失神者続出
「まずはラルシャークからですよね?」
フェルバールが尋ねる。
「そうです。お願いします」
リディオノーレは、ケネスが乗っている天馬車の御者台で手綱を握っていた。
「リディ、いつの間にグレイザック様とそういう関係に?」
天馬に乗るザファムートは横に並びながら、彼女に尋ねた。
「え?そういう関係とは?」
リディオノーレは聞き返す。
「え?」
ザファムートこそ聞き返す。
フェルバールは思わず噴き出した。
「何笑ってるんですか」
リディオノーレが突っ込む。
「だって、どう見てもあの光景を見てしまうと皆そうだと思ってしまいますよ」
フェルバールが答えた。
「何の話ですか?」
リディオノーレはまだピンと来ておらず、尋ねる。
「ザファムート様、こういう事なんですよ」
フェルバールが苦笑いでザファムートに話しかけた。
「え、本当にそういう関係ではないということですか?」
ザファムートが目を見開く。
あれはどう見てもそういう関係にしか見えないのだが。
「本当に違うのですよ。驚きでしょう?」
フェルバールが苦笑したまま聞く。
「本気ですか?あのグレイザック様ですよ?あのグレイザック様があんな行動をしたのにそういう関係ではないと?」
ザファムートが聞き返す。
「ええ。違います」
フェルバールは笑いながらそう答えた。
彼女たちの道中はザファムートが質問していたが、アインズビル城内では激震が走っていた。
「待て待て!グレイザック!」
それを無視してスタスタと執務室に急ぐグレイザック。
領主、団長、副団長、騎士たち、ジャンドバルト、料理長に副料理長、その他諸々がぞろぞろとグレイザックを追いかける。
サムエルとムナグレークとバルデミアンは苦笑いだ。
あまりにも大人数がぞろぞろとついてくるので、グレイザックはものすごい爽やかな笑みで振り返った。
知る人ぞ知る1番不機嫌なグレイザックの顔である。
分かっている者は顔を引き攣らせた。
「お前達、気合い入れろ」
グレイザックはそう告げる。
サムエル達3人はすぐに顔を伏せ、盾の呪文を唱えて腹に力を入れる。
3人が用意できた瞬間、グレイザックは爽やかな笑みを向けたまま威圧をおこなった。
「!!」
「ぐぅっ!」
「かはっ!」
「〜〜っ!!!」
殆どが失神し、領主と団長だけ地面に膝をつけて蹲った。
「………やりすぎです」
サムエルは盾を解いて、進言した。
「構わん。放っておけ」
グレイザックは背を向け、執務室に戻って行く。
それについていくサムエルとムナグレーク。
「………え、私1人ですか……」
バルデミアンが呟きながら、失神した人たちの介抱を始める。
そこに追いついたシャイリーネが、惨状を見てため息をついた。
「……はぁ」
シャイリーネは呆れながら杖を出す。
「あんなしつこくしたらそうなるに決まってるじゃないの……」
シャイリーネは杖を操って、失神者を浮遊させる。
「ライ、しっかりしなさい」
シャイリーネは夫である領主、ライリルムントの頭を少しはたく。
「……ぐ…」
ライリルムントは呻く。
「本当に馬鹿ね」
シャイリーネは呆れ返り、「自力で歩いて帰ってきなさい」と突き放す。
「バルデミアン、他の者を運ぶわよ。起こさなくていいわ」
バルデミアンはシャイリーネと共に失神者を浮遊魔法で運び始めた。
執務室に戻ったグレイザックとサムエルとムナグレークは、何事もなかったように仕事を再開する。
「急ぎで仕上げる」
グレイザックの指示のもと、サムエルが高速で仕分けを始める。
ムナグレークは書類の確認、整理をして仕上げ、グレイザックに最終確認を取ったりする。
「領主様まで威圧するのはどうかと思いますが、まあ仕方ないですね」
サムエルは仕事の手を止めずに口を開いた。
「あっちが完全に悪い」
グレイザックはそう答える。
「そうですね。それにグレイザック様は先にきちんとお伝えしていましたし」
ムナグレークも同意する。
わざわざ今から威圧をするぞ、と宣言しただけでも優しいものである。
昔なら、問答無用で威圧だった。
仲間が倒れようがお構いなしだ。
それに比べれば、断然優しい。
「そうだろう」
グレイザックは自分は悪くない、と述べる。
「はじめはラルシャークに向かうのでしたか」
サムエルが話題を変えて問いかける。
「そうだ。ラルシャークは問題ないだろう」
「天馬合戦吹っかけられますよ?」
ムナグレークが言う。
「そうだろうな。だが、ラルシャーク相手なら何の問題もない」
グレイザックは書類から顔を上げずに答えた。
「問題があるとすればウィスナビアだな」
グレイザックはそう言って、ため息をついた。
「何故ですか?」
ムナグレークが尋ねる。
「………領主の末息子だ」
グレイザックは苦い顔で答えた。
その答えにムナグレークは「あー…」と思い出す。
「ええと、メディオール様でしたか」
「そうだ。何故か分からんが、気に入っていただろう」
グレイザックが眉間に皺を寄せる。
「そのメディオールとやらに懇願されれば、滞在期間が伸びそうな気がする」
「………」
ムナグレークは思わず黙ってしまった。
その状況が容易に想像できてしまったからだ。
「フェルバール様にはお伝えしているのでしょう?」
サムエルが尋ねる。
「伝えてはいるが、あいつに止められるかは微妙なところだな」
グレイザックは視察の一行を思い浮かべながら、ゆっくりと息を吐いた。




