面談2
「聞き捨てならない発言ですが、今は看過しましょう」
学院長が咳払いする。
「魔力制御も問題なさそうですね。では、私から1つ、よろしいですか」
学院長が微笑んだ。
「何なりと」
リディオノーレは答える。
「杖の魔石にアインズビルの紋章が刻まれていますが、どういうことでしょう?オルネリアの紋章でもなく、カルムクラインでもなく?」
学院長の質問にグレイザックが足を組み直し、腕も組んでまっすぐ見つめる。
「何か問題でも?」
グレイザックは真っ向から聞き返す。
「リディオノーレはカルムクラインではありません。カルムクラインの名を出さないようお願いしたい」
まっすぐ視線を逸らさない。
「カルムクラインの生き残りということは、知っている者は知っている」
学院長が答え、そして続ける。
「グレイザック、そなたが〝私生児″と言われたように噂は勝手に回る」
その学院長の言葉にリディオノーレが反応した。
『落ち着け』
グレイザックの念話が飛ぶ。
リディオノーレは、ぐ、と拳を握った。
「リディオノーレは私の弟子です。ただ、他領の人間なので婚姻でもして嫁がない限り、アインズビルは名乗れません。ですが、アインズビル領主一族に認められているという証にアインズビルの紋章を入れています」
グレイザックは答える。
「もう一度言います。リディオノーレは私の弟子です」
グレイザックは告げる。
「この意味分かりますよね?」
教授たちを1人1人見つめるグレイザック。
「もし、リディオノーレに何かがあれば、私が出ますので」
グレイザックが腕を組んだまま、指先をとんとんさせながら言い放つ。
「いじめられようが侮辱されようが、本人は何も気にしないでしょうし、むしろ威圧で失神させそうですが、もしそんなことがちらとでも私の耳に入ったら、完膚なきまでに潰しますのでご容赦を」
「……」
教授たちの顔が引き攣った。
「………本当に可愛がっているのですね」
アリウォーナが口を開いた。
「……それが何か?」
グレイザックは片眉を上げながら答えた。
「あのー、私からも1ついいですか?」
リディオノーレは手を挙げる。
「私、すぐ魔力が漏れるそうなんです。もう少し抑えろ、と言われているんですが」
語り始めるリディオノーレ。
グレイザックは少し眉間に皺を寄せて、彼女を見た。
何を言うつもりだ?という顔をしている。
「魔力が漏れる原因は分かりきっているんです。聞いていただけますか?」
リディオノーレはにこりと微笑む。
「………言わんでいいだろう」
グレイザックは息を吐いて呟く。
「いや、犀の魔石4つを扱える者に威圧をされたら、皆失神する」
学院長が言う。
「聞こう」
「私は身内を貶されると、つい、怒ってしまいます」
「そなたの言う身内とは?」
「もちろん、グレイザック様です。他にも4人いますが、グレイザック様には命を預けられるくらいの大事な師匠ですので、貶されると問答無用で威圧します。なので、言葉は選んでいただけるとありがたいです。先生も生徒も関係ありません」
リディオノーレの言葉に教授たちが息を呑み、グレイザックを見た。
「お互いが大事な存在だということは分かりました。気を付けましょう」
アリウォーナが答える。
「お願い致します」
リディオノーレは頭を下げた。
「あと、こちらからもう1つ」
グレイザックが口を開く。
「リディには同性の側近ではなく、異性の側近がつきます。女子寮の近くに側近の一室を頂けたらありがたいのですが」
その申し出に教授たちは顔を見合わす。
『側近つけてもらえるんですか』
リディオノーレは少し驚いて、グレイザックに尋ねる。
『勿論だ。異性だがな』
「女性の側近はいないのですか?」
教授の1人が尋ねる。
「残念ながら」
グレイザックが答える。
「女性の側近でなければ、彼女は生活出来ないのでは?着替えは?お風呂は?その他諸々どうされるのですか」
教授に尋ねられ、グレイザックはリディオノーレを見た。
「リディは1人で何でも出来ますので。側近をつける意味は、彼女の監視です」
「監視?ですか?」
アリウォーナが聞き返す。
「そうです。監視です。何をしでかすか分かりませんので」
「………」
教授たちが一斉にリディオノーレを見る。
「グレイザックにそう言われるとは、一体何をしでかすんだ?」
と誰かが呟いた。
リディオノーレはグレイザックを思わず睨みつける。
「先生からの信頼なくすじゃないですか。やめてくださいよ」
リディオノーレは文句を言う。
「周知しておいてもらった方がいいだろう?」
グレイザックは唇の端を上げる。
「とりあえず、異性の側近がつくため、その部屋の用意をお願い致します。学院生活で何かあれば、私に連絡を」
グレイザックはそれだけ言うと立ち上がった。
「では、もう良いですか?」
グレイザックが話を切る。
「……リディオノーレ様、次にお会いできるのを楽しみにしています」
アリウォーナは声をかける。
バイルミングと言われた教授は、喋ることなく微笑んでいた。
会ったことはないのだが、どこか見覚えのある感じがするのは気のせいだろうか?
リディオノーレは少し疑問に思いながら、バイルミングを少し見つめ、去って行くグレイザックの後を追った。
師弟2人が去ってから、教授たちは互いに顔を合わせて笑った。
「あのグレイザックがあんなに懐かれているなんて」
「本当に。目を疑いましたよ」
「グレイザック自身もかなり可愛いがっているようでしたね」
「あの杖見ましたか?」
「あれは一体どうやって……?」
「グレイザックだからこその凝り様でしたね」
次々と話が飛び出る。
「あの杖は恐らくですが…」
アリウォーナが説明をする。
「疑問なのですが、グレイザックは何故あの娘を弟子に?」
「確かに。実際見るまでは本当に弟子を引き取ったのか半信半疑でしたが…」
「かなり信頼関係があるように見えましたね」
「以前のグレイザックなら粛清の対象の一族など問答無用で処刑だったでしょう」
「何があったのでしょうか」
「気になりますね」
「それも気になりますが、彼女の魔力量、グレイザックに次ぐ量ですよ。学院でも彼女に勝る生徒はいないのでは」
「そうですね。学院一ですね。制御を間違えれば、危険です。威圧をしてしまうと言っていたので、それは十分気を付けておかないと」
「確かに。あの魔力量で威圧されたらすぐ失神してしまいます」
「そして、あの知識量も異常では?」
「あれは完全にグレイザックのせいですね」
アリウォーナの言葉に皆が頷く。
「グレイザックが手ほどきしているのでしょう。それほど、あの娘には期待しているということでしょうか」
「あのグレイザックが他人に?しかも女性に?」
「かなり稀ですが……」
「学院時代の彼からでは想像もつきません」
口々に意見が飛び交う。
「とりあえず、あのグレイザックが他人に心を開いているという事実に喜びましょう」
学院長の言葉に教授たちが頷いた。




