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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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ケネスと対面




翌日、使役獣がいる小屋に向かったリディオノーレ達。


「こんな朝早くからどうされましたか」

ムナグレークが小屋の掃除をしながら、驚いた。

「ケネスとお前に用事があってな」

「私ですか?」

ムナグレークが目を丸くする。


「先にケネスを呼んでくれ」

グレイザックの指示に従い、ムナグレークが大きい灰色の狼と一緒に戻ってきた。


リディオノーレは少し目を瞬いた。

こんな大きい狼は初めて見る。


「リディ。俺の使役獣であるケネスだ」

グレイザックが紹介してくれる。

「因みにお前が初めて市に行って襲撃を受けた時、城まで運んでくれた」

「!!!」

リディオノーレはその事実に驚き、そう言えば何かふかふかのものに乗っていた気がすることを思い出した。


「あの時のですか?」

「そうだ」


リディオノーレはしゃがみこんで、ケネスに視線を合わせる。

しゃがみこむと、ケネスの方が少し視線が高くなった。


「あの時はお世話になりました」

リディオノーレは礼を言って頭を下げた。


使役獣に頭を下げる姿にグレイザックは、く、と笑った。

本当に変わっている。

立場が上である使役する側が頭を下げることは本来なら誰もしないだろう。


「………息災で何よりだ」

ケネスは静かに口を開いた。

「!!??」

リディオノーレは目を瞬く。


そして、振り返ってグレイザックを見上げる。


「言っただろう?俺のは特別だと」

グレイザックは答えた。

さて、どんな反応をするのか。


使役獣が喋ることはない。

本当にグレイザックの使役獣だけ特別なのだ。

だから、ケネスも基本口を開くことはないし、口をきける使役獣なんて恐ろしいだけである。

ケネスはそれでどれだけ苦労してきたか。


「………何故話せるんですか?私も話せる使役獣がいいです」

リディオノーレはグレイザックを見上げたまま答え、ケネスに向き直った。


「その節は本当にありがとうございました。知ってるかもしれませんが、リディオノーレと言います。これからよろしくお願いします」

リディオノーレは挨拶した。


「………くく」

グレイザックは少し笑った。

本当に普通の人とは違う反応をしてくれるから面白い。


ケネスも少し驚いた風な顔で口を開いた。


「ケネスだ。我が主の弟子よ、怖くはないのか?」

ケネスが尋ねる。

「グレイザック様の使役獣なのに怖いことなんてひとつもありませんよ?」

彼女はそう言って首を傾げた。


「我が主と同じで変わってるな」

ケネスは人間のようにからりと笑った。


「それは聞き捨てならん」

「一緒にしないで下さい!」


師弟2人が同時に叫ぶ。

その2人の返答にムナグレークとケネスは笑った。


「ははっ。我が主が楽しそうで何よりだ」

ケネスはそう言うと、「して、今日は何用だ?」と尋ねる。


「いつものやつだ」

グレイザックが答える。

「ああ、もうそんな時期ですか」

ムナグレークが呟く。


「で、リディがいるということは、彼女に教えたということですか?」

ムナグレークが尋ねた。

「そうだ。今年の視察、リディに一任している」

「ほぉ」

ケネスが面白い、と呟いた。


「視察は、リディとフェルかバルデのどちらかとザファムートで赴く。その際、ケネスも同行してくれ。頼めるか」

「我が主の頼みならば」

ケネスは受け入れる。


「ちょっとお待ち下さい。グレイザック様は?」

ムナグレークが慌てる。

ザファムートの同行に驚くのではなく、グレイザックが居ないことに慌てているようだ。


「俺は後ほど行く」

「グレイザック様が居ないのに、その面子ですか?」

ムナグレークは聞き返す。

「そうだ。お前が行けば警戒していると取られる。その代わり、ケネスをつける」

グレイザックは答えた。

「………分かりました」

ムナグレークは少し沈黙したのち了承すると、リディオノーレを見た。


「大丈夫ですよ。ケネス様も一緒に来てくれるらしいですし。グレイザック様の使役獣ですよ?百人力じゃないですか」

リディオノーレは安心させるように微笑んだ。

「………」

ムナグレークは唇を引き結ぶ。

囮作戦を使うのは知っていた。

アラウィリアでの作戦会議で、もう既にグレイザックはそう明言していたのだから。


だが、グレイザックが視察について行かないとは思っていなかった。

怖すぎる。


「良い覚悟だ」

ケネスがにやりと笑った。


「とりあえず、視察前の情報収集をまたお前たちに任せる。その集めた情報はリディに渡せ。頼んだぞ」

グレイザックはムナグレークとケネスに言った。


「承知した」

「……かしこまりました」

ケネスとムナグレークが返事する。


「話はそれだけだ。リディ、戻るぞ」

グレイザックに声をかけられ、2人で城に戻っていく。


その2人の後ろ姿を見ながら、ムナグレークは呟いた。


「大丈夫ですかね」

その呟きにケネスは笑う。

「誰の弟子だと思ってる。我が主が直々に教えている弟子がそんな弱いわけあるまい」

ケネスは吐き捨てる。

弱かったら困る。


どれだけグレイザックがリディオノーレを大事にしているか分かっているからこそ、ケネスは主人の選択を間違っていないと信じている。


「……そうですね。お2人とも規格外ですし」

ムナグレークも弱々しく笑った。






執務室に戻った2人は、日常業務を捌く。

その最中、リディオノーレはサムエルに視察の際の資料を見せてもらいながら、質問したり必要なものを書いたり、さまざまな準備を少しずつ始める。


あれこれ並行して仕事をしていく彼女を見て、サムエルは思わず微笑んでしまう。

本当に執務に適性があるし、グレイザックが仕事を休めたりすることが出来るようになったのは本当に感謝しかない。


彼に余裕があるだけで、かなり平和になる。

グレイザックはどれだけ仕事が忙しくても誰にも頼らないし、依頼が来ても断らない。

無言で全てを淡々と終わらせていく。

大量に仕事があれば、少し不快な顔をしながらも口と態度には出さないようにしながらこなしていくのだ。


それが、リディオノーレが来てから変わった。

特に前回の領主会議後から激変した。

彼女が真っ向から領主に意見したのだ。罰せられるのも覚悟して意見する彼女に少し尊敬したものである。


彼女が防波堤になり、仕事を次々と頼むな!と断る勇姿に感動を覚えた。


自分のこなせる仕事量を把握しているのはとても大事なことなので感心もしている。



「……何やら嬉しそうだな」

グレイザックが微笑んでいるサムエルに話しかけた。

「ええ。グレイザック様の仕事に余裕が出来て、それだけでリディを引き取った価値がありますね」

サムエルは答えた。


「……まあな。執務に関しては重宝しているな」

仕事を捌くリディオノーレを見ながらグレイザックは答えた。

集中している彼女には、彼らの会話など聞こえていない。


「あなた様が楽しい日々を送れているだけでも価値がありますよ」

「これを楽しいと言っていいのか?」

グレイザックが眉間に皺を寄せる。


「楽しくないのですか?楽しいでしょう?あなた様の話についてこれる人なんて、もう現れませんよ」

サムエルは呟く。

「………そうかもな」

グレイザックは小さく同意した。


「なのに、あのような作戦を取るのですか」

サムエルは怖い顔で尋ねた。

サムエルが尋ねている内容のことを理解すると、グレイザックも怖い顔で返した。

「あいつがいる所でする話ではないだろう」

今回の作戦ではない、もう1つの未来の作戦。


「俺は身内を害する者は許さない。一般人ならともかく、相手が相手だ。ならば、そこに潜入するのが手っ取り早い」

グレイザックは返す。

それは、死にに行くのと同義だった。


それを知っているのはサムエルとケネスだけ。

口外するなとも言われている。

だが、その作戦はやめてほしい。

そして、それを止められるのはリディオノーレだけだとサムエルは分かっている。


彼女にしか、グレイザックは止められないだろう。

だが彼は、彼女を残して行くが故にさまざまなことを今から詰め込んでいる。

この視察の一件もそうだ。

視察を彼女主導でおこなうという実践を積ませ、後を任せようとしているのを知っている。


グレイザックの後釜は彼女だと、暗に皆に告げている状態である。

彼女がどう感じているかは分からないが。


「ええ、あなた様の考えも分かるからこそ反対をしていませんでしょう。但し、私とケネスは必ずついて行きますよ。最期まできちんとお供致します」

サムエルは告げた。


「………分かっている」

グレイザックは重々しく答え、一瞬目を伏せた。




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