市へのお誘い
「とりあえずは無事に終わりそうですね」
与えられた部屋でフェルバールは安堵の息を吐いた。
「そうですね。全く問題ありませんでしたね」
ザファムートも微笑む。
明日にはアラウィリアを出立して帰領する。
「やっと終わりましたね。早く帰りたいです」
リディオノーレはフェルバールに淹れてもらったお茶を飲みながら言う。
「あ、美味しいです!」
お茶を飲みながら、リディオノーレは感想を言った。
「確かに。淹れるの上手くなりましたね」
ザファムートも褒める。
リディオノーレが大好きなアラウィリアのお茶をフェルバールに最初淹れてもらったのだが、苦すぎて思わず吐き出したのだ。
ザファムートに教えてもらい、やっと普通に飲める味になった。
「良かったです!これで側近の仕事出来そうですかね」
フェルバールは少し嬉しそうな顔をする。
「本来は、このお茶に合う茶菓子ですとか、お客様の好みの菓子を用意するとか色々あるのですがね」
ザファムートは答える。
「………それは難しいかもしれません」
フェルバールは苦い顔になった。
「研究と読書しかしないから、大丈夫ですよ」
リディオノーレはにこりと安心させるように笑いかける。
「……それも如何なものかと思うのですが」
ザファムートは一応突っ込む。
だがもう何を言っても彼女は変わらないことは知っているので、常識として一応口にする程度だが。
そんな話をしていた時に、扉を叩く音が聞こえた。
「誰でしょうか」
ザファムートは訝しながら、立ち上がる。
「リディ!いるんでしょ?話があるから開けるわよ」
スティルナーデの声だった。
「こら!許可が出てからだ」
アブストールの声も聞こえる。
どうぞ、とリディオノーレは入室を許可するとスティルナーデが勢いよく扉を開け放った。
「リディ、話があるのよ」
スティルナーデはリディオノーレにすぐさま話しかける。
「な、何?」
「昨日から市が開いてるの。一緒に行きましょうよ!丁度帰り道の方向だし、天馬に乗るんじゃなくて市を通り抜けてからさよならしましょ」
スティルナーデが行こう行こうと猛烈に誘う。
「私は別にいいけど……、フェルバール様やザファムート様は大丈夫ですか?」
リディオノーレは確認を取る。
「私は別に構いませんよ」と、ザファムート。
「好きにしてもらって大丈夫ですよ」と、フェルバール。
「わざわざアラウィリアまでティルを送り返さなくていいからどうかな?僕も行くし」
一緒にいたアングロードも誘う。
「ということなんだ。女性の友達がいないから、リディと友達になれたことが実はとても嬉しくて遊びたいだけなんだが」
アブストールが苦笑気味に述べて、続ける。
「本当に市を抜けた先でさよならしてくれたらいいから。こいつら2人で帰ってこれるし、気にすることない」
「……本当にいいんですか?」
リディオノーレはアブストールを見つめる。
「大丈夫。何があっても文句言わないから」
その言葉にリディオノーレは目を瞬いた。
もしものことがあってもいいとのことだろうか。
リディオノーレはアブストールの真意が分からず、思わずじっと見つめた。
「一応こいつらもアラウィリアだから、大丈夫だ」
アブストールの言葉にリディオノーレは一瞬目を伏せ、口を開いた。
「じゃあ、一緒に行きましょう!」
リディオノーレはスティルナーデを見つめそう答えた。
「でしたら、天馬は市を抜けた先の所に預けておいた方がいいですね。私たちの天馬と荷物、先に持って行っておきましょう。こちらに帰ってくる用にアラウィリアの天馬を一頭だけ借りても良いでしょうか?」
ザファムートが立ち上がる。
「構いません。案内させましょう」
アブストールは側近に命じる。
ザファムートは側近と共に部屋を出て行った。
完全に姿が見えなくなったのを確認し、アブストールが扉を閉めてリディオノーレを見つめた。
「………油断するなよ」
「分かってます」
「アングとティルに何があっても逃げろ。盾にしたらいい」
そのアブストールの言葉にリディオノーレは顔を歪める。
そして、囮であることをこの双子は知っているということだ。
「帰り道に襲われたら、私たちは応援に駆けつけるまで時間がかかるもの。なら、私たちがいる内にわざと隙を見せるのよ。私とアングとリディだけの時間をつくるの。子どもだと侮って攻撃してくる可能性はあるわ」
スティルナーデが言う。
「そんなことをしたらティル達が被害に遭う」
リディオノーレは怖い顔をする。
「出会って日は浅いけど、ティルとアングロード様は友達だしそれにもしものことがあったとき、アブストール様とグレティアーナ様に顔向けできない」
リディオノーレは言い募る。
「同じ言葉をそっくり返そう。リディにもしものことがあれば、グレイザックに殺される」
アブストールが苦笑いで述べた。
「赤の他人であるリディを、あのグレイザックが身内と認めているんだ。グレイザックが赤の他人を身内と認めることなんてもう金輪際訪れないだろうしな。そんな大事なリディに何かがあったら、俺こそ顔向け出来ない」
アブストールはリディオノーレを見つめる。
「少しでも守らせてくれ」
「僕も微力ながら」
アブストールとアングロードが微笑んだ。
「………っ」
リディオノーレは俯いたり、悲しい顔をしたり、でも嬉しそうな顔をしたり、何やら百面相を繰り返してやっと結論を出した。
「………お願いします」
リディオノーレは頭を下げたのだった。




