メディオール
ウィスナビアでの晩餐の席で、領主から報告書をもらい、食事をしながらリディオノーレは書類に目を通す。
「お行儀が悪いですよ」
ザファムートが小声で咎める。
「急いでますので」
リディオノーレはにこりと笑って答え、食べながら読み続ける。
「領主様、ここの支出が不明なのですが」
リディオノーレは目敏く見つけると書類を返却する。
「………これは、大変失礼致しました」
領主も書類に目を通すと側近を呼び、修正するように言いつける。
あの速度で目を通しながら不明点を見つけるなど、日頃から執務に携わっている者しか出来ない所業である。
ザファムートは舌を巻いた。
「リディオノーレ様、今回はどれくらい滞在されるのですか?」
メディオールが尋ねてくる。
「確認さえ終わればすぐに発ちます」
その言葉にメディオールは悲しそうな顔をした。
「リディオノーレ様は学院の入学準備もあるので忙しいのですよ」
フェルバールが優しく声をかける。
「もうそんなお年ですか。早いものですね。何か祝いの物を送りましょう」
領主が声を上げる。
「何かご希望があれば承りますよ?」
領主の言葉にリディオノーレはにこりと微笑んだ。
この顔は完全に何か企んでいる。
フェルバールの顔が少し引き攣った。
「では、ルーグアの種とかは無理ですか?」
「!!」
領主を筆頭にウィスナビア側が驚いた。
「ルーグアの種?ですか?」
フェルバールがリディオノーレに尋ねる。
「フェルバール様はご存知ですか?」
リディオノーレが聞き返す。
「……いえ」
「何故か知らないですけどウィスナビアでしか発芽しないとのことなんです。ちょっと研究してみたいじゃないですか」
「もし発芽理由が分かれば、我々ウィスナビアの大事な収入源を奪われることになりますので、おいそれと許可出来ません。出来れば、他の物でお願いしたいです」
領主が苦し紛れにそう答えた。
「やっぱりそうですか。仕方ありません。杖の素材となる枝をいくつかと特産料理を少し、あとウィスナビアの有名な染物の衣料品などを頂ければ」
リディオノーレは遠慮なしに言い募る。
彼女はそう言って、ラルシャークでも入学祝いをぶん取ってきたのだ。
領主は苦い顔をしながらも了承してくれた。
フェルバールとザファムートは、すいません…という表情で無言で謝っておいた。
食事後、湯浴みも済ませ、寛いでいたリディオノーレの元に1人の客人が訪れた。
「メディオール様?」
リディオノーレは目を瞬く。
扉の外にはメディオールとその側近が立っていた。
「リディオノーレ様、少しお話しいいですか?」
メディオールがリディオノーレを見上げ、覚悟を決めたような顔で尋ねる。
「いいですけど、夜も少し遅いですよ?大丈夫なんですか?」
リディオノーレは後ろに控えるメディオールの側近に向かって尋ねる。
「構いません。少しだけでいいのです」
「分かりました。どうしましょうか、散歩しましょうか?」
リディオノーレは優しく尋ねる。
「お願いします」
メディオールは答える。
「フェルバール様、ついてきてもらってもいいですか?」
部屋で一緒に寛いでいたフェルバールと共にリディオノーレは庭に向かった。
月に照らされた庭には、様々な色の花が咲き誇っていた。
備え付けられてある東屋のようなところに腰を下ろすリディオノーレとメディオール。
側近である2人は少し離れた所に待機している。
「何かお話しがあるんですよね?」
リディオノーレは尋ねた。
「魔法のことですか?いくらでも答えますよ?」
リディオノーレはにこりと笑う。
メディオールは苦笑しながら魔法について質問をすることにした。
「どうやったらそこまで魔力が多くなるんですか?」
「枯渇寸前まで使うといいそうですよ」
リディオノーレは言う。
「……リディオノーレ様、それは子どもに教えることではありません」
咎めるフェルバール。
「子どもではありません」
メディオールが少し怒ったように言い返した。
「気分を害してしまったなら申し訳ありません。ですが、枯渇寸前まで使うのはおすすめしません」
フェルバールが苦い顔をしながら述べた。
「何故ですか?」
メディオールが尋ねる。
フェルバールはメディオールの側近をちらりと見た。
その側近は、少し息を吐きながら口を開いた。
「枯渇すると最悪死にます。枯渇寸前で止めるような器用なことは普通出来ません。それに、魔力自体使いすぎると熱が出ます。何日も続くことだってあるのです。下がらないかもしれません。そのまま死ぬ可能性もございます」
メディオールの側近は言い聞かせるように説明した。
「そうなのですか」
メディオールは内容に驚き、リディオノーレを見る。
「らしいです。私も何回倒れたか」
彼女は苦笑いで答えた。
「だ、大丈夫だったのですか!?」
メディオールが慌てて尋ねる。
「大丈夫だったからこそ、今何とか生きてます」
リディオノーレは笑い、そして続ける。
「結構熱出てますよ。でも私の場合は先に体が火照ってきますので、そろそろ限界なのかなって分かるようにはなりました」
「……この方は稀なので、あまり比べないで下さいね」
フェルバールがメディオールに進言する。
「どうしてそんなに魔法が得意なのですか」
メディオールは次の質問をすることにした。
「得意、というよりかは読書が好きなのです」
リディオノーレがにこりと笑う。
「読書?ですか?」
メディオールは聞き返す。
「そうです。図書室に住んでもいいくらい、魔法の本が大好きです。色んなことが載ってますからね。呪文もそれで覚えましたし、魔法陣も本です。後は、師匠に尋ねながら色々改良したりしている所です」
リディオノーレは楽しそうに話す。
「……最後の一文は聞き流して頂けるとありがたいです」
フェルバールがまた口を挟む。
リディオノーレが話す内容は少しおかしいので、常識人が修正しないといけない。
これを学院でも続けるのかと思うと、フェルバールは内心で泣きそうになった。
「先人たちの知恵が凝縮されていますからね。是非、たくさん本を読んでください」
リディオノーレはにこりと笑った。
「そうします」
メディオールも微笑み、意を決して本題に踏み込んだ。
「リディオノーレ様は、グレイザック様とお付き合いされているのですか?」
メディオールは尋ねる。
その問いにリディオノーレは目を瞬いた。
フェルバールは「やっぱり……」と呟く。
「お付き合いとはどういう?」
リディオノーレが聞き返す。
「その……」
メディオールは目を泳がす。
少し躊躇ったのち、目を閉じて叫んだ。
「恋仲なのですか!?」
メディオールの問いにリディオノーレはもっと目を瞬いた。
「……私とグレイザック様が、ですか?」
リディオノーレは呆然とした顔で聞き返す。
「そんなわけないじゃないですか」
リディオノーレは何言ってるんですか、とからからと笑う。
「冗談ではありません」
メディオールは真剣な顔でリディオノーレを見つめた。
その様子にリディオノーレも少し表情を引き締める。
「………うーーーんと、私の素性をご存知ですか?」
リディオノーレは少し考えたのち、彼に尋ねる。
「いえ。グレイザック様の愛弟子だということだけです」
メディオールは答えた。
その答えを聞いて、リディオノーレはフェルバールを見て確認を取る。
「……リディオノーレ様が構わないのなら、どうぞ」
フェルバールは目を伏せ、答えた。
リディオノーレはメディオールに向き直り、自分語りをゆっくりと始めた。




