側近候補の2人
学院からの帰り道、馬車内で叱られるリディオノーレ。
「俺は喋るな、と言った」
「ですが、あの人はわざとあの言葉を言いました!」
「何回も言うが、俺のことは放っておけ」
グレイザックは呆れ返る。
「学院で俺のことを噂されようが放っておくんだ」
「無理ですって。それこそ、何回言ったら分かるんですか」
リディオノーレも言い返す。
「お二人共、それくらいに」
御者台からサムエルが苦笑しながら口を挟んだ。
「お互いに思い合っていることは分かっていますから、その話は収拾がつきませんよ」
サムエルは穏やかに諭す。
「………すいませんでした。少し、イラってしたので宣言しておいただけなんです」
リディオノーレは唇を尖らせながら謝った。
「………分かってる。もし、学院で嫌なことがすぐに連絡すること。まあ大丈夫だろうが。威圧して黙らせておけばいい」
グレイザックは椅子にもたれかかって、腕を組みながらそう言った。
「それは駄目ですよ。威圧した相手が生徒で、もし保護者が出てくる問題に発展すれば、グレイザック様も召集されますよ」
サムエルが言う。
「その方が一気に方がつくし、保護者に脅しもかけられて一石二鳥だろう」
グレイザックの言葉にリディオノーレは吹き出した。
サムエルはやれやれ…と言った風に首を振る。
「やられたらやり返してよい。俺が処理する」
「グレイザック様が後見人で良かったと痛感しています」
リディオノーレは笑いながら言った。
「だろう?」
グレイザックはにやりとする。
そんな2人のやりとりを聞いていたサムエルは、御者台でため息をついたのだった。
アインズビルに帰領すると、ムナグレークと護衛騎士2人が待っていた。
「お帰りなさいませ」
ムナグレークが1番に言う。
「ああ、帰った。サムエルはそのまま荷物を片付けてきてくれ。グレーク、少しリディと学院の話でもしててくれ。フェルとバルデに話がある」
グレイザックのその指示に皆が少しハテナになったが、それぞれが分かれた。
ムナグレークは「あちらで話でもしましょうか」とリディオノーレを誘う。
グレイザックからは離れるが、視界にきちんと入る距離に2人は腰を下ろす。
フェルバールとバルデミアンは、何の話だろうかとグレイザックを見る。
「側近の話だ」
グレイザックは単刀直入に告げた。
その言葉に2人は顔を見合わせる。
「決まったんですか?」
「まだどちらにするかは決めていない」
グレイザックは答える。
「だが、異性の側近がつくことは伝えておいた」
「……分かりました」
フェルバールが覚悟を決める。
「さて、どちらが行く?俺はどちらでも良いが」
グレイザックが2人を見て、にやりと笑う。
「身の回りのことはリディが自分で出来る。側近としての仕事はあいつの監視だ。何があったか週半ばと週末に報告書。寮以外の場の護衛が主な仕事だ」
それは側近の仕事ではない気がするが……、などとは言えない2人。
「執務に携わっていたから、報告書の書き方は分かるな?護衛は騎士な分、申し分ない。ただ、異性の側近なため好奇の目に晒される。それとリディが暴走したときに止められるかが問題だ」
「それが難題ですね……」
バルデミアンが呟く。
「魔力漏れをした時に止めることが出来ないと駄目だ。あとはシャーリネーヴェやアブストールの妹と連携を取ること。その2人から寮での生活のことを聞き、報告をすること。それが最低条件だ」
「アブストール様の妹?ですか?」
フェルバールが聞き返す。
「ああ。そいつも協力してくれることになった」
「お名前は?」
フェルバールに尋ねられ、グレイザックは黙った。
少しの沈黙。
グレイザックは考えたのち、口を開いた。
「妹は妹だ」
「……」
その答えに騎士2人は内心でため息をついた。
完全に名前を覚えていないようである。
「見たら分かるぞ。短髪だからな」
グレイザックはそう言い訳をする。
「とりあえず、だ。先程の条件をもとにどちらが側近として赴くか決めてくれ。側近の場合、給金は弾もう」
その言葉に騎士2人が目を輝かせた。
「色んなことを考慮した上、決めてくれ。無理ならば早めに頼むぞ」
「……断ることも出来るのですか?」
バルデミアンが恐る恐る尋ねた。
「良いぞ。後のことは知らんが」
グレイザックは唇の端を上げた。
なかなかに怖い脅しである。
騎士2人はごくりと唾を呑み込んだ。
「俺はお前たち2人を信用しているぞ」
グレイザックは最後にやりと笑って、2人に背を向け、「リディ戻るぞ」と声をかけた。
「はい!行きます!」
リディオノーレは返事して、ムナグレークに挨拶しグレイザックについて城内に戻った。
執務室に戻ると、サムエルが仕事を捌いていた。
「遅くなった。サムエル、今日はほどほどでいいぞ」
グレイザックが声をかけ、続ける。
「俺はリディと少し図書室にこもる。夕食の時に迎えに来てくれ」
「かしこまりました」
サムエルは答える。
「ほら、リディ行くぞ」
今度は図書室に向かう。
グレイザックから課題が出た。
制服の内側に汚れ防止の魔法陣を施すよう言われたリディオノーレ。
苦悶の表情で本や資料を探すのだが、何も見つからない。
どこにも載っていないのだ。
「グレイザック様、見つかりません」
リディオノーレは泣きそうな顔になる。
「もしかして禁書庫ですか?」
「いや」
グレイザックは読書をしながら、顔も上げずに答える。
リディオノーレは思案する。
知ってる魔法ならそのまま制服に付与していたはずだ。
知らない魔法だからわざわざ図書室に調べに来たということは分かる。
「え、ちょっと待ってください。まさか?」
リディオノーレはグレイザックを見た。
「いや、そんなことが……。いや、でもグレイザック様ですし?」
リディオノーレは目を瞬きながら呟く。
「もしかして………つくり、ました?」
彼女は恐る恐る尋ねてみる。
有り得ないことだが、この師匠なら有り得る。
「本などを保管するには汚れ防止をかけた方が良いに決まってるだろう?」
グレイザックは彼女の質問には答えず、そう答えた。
「そんな便利なものがあるなら、何故皆さん使ってないんですか?」
その問いにグレイザックは少し目を逸らす。
やっぱり。
リディオノーレは確信を得た顔でグレイザックを見た。
「汚れ防止は出来るようになっておくと本などの保管に使えるぞ。お前にはもってこいの魔法だろう」
グレイザックは言い訳のように話す。
「確かにそうですが、そんな簡単につくれるものなんですか?」
「俺だからな」
グレイザックが答える。
もうこの答えで納得してしまう所が規格外の証拠である。
「俺の本棚の資料には答えがあるが、まだ時間はあるから研究しておけ。汚れ防止くらいなら何とか出来るだろう」
さも簡単に言っているが、無い魔法をつくるということは簡単ではない。
だが、彼がリディオノーレに出来ると言っているのだから出来るのだろう。
「こういうの、好きだろう?」
グレイザックが唇の端を上げる。
流石、よく分かっている。
「大好きです。師匠に煽られると尚更、奮起しますね」
彼女も思わず唇の端を上げた。




