↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
152/912

要報告事項




「……私、必要でしたか?」

ラルシャーク領の視察中、ザファムートが思わず尋ねた。

「必要ですよ!視察のことを聞ける方がいるといないのとでは安心感が違いますよ」

リディオノーレは答える。


「それならいいのですが…」

ザファムートは言う。

だって、彼女1人で十分なくらいよく仕事が出来ている。


収支報告書も読めるし、不明点はきちんと尋ねるし、何の問題もない。

問題があるとすれば、天馬合戦に誘われること。

それが1番の問題だ。


「……前回、どのような試合を繰り広げたのですか」

ザファムートが苦い顔になる。

「何って、普通の試合ですよ?」

リディオノーレは首を傾げる。

「何も苦労することなく、呆気なく終わった試合でした」

彼女の言葉にフェルバールが苦い顔になった。


これは恐らく、圧倒的な力量差を見せつけたのだろう。


「侮ってくれていたので、やりやすかったです」

リディオノーレはにこりと笑った。

「試合をしてもいいですが、一戦だけですよ?」

フェルバールが忠告する。

「それに私とリディオノーレ様しか戦えませんので、人数は気をつけて下さい」

フェルバールは注意する。


「……本当に私って信用されてないですね」

「信用とかの問題ではなく、素材をぶら下げられたら問答無用で受諾する癖があるのですよ。グレイザック様から重々言いつけられてますので」

フェルバールは少し睨みながら言った。


リディオノーレは頬を膨らませながらゆっくり答えた。


「……しませんよ、試合は」

彼女の言葉にフェルバールは目を丸くした。

「しません。今回は。早く帰りたいですし」

リディオノーレは弱々しく笑って答えた。


「その、やっぱり、師匠がいるから馬鹿できる所はあるんです。何があってもどうにかしてくれるので。その人がいないだけで、こうも寂しくなるなんて思っていませんでした」

彼女は唇を尖らせた。

グレイザックありきの生活をしていたので、離れるとすごい寂しい。


「……それ、学院でやっていけますか?」

フェルバールが尋ねる。

「それは大丈夫かと。研究と読書に打ち込むので」

リディオノーレはにやりと笑った。

「……リディ、学院は勉学に励む所ですからね」

ザファムートが顔を引き攣らせながら進言した。


「研究と読書も立派な勉学でしょう?」

リディオノーレは笑いながら答えた。




ラルシャーク領で特筆すべきことと言えば、領主子息が少し執拗だったことだ。

領主はやめておけ、と止めていたが、リディオノーレに対し少し執着していた。


「………要報告ですね」

フェルバールは頭を掻きながら呟いた。


「グレイザック様と恋仲でないと言うなら、少しでも考えていただけると嬉しいのですが」

子息は滞在最終日までしつこかった。


「素材も手に入れますし、魔力量も増やします。天馬合戦の腕も磨きます。文通からでも良いので、どうですか」

「………」

リディオノーレも困った顔をしている。


「誰かと付き合うとか、結婚するとか、何も考えたことないので何とも答えられません」

「ですから、文通からで良いのです。お友達から始めませんか。私もたまにそちらに遊びに行きます」

子息が言う。


フェルバールは子息の根性に尊敬の念を覚えた。

後見人が誰か知ってる上で、ここまで諦めないとは本気かもしれない。


「………文通ですね。分かりました。すぐに返信は出来ないかもしれませんが」

リディオノーレは困った顔でそう答えた。

その言葉に子息は嬉しそうな顔をする。


「ありがとうございます!是非!」

子息は満面の笑みでリディオノーレ達一行を送り出したのだった。




ラルシャークの次に向かうのはウィスナビアである。

出迎えてくれたのは領主一族で、リディオノーレお気に入りの末息子もそこに笑顔で待っていた。


「メディオール様!」

「リディオノーレ様!」

2人共に嬉しそうに駆け寄り、抱擁を交わす。


メディオールは少し頬を赤らめていたが。


「……これも要報告ですね」

フェルバールはまた呟いた。

天然の男たらしなのか。

1番たちが悪い。


「先にお墓参りに向かわれますか?」

領主が尋ねる。

「お言葉に甘えていいですか?」

リディオノーレはケネスだけを引き連れて、家族の墓に向かった。


「これか」

ずっと黙っていたケネスが墓を見て、口を開いた。

「そうです」

リディオノーレは花を供え、手を合わせる。

「粛清の件、よくやったな」

「……ケネス様に言われると、師匠に褒められている気がして嬉しいですね」

リディオノーレは笑う。


「2人になれる時がないから今聞く。いつ、襲撃されると思う」

ケネスの質問にリディオノーレは苦い顔をした。

「視察の帰りですかね。1番気が緩んでいますから」

「だろうな。だが、毒にも気を付けろよ」

「毒ですか?」

「そうだ。どこまで耐性をつけてるのか知らんが、毒も警戒しておけ。この世にはお主が知らん毒が死ぬほどあるぞ」


リディオノーレは思わずごくりと唾を飲み込んだ。


「あの騎士にも伝えておけ。そして、あの騎士がどれだけ危ない目に遭っていようと、見捨てて逃げろ」

その言葉に彼女は顔を歪ませた。


「見捨てろ。逃げろと言ったら逃げろ」

「……」

リディオノーレは答えられない。

「時にはその選択も迫られるぞ。今回の最優先事項はお主を無事に生きて帰すこと。あやつの首はその次だ」

ケネスが言い切る。


「………っ。フェルバール様が危機に陥っていたら流石に助けます」

「それを見捨てろ」

ケネスは吐き捨てる。

「それでもしお主が命を落とすことがあれば、我が主はあの騎士を殺すぞ」

「……」

リディオノーレは唇を引き結ぶ。


「お主が無事に我が主と合流できたら、いくらでも助けに行ったら良い」

「……………」

リディオノーレは長い間逡巡し、そしてやっと口を開いた。


「分かりました。ケネス様に従います」

その答えを聞いて、ケネスは頷いた。


「ここに何を入れてるんだ?」

兄のバイリムートの墓の前の土の所の匂いを嗅ぎながら、ケネスが尋ねた。


「……見ますか?」

リディオノーレは結界を解除する。

あの時、見様見真似で遮蔽の結界をかけてみたのだが、習っていなかった分結界が強固になっていただけだった。

遮蔽として正常に発動していなかったのが見て分かる。

故にケネスが気付いたのだろう。


土を掘り起こし、その中を覗きこむケネス。


「書類?手紙か?」

ケネスが尋ねる。


「…………」

リディオノーレは中身を広げる。


「!!!」

ケネスは人間のように目を見開いて驚いた。

「おい、これは」

ケネスが驚愕したまま、彼女を見た。


「これはあやつが欲しがっていた情報ではないのか?我が主がお主の部屋に隠していたはずの情報だろう?結界があるから絶対に侵入できないのを見越して」


「自分の部屋にこんな物があったら流石に私も気付きます。ですので、意外なところに隠そうかと」

リディオノーレはぽりぽりと頭を掻く。


「……こやつ」

ケネスはにやりと笑った。


内通者が欲しがっていたカルムクラインの情報がそこにはあった。


「やりよるな。少し見直した」

ケネスは言う。

これならグレイザックの部屋に侵入しようが最悪リディオノーレの部屋に侵入しようが、絶対バレることはない。

アインズビルには元から無かったのだから。


「今はちゃんとした遮蔽をかけられるのだろう?」

「もちろん」

リディオノーレは書類と手紙を再び埋めると、習った通り遮蔽の結界をかけた。


「戻りますか」

リディオノーレはそう言って、フェルバール達の元へ急いだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。