メディオールの求婚
「私の本当の名前から言いますね」
リディオノーレは微笑みながら話す。
「今の名前は本名ではないのですか?」
メディオールが驚く。
「今のリディオノーレという名前は、師匠がくれたものなんです。昔は、リディルレーネ・リンド・カルムクラインと言います」
「カルムクライン?……………え!?」
メディオールは更に驚く。
「そうなんです。私は前領主の姪にあたります」
「え、あの、その、私が聞いても良い話なのですか?」
狼狽えるメディオール。
「大丈夫です。メディオール様はカルムクラインについて何をご存知でしょうか?」
リディオノーレは尋ねた。
「粛清された一族だと」
メディオールは狼狽えながらも答えた。
「そうなんですよ。何年前ですか…3年前ですかね。その時に視察に来て下さったグレイザック様にカルムクラインがおこなっている不正の証拠を出し、代わりに引き取ってもらったのです」
リディオノーレは思い出しながら話す。
彼女から語られる過去の話に男3人は苦い顔になった。
フェルバールも初めて本人の口からその話を聞く。
「あの時引き取ってもらえなかったら、今の私は居ないのです。粛清時に一緒に殺されてました」
リディオノーレはからりと笑う。
「引き取ってもらった代わりに執務でも何でも手伝って価値を示さなければならなかったのです。たまたまその適性があり、魔法の適性もあり、グレイザック様のお役に少しでも立てることが出来るよう精進中なのです」
「………リディオノーレ様からしたら、グレイザック様はどのような存在なのですか」
「命の恩人ですよね。そして、師匠です。どれだけ馬鹿しても見捨てることなく面倒みてくれるのです。血は繋がっていませんが、家族のような存在なのです」
リディオノーレはにこりと微笑んだ。
「……では、グレイザック様に認められることができたら、リディオノーレ様を妻にもらうことが出来るのですか」
メディオールは立ち上がって真剣な顔で告げた。
リディオノーレは目を瞬く。
「え?私?私と結婚したいってことですか?」
リディオノーレは驚き、数秒後、頬を染めた。
「び、びっくりしました。そんなこと言われたことないので」
リディオノーレは両頬を両手で押さえる。
頬が熱い。
その様子にフェルバールは内心でため息をついた。
ラルシャーク領主子息のことは、完全にそういう対象で見ていなかったことが今の彼女の様子で丸分かりである。
これくらい直球でなければ、彼女は気付かない。
このメディオールはラルシャーク領主子息よりは彼女への思いが本人に伝わった。
「メディオール様が成人されたとき、もしまだ私が結婚していなければ、その時もう一度求婚してみてください」
リディオノーレは頬を染めたまま答えた。
「では、可能性があると思って良いですか?」
メディオールが真剣な顔で尋ねる。
「今のところは?」
リディオノーレは疑問形で返す。
「………それが聞けただけでも良かったです」
メディオールはにこりと笑う。
「今度求婚する時は、いい男になっておきます」
メディオールはそう言って笑い、「話は終わりです」と告げる。
「すぐお部屋まで戻るようでしたらエスコートしますが、どうされますか」
「……少し火照りがおさまってから帰ります。護衛もいますのでお構いなく」
リディオノーレは微笑んだ。
「分かりました。ではお先に失礼致します」
メディオールは礼儀正しく頭を下げて、戻って行った。
彼の姿が見えなくなって、リディオノーレは口を開く。
「まさか、こんな話だと思ってませんでした」
リディオノーレの言葉にフェルバールは苦笑いで答えた。
「気付いていないのはリディだけですよ……」
「え!?分かってたんですか!?」
リディオノーレは驚く。
「わざわざ夜に来て、しかも誰もいない所に行き、何か決意というか覚悟をした顔をしていらっしゃいましたからね」
フェルバールは言う。
「……流石、男性同士よく分かるんですね」
(あなたが鈍いだけです…)
フェルバールは内心で呟いた。
「まあメディオール様がどうこれから成長されるかによりますが」
「どういうことですか?」
「少なくとも、リディを嫁にもらうには領主にはなってもらわないとグレイザック様が許可を出しません。彼には上に兄弟がいますからなかなか難しいです。それに領主でも足りないくらいとグレイザック様は仰るかもしれません」
「厳しくないですか?」
「いいえ、全然。リディの魔力量をおいそれと他領に渡すわけにはいきませんから」
「領主相手でも駄目なんですか」
「リディは領主以上の魔力量ですから。もし他領に嫁いでしまうと領地同士で戦が起こったとき、かなりの被害が想定されます」
「………戦の可能性がないとは言い切れませんもんね」
リディオノーレは呟く。
「そうです。正直今ですら、リディを嫁取りしようと戦が起こってもおかしくないと思います」
フェルバールの言葉にリディオノーレは目を見開いた。
「そんなことないですよ。だって、そんな気配全くありませんし」
リディオノーレは冗談でしょ、という顔で突っ込む。
「いいえ。本気ですよ。嫁取り合戦が何故おこなわれないのか、考えて下さい」
「……………グレイザック様がいるから、ですか」
リディオノーレは小声で返事した。
「そうです。強敵がいますから。結婚式で大事にされている弟子だとは周知されています。正直あの仲良しさは恋仲に見えますが、今回の視察でそうではない否定されていますよね?なので、好機ありと思われています」
「え、じゃあ、1番被害ないのは、はい恋仲です、って言っておくことですか?」
リディオノーレは目を瞬きながら問いかけた。
「そうですね。それが1番丸くおさまるかと」
フェルバールは頷いた。
リディオノーレは頭を抱える。
流石にそれは駄目だ。
師弟関係を揺るがしてしまう。
「………どうしましょう」
リディオノーレは困った顔でフェルバールを見た。
「どうするもこうするも、グレイザック様がいる間は大丈夫ですよ」
フェルバールが安心させるように言った。
「それに、リディは学生になりますので学業の方を優先させて下さい」
「……そうですね。忘れましょう」
リディオノーレは愛だの恋だのそういったことは、頭の隅に追いやった。
その彼女の様子にフェルバールは思わず吹き出す。
「リディには恋はまだ早そうですね」
フェルバールは笑いながらそう言った。
「う、うるさいですねー!戻りますよっ!!」
リディオノーレは少し怒りながら立ち上がり、怒った足取りで部屋に戻って行く。
フェルバールは笑いながら後ろをついて行きつつ、グレイザック様に報告がたくさんあるな……と内心嫌になっていた。
ウィスナビアの出立日、リディオノーレとメディオールは一度抱擁を交わす。
「リディオノーレ様に似合う男になってみせます」
メディオールはそう言い切った。
その言葉に周囲の人間が目を見開く。
「楽しみにしています。魔法の腕は磨いておいてくださいね」
リディオノーレも昨日の雰囲気はサッパリ忘れ、そう微笑んだ。
「グレイザック様に勝てるくらい、強くなってください」
「……頑張ります!」
メディオールは覚悟を決めた顔で返事した。
それはいくら何でも無茶な…、という声がちらほら聞こえてきたが、リディオノーレは無視だ。
「私は引き取ってもらってから魔力が増えました。その時10歳です。メディオール様もまだまだ大丈夫ですよ」
リディオノーレはそう最後に助言し、手を振ってウィスナビアを出立した。
見送るメディオールを見て、家族が彼に話しかける。
「……本気なのか?」
「本気ですよ。ですので、兄上たちと領主争いをしたく存じます」
メディオールは宣言した。
基本、次期領主は長兄である。魔力量など関係なしに長兄を立てる文化がある。
アラウィリアの次期領主がグレティアーナなのは本来おかしいのだが、婿が騎士団長且つ影の騎士団長という肩書きをもつ者なので許可された次第だ。
男が生まれなければ、生まれるまで妊娠出産を繰り返すか、第二夫人などを娶ってそちらに生ませるか、親戚筋から養子に迎えるかのどれかである。
男さえ生まれれば、あとの兄弟姉妹は彼の補佐にまわったり、結びつきを強めるため他領や他国に嫁いだりする。
「………戦になっても構わぬと?」
ウィスナビア領主は怖い顔でメディオールに尋ねた。
「兄上たちはリディオノーレ様の価値を分かっていないんですよ」
メディオールはそう言う。
あの魔力量にあの知識、そして戦いの手腕も飛び抜けている。
「ウィスナビアに彼女がいたら栄えますよ。絶対に。アラウィリアに並ぶくらい騎士団の方も強くなるかもしれません」
「………好きにしろ」
領主はそう言って、城内に戻って行った。
メディオールは内心、やった!と喜ぶ。
好きにしていいということは、許可が出たということである。
メディオールは兄たちを見据え、先に城内へと戻って行く。
やることがたくさんある。
まずは図書室だ。
リディオノーレに言われた通り、本をたくさん読んでやろうと意気込んだ。




