側近の決定
視察の前情報をムナグレークとケネスが調査している間、リディオノーレは視察の準備、修行、魔法陣の研究に追われていた。
視察に関しては、サムエルとグレイザックと何回も何回も打ち合わせをおこなう。
修行は、フェルバールとバルデミアン相手に剣を交え、騎士団相手に鞭の練習を毎日欠かさずおこなった。
彼らと共にムナグレークが居ない間の小屋番を交代しながらも過ごした。
魔法陣の研究は、グレイザックに付き添ってもらいながら図書室の本を読みあさったりして何回も何回も試す。
そして、あらゆる自衛の術をリディオノーレに教え込むグレイザック。
「ただいま戻りました」
2ヶ月と半月のち、ムナグレークとケネスが帰ってきた。
リディオノーレが寝台に入る直前だった。
「お帰りなさいませ!」
彼女は慌ててムナグレークとケネスにお茶を淹れる。
「ありがとうございます」
ムナグレークは飲み干す。
ケネスは平たい皿に入れられたお茶をぺろりと舐める。
「よく帰った」
グレイザックも出迎える。
「調査内容はこちらに」
ムナグレークが書類の束をリディオノーレに渡す。
「ありがとうございます」
彼女は受け取って、礼を言う。
「とんでもございません。何か不明な点があれば、いつでもお聞き下さい。私共はこのまま下がります」
ムナグレークはそれだけ言うと、ケネスと共に部屋を去って行った。
書類の束を受け取ったリディオノーレは、ばらぱらと流し読みする。
この量の情報をたった2ヶ月半でどうやって手に入れるのだろうか。
不思議で仕方がない。
「俺の目と耳と、そして足になる2人だ」
グレイザックは書類を軽く覗きながら、唇の端を上げる。
「………すごく優秀な部下ですよね。羨ましいです」
リディオノーレは言う。
「一度、どうやって情報を得ているのかついて行きたいです」
「………相変わらず変わってるな」
グレイザックは苦笑した。
「何でですか」
「これは適材適所がある。お前は女だし、髪の色も目立ちやすい。諜報には向いていない」
完全にその通りなので、リディオノーレは唇を尖らせた。
「お前も学院に行けば、友人と出会うだろう。伝手は大事にしろよ」
グレイザックはそう言って彼女の頭にぽんと手を置く。
「さあ、もう夜も遅い。寝るぞ」
グレイザックに促され、リディオノーレは背中を押されながら自室に戻った。
翌日、執務室で調査内容に目を通していたリディオノーレ。
グレイザックとサムエルは本来の業務をこなしている。
そんな時、執務室の扉を叩く音が聞こえた。
入ってきたのは、フェルバールとバルデミアンである。
「……決めたか?」
彼らの表情を見て、グレイザックが尋ねる。
「はい」
フェルバールが答えた。
「私がついて行きます」
フェルバールはそう言うと、リディオノーレの元に跪く。
「え!?」
フェルバールに跪かれるなんて思っていなかったので、彼女は驚いて立ち上がる。
「リディ、座っておけ」
グレイザックに制され、彼女は腰を下ろす。
「私がリディの、いえ、リディオノーレ様の側近として共に学院に向かいます。よろしくお願い致します」
フェルバールは低頭する。
「き、急に様付けされたら気持ち悪いです」
リディオノーレは顔を歪ませた。
「側近だからな。仕方ない」
グレイザックが口を挟む。
「でも、彼らは護衛騎士では?」
リディオノーレがグレイザックに尋ねる。
「そうだが、側近として赴くために執務をさせていた」
グレイザックは答える。
その答えに彼女は目を見張る。
彼女が毒で倒れる前から執務を始めていたはずだ。
グレイザックは2年前からそのつもりだったということか。
「……いいんですか?」
リディオノーレがグレイザックに確認を取る。
「その為に準備させていた。好きにしろ」
その言葉に彼女は跪くフェルバールを見つめる。
「……よろしくお願いしてもいいですか」
「勿論です」
フェルバールは微笑んだ。
「でも、出来れば様付けはやめて頂けると…。すんごく気持ち悪いです」
リディオノーレは顔を歪ませながら言った。
「……私は構いませんが、リディが何か言われるかもしれませんよ?私とリディは傍から見ると主従関係になりますので、私が愛称で呼んでいるのは外聞が良くありません」
フェルバールは苦笑しながら述べる。
「じゃあ、私がフェルバール様を愛称でお呼びしましょうか?それなら対等では?」
リディオノーレが提案する。
その提案に男共全員が吹き出した。
「リディ、それは駄目です」
黙って聞いていたバルデミアンが口を挟んだ。
「え、でもほらムナグレーク様のことはグレーク様とお呼びしてますよ?」
「それとこれとは話が変わってきます」
サムエルも慌てて言い募る。
「お前はフェルバールと恋仲だと思われたいのか?」
グレイザックがため息をつきながら発言した。
「いやいや、私はフェル様とお呼びしますよ?」
「お前が主人なのに側近を様呼びしてどうする」
グレイザックが突っ込む。
「じゃあどうすればいいんですか」
リディオノーレが唇を尖らせた。
「1番の解決策はお前が様付けで呼ばれることに慣れることだ。それならお前がフェルを様呼びしても構わん」
グレイザックの言葉に彼女は唸る。
「………分かりました」
リディオノーレは納得がいかない顔だったが了承した。
「では、私もこれからリディのことをリディオノーレ様とお呼び致しますね」
バルデミアンも跪く。
「ええ!バルデミアン様もですか!?」
リディオノーレはまた嫌そうな顔をする。
「我らはあなた様の護衛騎士ですからね」
バルデミアンは苦笑しながら述べる。
本当にこの娘は変わっている。
「ですが、周りに誰もいない時はいつものように呼んでください」
リディオノーレは告げた。
フェルバールとバルデミアンは顔を見合わせて少し笑うと「リディらしいですね」と呟き、「かしこまりました」と頭を下げた。
リディオノーレは少しむず痒い気持ちになりながらも「よろしくお願いします」と告げた。
「では、視察の同行者もフェルバールだ。リディ、フェル、ザファムート、ケネスだ。頼んだ」
グレイザックに告げられ、リディオノーレとフェルバールは「はい」と返事する。
「では、お前たちがいるついでに視察の詳細を詰める」
グレイザックは仕事の手を止めて書類をのけると、机の上で手を組んだ。
その瞬間、皆の顔が引き締まった。




