アラウィリア到着
「メディオール様を本気にさせましたね」
アラウィリアへ向かう道中、ザファムートがそう言った。
「今からウィスナビアは大変ですよ」
ザファムートが苦い顔をする。
「メディオール様が頑張ると言っているので応援しましょう」
リディオノーレは答える。
「ふと今思い出したんですが、ザファムート様も昔、私に求婚しませんでした?」
リディオノーレが思わぬ発言をして、ザファムートとフェルバールが盛大に噴き出した。
「え、ザファムート様、そうだったんですか!?」
フェルバールが目を瞬きながら尋ねる。
初耳である。
「む、昔の話ですよ」
ザファムートが慌てる。
「ほら、公開授業の一件、知りませんか?」
ザファムートはフェルバールに尋ねる。
フェルバールは記憶を辿る。
「…話だけ聞いたことがあります。シャーリネーヴェ様と一緒にグレイザック様の魔法の授業を受けたとか?」
フェルバールがリディオノーレを見る。
「詳細は違います。シャーリネーヴェ様がグレイザック様に恋慕していたのは有名でしょう?嫉妬したシャーリネーヴェ様がグレイザック様の授業を受けたいと懇願したのです」
ザファムートが説明する。
「うわ………それは、リディオノーレ様が大変だったのでは?」
フェルバールが言った。
「……んー、えーと、まあ、色々言われました」
リディオノーレは頭をぽりぽりと掻きながら、答えにくそうに言った。
「その時に私はリディの魔力量と魔法の発想に価値があると知りました」
ザファムートが言う。
「グレイザック様が女性嫌いなのもありますし、リディを他領に出すのは勿体ないと思いましたので、私の嫁はどうですか、とは尋ねましたね。まあ、断られましたが」
ザファムートは苦笑いで説明する。
「何故断ったのですか?」
フェルバールはリディオノーレを見る。
「だって、魔力量も違いますし、魔法陣の研究もしないと明言されましたし」
彼女の答えを聞いて、フェルバールは苦笑いになる。
「……普通はしませんけどね」
フェルバールは呟いた。
「規格外の師匠に拾ってもらったせいで、普通が少し違うのですよ。フェルバール様、これは学院での側近、苦労しますよ」
ザファムートが哀れみの目を向ける。
フェルバールは、ははは…と笑うことしか出来なかった。
アラウィリアへ到着すると、領主一族と騎士団が出迎えてくれた。
「久しぶりね」
グレティアーナが微笑んで、両手を広げる。
「ティア様っ!!」
リディオノーレは外聞を無視して、彼女と抱擁を交わす。
フェルバールが「ごほんっ!!!」と大きい咳払いをする。
「いけないいけない」
リディオノーレは苦笑しながら、グレティアーナから離れ、アラウィリア領主に向き直る。
「視察に参りました。お久しぶりでございます、領主さま」
リディオノーレは微笑んだ。
「息災で何よりだ。グレイザックも元気にしているか」
「もちろんです」
領主と仲良く話すリディオノーレに、ケネスは内心少し驚いていた。
「まあとりあえずはゆっくり休め。ティアに部屋を案内させよう。そこの騎士、アブストールと共に儂についてこい」
領主が指示する。
「かしこまりました」
フェルバールが頭を下げる。
アブストールはリディオノーレと挨拶を交わすと、ケネスの目線に合わすように膝をついた。
「お久しぶりです、ケネス殿。お元気そうで何よりです」
ケネスは喋ることなく頷いた。
「少しの間、護衛騎士を借りますのでケネス殿はそのままリディと居て下さい。ティア、ケネス殿も一緒に案内してあげてくれ」
アブストールはそう指示すると、リディオノーレ達はグレティアーナと共に城内へ入って行く。
「ザファムート様?でしたか?式以来ですね」
グレティアーナは微笑みかける。
その微笑みにリディオノーレは少しだけ目を見開いた。
「ジャンドバルト様もお元気にされていますか?」
「皆、元気ですよ。グレティアーナ様はご結婚されてから、ますます美人になられましたか?」
ザファムートが話す。
「あら、お上手ですこと」
ほほ、と笑うグレティアーナ。
普通に接する彼女にリディオノーレは舌を巻いた。
「こちらです」
グレティアーナが案内したのは応接間だった。
側近がすぐにお茶を用意する。
「お兄様も元気にしてますか?」
「元気ですよ。手紙は定期的に届いてますか?」
リディオノーレは聞き返す。
「……そうね、前よりはマシになったわ」
グレティアーナはため息をつきながら答えた。
その彼女の様子にリディオノーレは苦笑した。
「それよりも、リディ。何か欲しい物はない?」
グレティアーナが尋ねる。
「欲しいもの、ですか?」
「ええ。ほら、学院への入学祝いよ」
「何でもいいですよ」
リディオノーレは微笑み返す。
「………リディ、今までと言ってる事が違うじゃないですか」
ザファムートが突っ込む。
ラルシャークとウィスナビアでは、素材をあんなにねだったのに。
「え?気のせいですよ」
リディオノーレは笑い、懐から腕輪を取り出した。
「これ、この前アインズビルで市に行ったときに買ったんです。良かったら」
「ありがとう」
グレティアーナは受け取ると、「あら?何か魔法かかってるの?」と尋ねる。
「疲労回復の魔法がかかってます。良ければ、使ってください」
リディオノーレは説明する。
それを聞いて、グレティアーナは目を見開いた。
「それすんごく高かったんじゃないの!?」
「大丈夫です。買ったのは石だけですから」
その答えにグレティアーナは更に目を見開いた。
「あなたが加工したってこと……?」
グレティアーナが恐る恐る尋ねる。
「そうです。頑張りました!」
リディオノーレは微笑む。
「………はぁ」
グレティアーナはため息をついた。
「もう驚かないわ。本当に何でも出来るのね。……ありがとう」
彼女は再度お礼を言うと、腕輪を嵌めてくれた。
「では、私から何をお祝いしようかしら」
グレティアーナはそうにこりと笑って、側近に色々持ってこさせるように指示をし始めた。




