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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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最期と枯渇




リディオノーレはフェルバールに支えてもらい、ふらふらと歩きながらもグレイザックの隣に並んだ。


「毒の実験にカルムクラインを使ったと言いましたか」

リディオノーレは尋ねる。


「あれは薬の素材を集めるときの副産物だ。ついでにあれが本当に使い物になるか確かめただけだ」

「何の素材かは知りませんが確かめるためだけにカルムクラインを使ったと?」

リディオノーレが目を見開く。


ぎゅ、と拳を握りしめるリディオノーレ。

(あー……チカチカしてきた……)

彼女は眉間を押さえる。

頭も痛くなってきた。


「あの領主は馬鹿だったからな。騙しやすかった。ついでにこの国も弱体化できたら一石二鳥だ」

ザファムートが笑う。

「………くそが」

リディオノーレの口から汚い言葉が漏れた。


まさかの発言に周囲が軽く目を見開いた。

全ての元凶がナックルンドだった。

家族が死んだのは全てナックルンドのせいだということだ。


「だが、あの国を引き摺り下ろすには名分が足らないだろう」

ザファムートがまたにやりと笑う。

ナックルンドの方が大国である。

こんな事件如きで戦を起こしたら、敗れることは違いない。


リディオノーレの拳を握る手に思わず力が入る。


「ないなら、つくればいい」

グレイザックが剣を構える。

「今は出来なくてもいつか名分をつくります」

リディオノーレもグレイザックと同時に答えた。

彼女は魔力をかき集める。


2人の答えに本当に師弟だな、と皆が思った。


「やめろ、リディ。死ぬぞ」

グレイザックが止める。

「いえ。私の手で」

リディオノーレは杖を力強く握る。


「ひとついいか」

ザファムートが剣を構えながら口を開いた。

グレイザックは無言。

構える剣に炎を宿す。


そんな芸当にまたもや周囲は驚愕する。


「何故、その小娘を拾った?」

その質問には答えず、グレイザックはにやりと笑うと剣を手に地を蹴った。

サムエルもそれに続く。


リディオノーレは残りの魔力を使い、風魔法で石を操り始める。

彼らに遅れを取らないように。


グレイザックとサムエルの剣の速度は異常だった。

今まで手合わせしてきた速度の5倍くらいである。


彼らの邪魔にならないように石をザファムートにぶつけるリディオノーレ。

目を見開き、3人の動きをひたすら追う。


「ぐっ」

急に何かに掴まれたような痛みが心臓に走り、彼女は胸の辺りを押さえる。

それでも目線は3人から外さず、魔法を行使し続ける。


その内に、最初はそれでもやり合っていたザファムートだが、次第に押され始めた。


「その娘もっ!そうなのかっ!?」

ザファムートはグレイザックに向かって叫ぶ。

グレイザックは「サムエル!!」と叫び、敵に背を向けざま一瞬唇の端を上げ、リディオノーレの元に飛んできた。


「!?」

リディオノーレはグレイザックに視界を塞ぐように抱き締められる。


サムエルはそのまま躊躇いなく剣を振り下ろし、ザファムートの首を刎ねた。


サムエルは剣に付いた血を振り払い、死体に背を向け、グレイザックの元に跪く。


「完了しました」

サムエルは告げる。

「よくやった」

「……ありがとうございました」

リディオノーレは礼を言うと心臓を押さえたまま、血を吐いた。


がくん、と力が抜け、意識が飛ぶ。

グレイザックは慌てて彼女の体を支え「リディ!!」と叫んだ。


周りの者も何事かとやってくる。


「枯渇症状だ」

グレイザックはそれだけ言うと、彼女を地面に寝かし、杖で回復の魔法陣を描いていく。

その魔法陣に見たことない記号や文字が足されていく。

1秒を争う緊急事態だ。

血の気が引き、青白くなっている。


「サムエル、フェル、バルデ、グレーク、魔力を少し貰っても良いか」

グレイザックが早口で尋ねる。

口調は冷静だが、顔は焦っていた。


「複数からなら、少量ずつで済む」

グレイザックは言う。


「俺のも」

「私のもあげるわ」

アブストールとグレティアーナがグレイザックに近付いてそう言った。


「俺たちのも」

「私のも取って下さい」

騎士たちもやってくる。


「指先で構わん。この魔法陣に血を垂らしてくれ」

グレイザックに言われ、眠るリディオノーレの上に描かれた魔法陣にそれぞれが血を垂らしていく。


20人ほどが血を垂らしてくれたが、これでも彼女の魔力の1/10くらいだろう。

1/3くらいまでには回復させておかないと死ぬ。


「ふぅ」

グレイザックは息を吐き、小刀をサムエルから受け取ると腕の内側をゆっくりと切っていく。


大量の血が魔法陣に流れ落ちる。

「グレイザック様っ!」

サムエルが慌てる。

「良い」

グレイザックは苦笑いで答える。

かなり大量の血を垂らし、貧血を起こして体が少し傾いだ。

サムエルが慌てて支える。


支えてもらいながら、グレイザックは魔法陣を発動させた。


「………すまん、回復をかけてくれ」

無事発動したのを見て、グレイザックはサムエルに頼む。

サムエルは素早く彼に魔法をかけると、グレイザックはゆっくりと立ち上がった。


ふらつきもないことを確認すると、もう一度しゃがんでリディオノーレの額や首を触り体調を確認する。

熱はまだあるが、脈は正常。

顔に赤みもさしてきた。

魔力がある程度回復したということだ。


グレイザックは彼女の上半身を起こし、そのまま肩に担ぐ。


「すまんが部屋の一室を貸してくれ」

「私が案内するわ」

グレティアーナが発する。


「礼を言う。グレークとバルデはアラウィリアと共に後始末をしてくれ。サムエル、フェルついてこい」

グレイザックは彼女を担いだまま天馬に跨った。


「ケネス、動けるか」

グレイザックは尋ねる。

「………ああ」

ケネスをゆっくり立ち上がる。

「ゆっくりでいいから地上からついてこい」

それだけ指示するとグレイザックは手綱を握った。



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