面談
「グレイザック、先に帰る」
面談が終わったアブストールが部屋を出てきた。
「やっぱり面談遅かったじゃない」
スティルナーデは呟く。
リディオノーレはそれに苦笑いで返す。
「ああ」
グレイザックはアブストールにそう返事する。
アブストールは手を振って、双子を連れて去って行った。
「あ、お待ち下さいませ、グレイザック様」
アブストールと入れ違いに教授たちが次々と先に部屋に入って行く。
「???」
リディオノーレは首を傾げる。
グレイザックは苦い顔だ。
「ここで合ってますよね?」
リディオノーレは尋ねた。
「……ああ」
グレイザックは息を吐くと、部屋の扉を開けた。
部屋に入ると思ってるより教授の人数が多くて、リディオノーレは目を瞬いた。
真正面の長机に教授たちが腰を下ろしている。
グレイザックはため息をひとつ吐いてから、口を開いた。
「グレイザック・グリス・アインズビルとその被後見人であるリディオノーレです」
グレイザックはそれだけ言うと置いてある椅子に尊大な態度で腰を下ろした。
そして、足を組み、手を組んで教授たちを爽やかな笑みで見る。
「……っ」
黒髪で黒縁眼鏡をかけている女性の教授の顔が少し引き攣ったのが分かった。
リディオノーレはグレイザックと教授たちを交互に見つめる。
その黒縁眼鏡の教授が、ひとつ咳払いをして口を開いた。
「……では、リディオノーレ様、お名前をお願い致します」
「はい。……リディオノーレ…」
『ネルク・オルネリア!!!』
グレイザックから叱責混じりの念話が飛んできて、リディオノーレは思わずびくりとした。
なかなか馴染みのない名前なので覚えられてないのだ。
「リディオノーレ・ネルク・オルネリアです」
リディオノーレは笑顔で誤魔化した。
「オルネリア……?」
教授たちが少しざわめく。
「こほん、リディオノーレ様、着席して下さい」
その黒縁眼鏡の教授が進行役なようで、リディオノーレは言われた通りに椅子に腰を下ろす。
椅子はグレイザックの隣なので、そこまで緊張はしないが、あまりにも教授たちの数が多くて驚いている。
「人数が多いのでは?」
リディオノーレが着席をしたのを確認し、グレイザックは先に口を開いた。
「大概は、寮監と学院長の2名では?今何名いらっしゃるのですか?その4倍はいますが?」
グレイザックが爽やかな笑みを湛えたまま述べた。
リディオノーレは内心でひぃぃと身を縮めている。
相当不機嫌なグレイザックである。
黒縁眼鏡の教授も顔を引き攣らせながら、何とか口を開いた。
「元気そうで何よりです」
「ええ、アリウォーナ先生」
グレイザックは答える。
「!」
リディオノーレは目を瞬いて、教授を見つめた。
この眼鏡の教授が手紙をくれた人なのか、とリディオノーレは親近感を覚えた。
「いつぞやは返信頂いてありがとうございました」
アリウォーナはにこりとリディオノーレに微笑む。
「いえ。こちらこそ、ありがとうございました。お会い出来るのを楽しみにしていました」
リディオノーレも微笑み返す。
「どういうことだ、アリウォーナ!私にも紹介してくれ!」
「いやいや私にこそ!」
「グレイザックの弟子なのですから、実験得意でしょう!?だから、私の研究を手伝ってもらうのです」
「いやいや、恐らく剣も得意だろうから、その訓練に付き合ってもらうっ!!」
「女の子ですよ!?そんなことさせません!」
「魔法陣も得意のはずなので、私がもらいます」
教授たちが急に言い争いを始めた。
リディオノーレは目を瞬きながら、隣のグレイザックを見る。
グレイザックは肘掛けに頬杖をついて、呆れていた。
学院長が手を打って、話をやめさせる。
「私的な会話は後にしなさい。先に杖を」
学院長に促され、教授たちは咳払いをして威厳を正す。
「リディオノーレ様、杖を見せてもらってもよろしいですか?」
アリウォーナが立ち上がり近付いてくる。
「折るなよ」
グレイザックがひと睨みする。
その様子にアリウォーナは目を瞬いて、リディオノーレから杖を受け取った。
「………」
アリウォーナは杖とグレイザックとリディオノーレを何回も何回も順に見る。
「??」
リディオノーレは少し首を傾げた。
何かおかしな所があっただろうか。
「どうしました、アリウォーナ。杖を」
学院長に促され、アリウォーナは我に返り、杖を見せる。
「!!??」
学院長はその杖を見て、驚いた顔をする。
少し検分したのち、隣の教授に渡す。
「これは一体……?」
「どうやったらこうなるんだ?」
「魔石にアインズビルの紋章が入っているぞ」
「何だ、この高度な杖のつくり方は…」
口々に皆が呟きながら検分していく。
全員が検分し終えると、アリウォーナがリディオノーレに杖を返した。
「ありがとうございました」
「いえ」
リディオノーレは杖をしまう。
「金色ということは、犀ですね」
制服購入時にいた教授が口を開いた。
「はい、そうです」
リディオノーレは頷く。
「魔石は一体いくつ……?」
初めて見る先生が尋ねる。
リディオノーレはグレイザックを見て、再度確認する。
そんな彼女を見てアリウォーナは少し目を瞬く。
グレイザックを信頼している彼女に思わず笑みが漏れた。
グレイザックが小さく頷いたのを見て、リディオノーレは口を開く。
「4つです」
その答えに目を見開く教授たち。
学院長はにこりと微笑み、「その魔力をきちんと制御できるか見せてもらってもいいかな?」と尋ねる。
リディオノーレはまたグレイザックを見る。
『問題ないだろう。応えてやれ』
『分かりました』
リディオノーレは学院長に「大丈夫です」と答えた。
「では、バニヴィアンを。杖の振り方は…」
学院長の言葉の途中で、リディオノーレは「バニヴィアン」と唱える。
書記をしていた教授の筆が飛んできた。
学院長は目を瞬いた。
「よく知ってますね。そうですね、では魔法陣に魔力を流してもらいましょうか。剣に変えてもらいましょう。誰か魔法陣を持っていらっしゃいますか?」
学院長が教授たちに尋ねる。
「あ、大丈夫です」
リディオノーレは答える。
「え?」
教授たちが聞き返す。
「剣ですよね?」
リディオノーレはぱぱっと陣を描くと、「グラティパーダ」と唱える。
剣に変わったのを見て、アリウォーナが苦笑した。
「………グレイザック、何処まで教えているのかしら」
アリウォーナが尋ねる。
「大概は出来るはすだ」
グレイザックの答えに教授たちの目が輝く。
「では、弓矢に変えれますか?」
「はい。リヴァベーレ」
一旦解除して、杖の状態からまた弓矢の呪文を唱える。
「で、では斧は?」
「そうですねぇ、槍は?」
「あ、鞭はどうですか?」
教授たちの要求を次々とこなすリディオノーレ。
教授たちは楽しそうである。
「闇はどうですか?」
「闇ですね」
『省略するなよ』
グレイザックに念話で注意され、危ない危ないと思いながらリディオノーレは陣を描く。
闇になった部屋を今度は光の魔法陣で元に戻す。
「………」
アリウォーナは苦笑しながらグレイザックを見た。
入学前から詰め込みすぎである。
「リディオノーレ様は自身で調合などされますか?」
アリウォーナが尋ねる。
「もちろんです。杖や薬の調合もします」
リディオノーレは笑って答える。
その答えにアリウォーナは目を輝かせた。
「あら、では入学後は私の実験を手伝ってくれるかしら?」
「私で良ければ喜んで。私も実験したいことがあるので、それも手伝ってくれるのなら」
「ちゃっかり条件を出す所が弟子らしいわね」
アリウォーナが笑う。
「ほどほどにお願いしますよ」
グレイザックはため息をつきながら口を挟んだ。
「リディ」
グレイザックの愛称呼びに、教授全員が目を見開いた。
「覚えておかないといけないのは、アリウォーナとあの男、バイルミングだ」
グレイザックが指を差す。
その他はどうでもいいのか!?と皆が内心で突っ込んだことだろう。
「この2人さえ覚えておけば問題ない」
グレイザックは唇の端を上げて言った。
『そんなこと言って大丈夫なんですか?』
リディオノーレは尋ねる。
『何の問題もない。この2人だけは味方につけておけ。あとはどうでもよい』
そう言い切るグレイザックにリディオノーレは苦笑した。




