怒られるスティルナーデ
「ちょっと!お姉様!!来たなら教えてくださいよ!!」
リディオノーレとグレティアーナが談笑していた所に、大声を上げながら1人の少女が乱入してきた。
「うわ」
リディオノーレはその少女の顔を見て、思わず声を漏らす。
「!!」
ザファムートも少し驚き、髪の短さにもっと驚いた。
「スティルナーデ!!礼儀がなってないわね!!」
グレティアーナが珍しく咎めの声を上げた。
そのことにリディオノーレは驚いて、グレティアーナを見た。
名前を呼ばれたスティルナーデは肩をすくめ、「ごめんなさい」と呟いた。
開け放たれた扉から、今度はスティルナーデとそっくりの少年が現れた。
「失礼致します。妹が申し訳ありません」
アングロードだった。
グレティアーナはため息をつきながら、双子を見た。
「スティルナーデ、客人の前よ。アングロードも挨拶なさい」
「グレティアーナ様の義弟にあたります、アングロードと申します」
アングロードが頭を下げる。
「アインズビル領主側近、ザファムートでございます」
ザファムートも挨拶する。
「アングロードと双子のスティルナーデです」
スティルナーデも名前を述べると、すぐにリディオノーレに向き直った。
「リディオノーレ!行くわよ!」
早速手を引っ張るスティルナーデ。
「ちょ、ちょっ!どこ行くの!?」
彼女の強い力に引っ張られ、リディオノーレは腰を浮かす。
「こら!スティルナーデ!!」
またグレティアーナの怒声が響く。
びく、と体を震わせたスティルナーデは、グレティアーナを振り返る。
「どこに連れて行くと言うの。リディは仕事で来てるのよ。それに、あなた達どこからわいて出たの。アブストールの実家の方にいるはずでしょう」
「…………。仕事ですか?何のでしょう?」
スティルナーデは質問には答えず、首を傾げる。
その様子にグレティアーナがため息をつく。
「アングロード、あなたがきちんと抑えないといけないでしょう。何してるの」
グレティアーナからの咎めにアングロードは「申し訳ございません」と謝罪する。
「……大変そうですね」と、ザファムートが呟いた。
「ええ、とても」
アングロードは深く頷くと、リディオノーレを引っ張るスティルナーデの手を引き剥がす。
「リディオノーレ様は仕事で来てるんだ。遊びじゃない」
アングロードが叱る。
「仕事って何よ、仕事って。同い年なのに、何の仕事があるのよ」
スティルナーデが真っ向から言い返す。
「………はぁ」
グレティアーナは思わずため息をつく。
「アングロード、つまみ出してちょうだい」
グレティアーナの指示で、アングロードはスティルナーデの首根っこを掴み、引き摺って行く。
「えっ、えっ、ええええ!嫌よ!リディオノーレと手合わせするために来たのに!」
スティルナーデはやいやい叫びながら、引き摺られて行った。
「……申し訳ありません」
やっとスティルナーデの声が聞こえなくなり、グレティアーナは頭を下げた。
「賑やかなご兄弟ですね」
ザファムートが顔を引き攣らせながらそう言って、質問を重ねる。
「リディはあの2人を知っていたのですか?」
「学院での面談の日に会いました。手合わせもしました」
リディオノーレは苦笑しながら答えた。
「それからスティルナーデはリディとまた試合をする、とずっと意気込んでいるのですよ」
グレティアーナも苦笑しながら言う。
「それはそれは……。ということは同学年ということですか」
ザファムートも苦笑いになる。
「リディ、スティルナーデが学院で暴走しないように見張っててちょうだいね」
グレティアーナは、はぁ、と息をつきながら言った。
そんな話をしていたときに部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。
「ティア、入ってもいいか」
アブストールの声である。
許可をもらって入室したアブストールの第一声は「すまない!」だった。
一緒にフェルバールも入室してくる。
「……本当にね!どこから聞きつけたのか知らないけれど、客人の前で乱暴に入ってきたわよ」
グレティアーナはアブストールを睨んだ。
「…リディ、すまない。本当にすまない」
アブストールが頭を下げる。
「アブストール様は謝らなくても」
「いや、本当にすまない。ティルはリディのことを気に入っているようなんだ」
アブストールが頭を掻きながら言う。
「ずっと手合わせしたい、とうるさいんだよ」
「今回は早く帰りたいので、手合わせも天馬合戦もまた今度でお願いします」
リディオノーレは即答する。
彼女の即答ぶりにアブストールは目を見張った。
珍しい。
リディオノーレが試合をしないと言うなんて。
「だって、早く帰りたいんですもん」
「素材をあげると言っても試合をしないのか?」
アブストールが尋ねる。
「………。はい」
リディオノーレは少し沈黙のあと、顔の表情を歪めながらそう答えた。
顔は正直な様子に、周囲の者は少し笑う。
「グレイザック様がいないと寂しいらしいですよ」
フェルバールが口を挟んだ。
その言葉にアブストールが笑い、グレティアーナが「あらあら」と呟く。
「それに関してはまた後で聞くとしようか。部屋に案内しよう」
「あ、私まだティア様と喋っててもいいですか?ザファムート様、荷物お願いしても大丈夫ですか?」
リディオノーレはお願いする。
「構いませんよ。先に私だけ案内お願いします」
ザファムートは言う。
「荷物たくさんあるので、フェルバール様も行った方がよろしいかもしれません」
グレティアーナが進言する。
「アブストールもケネス様もいますから大丈夫ですよ。荷物が整理でき次第、またお迎えお願いします」
グレティアーナはフェルバールに微笑む。
「かしこまりました。よろしくお願い致します」
フェルバールは頭を下げ、ザファムートと共に荷物を運びに出た。
完全に気配が消えたのち、グレティアーナとアブストールの表情が変わった。
グレティアーナはリディオノーレの額を触って熱がないか確認し、次は首を触り脈も確認し、体調に異変がないか満足いくまで確かめる。
アブストールは懐から何かの粉末が入った瓶を取り出し、彼女に振りかけた。
「………ゲリルですか」
リディオノーレはそう言いながら、粉末を吸い込み少し咽せた。
「流石、弟子だな。よく知っている」
アブストールはそう言って、粉末が反応した所がないか確認し始める。
「ほら、見てみろ」
アブストールがリディオノーレの手首周辺を指差す。
粉末の色が変わっていた。
「え」
リディオノーレは驚く。
「ここだけか?後ろは?」
アブストールが背後を確認する。
変色していたのは、手首周辺だけだった。
「え、何も特に変わった感じはないんですが」
リディオノーレは目を瞬きながらアブストールを見た。
「耐性をつけているのか?」
アブストールは尋ね、「息を止めるように」と言うと洗浄魔法をかけてくれた。
「洗い流せただろう。一応今日の夕食に中和剤や緩和剤を混ぜておく」
アブストールは心配するなといった風にリディオノーレの頭を撫でた。
「体に異変はないんだな?日頃から毒に慣らしていたのか?」
「一応やってました。あ、あと毒抵抗の魔法をかけた装飾品もつけてます」
リディオノーレは衣装の内側から首飾りを取り出した。
「………毒抵抗とは、流石ね」
グレティアーナはグレイザックの規格外の魔法に舌を巻く。
「それのおかげだな。良かった、本当に。異常がなくて。よくここまで来たな」
アブストールは微笑んだ。
「そうね。何事もなくて良かったわ。ここにいる間は何も心配しなくていいのよ。私たちがきちんと守るから」
グレティアーナも微笑む。
「ありがとうございます」
頭を下げるリディオノーレをグレティアーナはきつく抱き締めた。




