃっかり助手を確保する所が素晴らしい。


「それならやるわ!任せといて!」

スティルナーデが胸を叩きながら言った。

「………やらせていただきます」

アングロードも了承したが、少し苦い顔をしていた。





その夜、いつものように師弟は同じ部屋で寝付く。

グレイザックはリディオノーレの寝台横に簡易寝台を並べた。


彼女は早々に眠りにつく。

その様子を見て、グレイザックも目を閉じた。




「………っ!」

リディオノーレは夜中に苦しくなって飛び起きた。

眠りにつくと、さまざまな記憶が夢として蘇ってきたのだ。


汗ばんだ額を拭き、少し深呼吸した。

今回で色んな情報が繋がった。


ナックルンド王女は、自国の繁栄のためにグレイザックの魔力を欲した。

だが、彼はそれを断った。

どんなことがあったのかは詳しくは知らないが、王族の権力で揉み消したのだろう。


その後、護衛騎士であるザファムートは王女のために復讐を試みる。

その際、この国の弱体化も企み、手始めに使えそうなあの叔父家族を使ったというわけだ。


粛清をおこなうにも反発は出るし、禍根は残る。

それも見越して、領主一族に不正を行わせたということだ。

粛清はそんなにすぐできるものでもない。

それを容易くやってのけたグレイザックが凄いだけ。

そして、粛清されれば毒なんて無かったことになる。


それをカルムクライン一族の者をグレイザックが拾い上げた。

ザファムートの誤算だったことには違いない。


彼はグレイザックの弱味を掴もうと、そしてあわよくば殺そうと、若しくは自国に拉致し魔力だけ搾り取ろうとしようなどと考えたに違いない。

本人がいないので、本当のことは知らないが。

リディオノーレならそう考える。


だが、グレイザックには一切手を出せず、しかもカルムクラインの生き残りは彼に守られている。

焦っただろう。

そして、あの毒を用いて傷を負わせた。


切られた方の腕を思わず見るリディオノーレ。

傷は綺麗に消えている。

あの毒の正体を彼女は知らない。

だが、グレイザックはきっと知っている。

全てを知っている。


リディオノーレは隣の寝台で眠るグレイザックを見た。

彼の周りには光るものが何故か多い。

夜である今は灯り代わりになるが。


「………どうした」

グレイザックはのっそりと起き上がった。

本当に彼は眠りが浅い。


「……」

リディオノーレは無言。


「………あの人は、死んだんですか?本当に」

リディオノーレはゆっくりと質問した。

思い出す。


身動きを取れないよう足で全身を押さえつけられ、真正面に剣の切っ先を向けられていたあの光景を。

体じゅうに鳥肌が立って震えた。


よく、あの状況で指先魔法が成功したものだ。

誰にも言っていないが、今少し剣が怖い。


「リディ」

グレイザックはちょいちょい、と指先でこっちに来いと示す。

彼女は徐に近付いた。


「どうした」

グレイザックは子供をあやすように彼女を抱きしめ、背中や頭を撫でてやる。


「………あの状況で指先魔法が成功する確率なんて低かったでしょう」

リディオノーレは撫でられながら、そう問うてみた。

「……ああ。でも10回に1回くらいは成功していただろう?」

グレイザックは撫でながら、苦笑気味に答えた。


「俺が知らないとでも思うなよ。俺が寝たのを確認してから試してただろ」

「と言うことは寝てなかったんですか」

リディオノーレは驚いた。


「俺を出し抜くにはまだ早い」

グレイザックは笑いながらそう答える。

「無茶するな。………剣が怖いか」

彼は彼女の頭をぎゅっと抱きしめてそう尋ねた。


「………鞭も習ってて良かったな、と今思っています」

リディオノーレは彼の背中に手を回し、服をぎゅっと掴んだ。

彼の体が少しぴくりとしたが、それでも撫でる手は止めなかった。


「まあいいんじゃないか。俺と剣で手合わせ出来ないのが、少し寂しくなるが」

グレイザックの珍しい本音にリディオノーレは目を瞬いた。

彼の顔を見ようとしたが、胸に頭を押さえつけられ見ることができない。


「………グレイザック様はどうするつもり、なのですか」

リディオノーレは尋ねた。

この人はザファムートを殺して終わる人ではない。

名分はつくる、と本人も言っていた。


「ナックルンドは滅ぼす」

「………何かお手伝いできることがあれば、言ってください」

リディオノーレはそう呟いた。

今、自分が出来ることなんてすぐに思いつかない。


「………でも、何処かに行くときは、私に許可を取ってください」

リディオノーレの言葉にグレイザックは苦い顔をした。


「………善処する」

グレイザックのその答えに今度は彼女が苦い顔になる。

ああ、許可を取る気なんてさらさらないな、と。


「………気分はどうだ。少しマシになったか?」

彼は話題を変えた。

「もう少しこのままでもいいですか」

リディオノーレは彼に抱きついたまま、目を閉じる。


「ああ」

グレイザックはそう答え、彼女が眠りにつくまで抱きしめながら撫でてあげた。




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