慌てるリディオノーレ
そのスティルナーデを追うようにムナグレークとアングロードとアブストール、そしてグレティアーナがやってきた。
「ごめんなさい」
「すまない!」
「後で会えると言ったんだけど……」
ムナグレーク以外の3人が謝り、スティルナーデを無理矢理リディオノーレから引き剥がし、首根っこを掴んであっという間に去って行った。
去り際、ずっと「リディーーーーっ」と叫ぶ声が聞こえていた。
思わずリディオノーレ達は噴き出した。
リディオノーレは笑い泣きしてしまい、涙を拭う。
「元気そうで良かったです」
リディオノーレは告げる。
「グレイザック様」
リディオノーレは呼ぶ。
「?」
「助けに来てくれて、ありがとうございました」
その言葉にグレイザックは唇の端を上げた。
「サムエル様もありがとうございます」
「いいえ。当たり前のことですからね」
「グレーク様も、バルデミアン様も」
リディオノーレは皆それぞれに手を伸ばし、抱きついた。
「フェルバール様」
リディオノーレは彼に抱きつきながら、「色々とご心配をおかけしました」と言った。
「………何か食べれそうか?」
グレイザックは事件の話をするのをやめて、そう尋ねた。
「お腹すきました!」
リディオノーレは元気よく発言する。
「食べながら話すか」
グレイザックは食事を頼み、リディオノーレはそれをぱくぱくと食べながら会話する。
「私、どれくらい寝てました?」
「半月くらい?ですかね」
サムエルの答えにリディオノーレは持っていたフォークを思わず落とした。
「え?」
彼女は聞き返す。
バルデミアンはフォークを拾い、洗浄をかけてから彼女に返した。
「え?半月?ですか?」
リディオノーレはもう一度聞き返し、皆の顔を見る。
皆の表情を確認し、彼女は息を吐いた。
「ちょ、ちょっと待ってください!じゃあ領主会議は!?」
「心配するところはそこなのか」
グレイザックは茶菓子を摘みながら突っ込んだ。
「え、だって視察頑張ったのに……」
「大丈夫ですよ。書類は無事届いております」
サムエルが答える。
「それに領主会議も終わりました」
彼は続けてそう言った。
「え?……………えええええっ!!!」
リディオノーレはスティルナーデのような大声を上げる。
「嘘でしょ!?え、え、入学まであと何日ですか!?」
彼女は思わず立ち上がった。
立ち上がりざまに机で足を打って悶絶する。
「まあ落ち着け」
笑いながらグレイザックはそう言った。
「落ち着いてられませんよ!何も用意してません!やばいですやばいです!制服に施す魔法陣も完成してません!!」
リディオノーレは立ったまま力説する。
力の入りように唾が飛ぶ。
「それであと何日ですか?」
リディオノーレは皆に尋ねる。
「………1週間です」
フェルバールの答えにリディオノーレはまた叫んだのだった。
少し落ち着いてから、リディオノーレは素早く食事を終わらすと自分の荷物を整理し始めた。
「どうするつもりですか」
ムナグレークが尋ねる。
「帰ります。今すぐ帰ります」
リディオノーレは忘れ物がないか確認すると、荷物を持って颯爽と部屋を出て行こうとする。
「おいおい」
グレイザックは目を瞬き、呼びかける。
「リディ、少し落ち着いて下さい」
サムエルが彼女の腕を掴む。
「落ち着いていられますか?早く帰って魔法陣を仕上げないと!」
リディオノーレの言葉に皆が苦笑いになる。
「まあ待て。お前が目覚めたこともあり、今日の夕食はアブストール達と食べることになっている」
「………どうしても、ですか?」
「どうしてもだ。半月も俺たちに泊まるところを与えてくれた礼などをせず、今すぐ帰れるわけないだろう」
「………確かに」
リディオノーレは納得する。
「それに起きたばかりで動き回るな。明日起きて体調に異変が無ければ、明日の朝一で帰ろう。それでいいだろう」
グレイザックの提案に彼女は頷いた。
「まだ寝てろ。夕食前に起こしてやるから。明日の朝帰るからお前達も用意しておくように」
「かしこまりました」
皆が部屋を出て、グレイザックと2人きりになるリディオノーレ。
「寝てろ」
「………グレイザック様は?」
リディオノーレが尋ねる。
「俺が何だ」
「どうせ、あんまり寝てないんでしょう?」
「どうせとは何だ。どうせ、とは」
グレイザックが睨む。
「私のせいであんまり寝てないでしょう?」
リディオノーレは素早く自身の杖を掴む。
「!」
グレイザックも慌てて杖を抜き、そして唱える。
「シュラーミール!!」
2人同時に睡眠魔法が炸裂した。
「!!」
「ちっ」
グレイザックは寝台に手をつき、片方の手は額を押さえる。
魔法を食らってしまった。
「グレイザック様……」
リディオノーレはグレイザックの体を引っ張り、寝台に乗せようとして、意識がなくなった。
グレイザックも目が閉じていくのを感じながら、彼女を潰さないようにして寝台に横たわった。
「…………ザック様」
「グレイザック様」
遠くから彼を呼ぶ声が聞こえて、グレイザックは目を開けた。
何やら腕が重たいと思ったら、リディオノーレの頭が乗っている。
何故か腕枕をしている状態だった。
しかも向かい合わせで。
グレイザックはぎょっとしたが、ゆっくりと彼女を起こさないように腕を引き抜き、体を起こした。
そして、起こしに来た人物を見やる。
「すまん、サムエル」
「いえ。どうされましたか」
サムエルは水を差し出す。
彼はもう驚かない。この2人に関してはもう達観の領域である。
「……睡眠魔法を食らった」
グレイザックは水を飲み干し、そう告げた。
それを聞いてサムエルが目を丸くする。
「珍しいですね」
それにグレイザックが疲れているのを見抜いていたリディオノーレが流石である。
「ああ、やられた」
言葉自体は悔しそうなのだが、顔は少し嬉しそうだった。
「少しはスッキリしたのでは?」
サムエルが尋ねる。
「ああ」
グレイザックは首を鳴らして、立ち上がった。
睡眠時間を削ってリディオノーレの状態を常に診ていたグレイザックの顔が大分スッキリしていた。
「もう用意する時間か?」
「はい」
グレイザックは彼女の額を弾く。
それは痛そうなものすごい音が響いた。
「……っ!!」
リディオノーレは額を押さえ、目を開けた。
「っ!」
だが、彼女は目を瞬く。
少しゆっくりと目を開閉したのち、大丈夫になったのを確認し、グレイザックを見た。
「………光が見えてるのか」
「……少し」
リディオノーレは答える。
視界の片隅にたまにチカチカと光るものが見えるが、生活には支障のない程度だ。
「でも、これくらいなら大丈夫です」
リディオノーレは答えた。
その答えにグレイザックは眉間に皺を寄せた。
「帰ったら眼鏡もかけておけ。これからは眼鏡と目薬、どちらも使用しろ」
グレイザックはそう言って、彼女の頭の上に手を置いた。




