スティルナーデとの仲
夕食の席、何故かスティルナーデとアングロードも座っていた。
アラウィリア側はスティルナーデ以外が本当に申し訳ない……と顔で訴えている。
「ねえ、リディオノーレ」
スティルナーデは話しかける。
「様を付けろ、様を」
アブストールが注意する。
「同い年だからいいじゃない」
スティルナーデはぶす、と膨れっ面になる。
「では愛称で呼びましょう。私もティルと呼んでいいですか?」
リディオノーレは尋ねる。
「……いいわよ。私もリディって呼ぶわ」
スティルナーデは少し照れながらそう答えた。
話し方はぶっきらぼうなのだが、可愛いらしい。
リディオノーレは少し笑ってしまった。
「で、リディ」
スティルナーデは早速愛称で呼びかける。
「仕事で来たって言ってたけど、何の仕事なの?」
彼女のその質問にアラウィリアの面々がため息をついたり、眉間に皺を寄せたり、こめかみを揉んだり、頭が痛い…と誰かが呟いたりした。
アインズビル一行は少し目を瞬いたのち、苦笑した。
「確かに、こんな奴が来たら本当にそうなのか疑いますよね」
空気を緩和させるため、リディオノーレが1番に自虐を口にした。
「そう言われると確かにそうですね」
フェルバールも頷く。
「……ティル。リディオノーレ様は視察にいらっしゃったんだよ。話しただろう。興味ないことは本当に右から左なんだから……」
アングロードがため息をつく。
「視察?視察って何だっけ?」
スティルナーデがアングロードに聞き返す。
「領地の一年がどうだったのかの報告を聞きに来たんだよ。収支報告書などを確認したりして、来年度も同じ予算を充てていいのかなどを話し合うんだ」
アングロードはかいつまんで説明する。
「…………大事なことっていうわけね。で、それをリディがしてるってこと?」
スティルナーデが目を瞬きながら、リディオノーレを見た。
「……まあ、そういうことです。こんな感じの書類を受け取っています」
リディオノーレはアラウィリアから提出された書類をスティルナーデに見せた。
スティルナーデは文字や数字の羅列を見て、「うぇぇ」と呻く。
「え、リディはこれが読めるの?」
スティルナーデが尋ねる。
「一応は。基本、執務仕事を手伝っていますので」
リディオノーレは苦笑しながら答えた。
こんな反応をされるのはなかなか無いので、少し新鮮だった。
「頭おかしいんじゃない?大丈夫?私たちの年齢で執務してる人なんてリディだけよ」
スティルナーデは辛口すぎる言葉を発した。
「ティル!!!」
アングロードとアブストールが怒る。
「だって、そうじゃない。子どもは子どもらしくするべきよ」
スティルナーデは胸を張って言う。
メディオールとは全く真逆の発言で、リディオノーレは笑ってしまった。
彼は子ども扱いをするなと言い、目の前の彼女は子どもらしくあるべきだと言う。
「今をもっと楽しむべきよ。帰る前に1回くらい、手合わせはしてよね」
スティルナーデは身を乗り出す。
「今回は早く帰りたいので、難しいかもしれません」
リディオノーレは苦笑いで答えた。
「えええ。じゃあ、帰るとき私もついていくわ!」
スティルナーデは突拍子もない発言をし、アラウィリアの面々が一斉に噴いた。
「こら!ティル!何を言っている」
アブストールが彼女の頭に拳骨を落とす。
「いったぁぁ!!!別にいいでしょ!入学まで暇だし」
スティルナーデは唇を尖らせる。
「そういうことはすぐ決められることではないだろ」
アングロードも隣の妹の頭をはたいた。
「…………はぁ、もう先が思いやられるわ」
グレティアーナがため息をつく。
「アブストール。きちんと躾けよ」
領主が眉間に皺を寄せながら咎める。
「大変申し訳ありません……」
アブストールは本当に申し訳ない顔で謝罪する。
「リディ、入学したらいっぱい手合わせするから鍛錬を怠らないようにね!」
スティルナーデはまだリディオノーレに話しかける。
「時間があればしてあげるんだけど…」
リディオノーレは答える。
「いっぱいあるじゃない」
スティルナーデは何言ってるの?という顔で言い返す。
「授業も最初は受けるつもりだけど、もう大丈夫だと判断したら試験申し込みして先に受けるつもりだし」
少しずつ砕けた口調になっていくリディオノーレ。
「え、そんなこと出来るの?」
「グレイザック様はそうしていたらしいですよ」
「習ってもない内容の試験を先に受けるってこと?」
スティルナーデは目を見開いた。
「まあ、そういうことになりますね」
「……頭どうなってるの」
スティルナーデは少し引く。
その思いが分かる面々は深く頷いた。
「どうなってるも何も、学院の授業は一応上級生まで詰め込んでます」
その言葉にスティルナーデは思い切り引いた。
「本気で言ってるの?」
「本気というか、事実です」
リディオノーレは苦笑いで答えた。
「ちょっとどうなってるの?アングロードより賢いってこと?」
スティルナーデは双子の兄を見やる。
「ほら、皆予習してるんだよ。ティルもしないと」
アングロードは述べる。
「嫌よ。勉強嫌いだもの」
「このままだと留年するよ?」
アングロードがさらりと怖いことを言う。
「リディオノーレ様。ティルは勉強がからきし駄目で、もし良ければいくらか教えてやって下さい」
アングロードがリディオノーレに助けを請う。
「時間があればいくらでも。学院では私、研究しまくる予定なので」
リディオノーレはにこりと笑う。
その発言に双子以外が苦笑いになった。
本当にグレイザックの弟子である。
「因みに何の研究を?」
アングロードは尋ねる。
「そうですね……。杖の調合の研究に色んな魔法陣でしょ…。それと色んな薬を代替品でつくったらどうなるかとか。図書室と実験室にこもろうかと」
リディオノーレはそれはもう嬉しそうに述べていく。
本当にグレイザックの弟子だと体現しているような内容の数々だった。
アングロードは驚いた顔をしたり、難しい顔をしたりしていた。
「少し興味があります。僕もお手伝いしても?」
聞き終えた彼はそう進言した。
その言葉を聞いたリディオノーレは目を輝かす。
「是非是非!一緒に研究しましょう!」
リディオノーレはそれはそれはもう嬉しそうに声を上げた。
その彼女の喜びぶりに皆が、ぷ、と吹き出す。
「リディオノーレ様は本当に魔法が好きなんですね」
アングロードが微笑む。
「もちろんです。アングロード様も興味がとてもおありでしたら、是非グレイザック様に質問してみてください。師匠は本当に何でも知ってるんですから」
リディオノーレも微笑み返す。
「あのグレイザック様ですからね。常に首席で、最速で試験を終わらし、天馬合戦も百戦錬磨。すごい方ですよね」
アングロードも同意する。
「そうなんです。本当に私の師匠はすごいんです。ですから、師匠の負担が少しでも減るように執務を頑張っているのです」
「リディオノーレ様も十分すごいと思いますよ。その御歳で視察を任されるということは、それだけ認められているってことですから」
アングロードの言葉にリディオノーレがはにかんだ。
「そう言ってもらえると頑張っている甲斐がありますね」
「また色んなお話聞かせて下さい」
アングロードはにこりと微笑んで話を締めた。
「勝手に話を終わらさないでくれるかしら?学院では最低でも1週間に1回くらいは、私との時間つくってちょうだいよ」
スティルナーデが話を戻す。
「確約はできないけど、まあ暇があれば付き合うし、暇が無ければ付き合わないし」
リディオノーレはそう返す。
「机にかじりつきすぎるのも駄目。徹夜も駄目って、グレイザック様が言ってたし」
スティルナーデが唇を尖らせながら言う。
どうしても手合わせはして欲しいらしい。
リディオノーレは苦笑してしまう。
「時間があれば付き合うから。今はとりあえずそれで勘弁してもらっていい?」
「分かったわよ。……………勉強も教えてよね」
スティルナーデはちらりと見ながらそう述べた。
その様子にリディオノーレは、優しく微笑んだ。




