剣の手合わせ
食堂に向かうと、新入生全員が揃っていた。
「揃いましたね。では、学院長から説明があります」
学院長は想像通りの人物像で、白髪に白髭をたくわえたご老人だった。
話の中身はこうだ。
入学したら寮生活になるため、身の回りのことは自分で出来るようにしておくこと。
側近を1人連れてきても良いが、頼りすぎないこと。
食事は食堂で摂ること。
家に帰る際は、寮監の許可を得ること。
試験に落ちると一度は再試験出来るが、それに落ちれば留年となること。
『特に問題なさそうですね』
リディオノーレは念話を飛ばす。
『ああ』
グレイザックは返事する。
この2人だけ黙々と食事を摂り続けていた。
他の皆は真剣に話を聞いている。
『意外と美味しいですね』
リディオノーレは呟く。
『意外とな。だが、毒には気を付けろよ』
『ここでもですか?』
彼女は眉間に皺を寄せる。
『当たり前だ。毒抵抗のある装飾品をつけているから、もし毒があれば反応するだろう』
グレイザックはそう答え、おかずを一品彼女に渡す。
最近気付いたのだが、どうやらこのおかずはグレイザックは苦手なようである。
『私もこれあげます』
リディオノーレもおかずを一品彼に渡す。
実は好き嫌いが全くもって反対なので、片方が嫌いなものは片方が好きなため、とてもいい関係性である。
「この後は、順に面談へと移ります。場所が書いてある紙を渡しますので、食後そちらへ移動して下さい」
1人の教授がそう言うと、補助の学生たちが用紙を配り始める。
用紙を受け取ったグレイザックは、内容を確かめた後リディオノーレに渡す。
「結構時間ありますね?」
リディオノーレはグレイザックを見る。
「恐らく最後だ」
グレイザックは答え、食事を平らげた。
『時間があるから、少しうろつくか?』
グレイザックが提案する。
『いいんですか!?是非』
リディオノーレは満面の笑みになる。
そんな話を念話でしていた所に、またあの双子とアブストールがやってきた。
グレイザックが「……ちっ」ともの凄い小さい声で舌打ちした。
隣にいたリディオノーレだけが聞こえるくらいのとても小さな舌打ちだった。
「あなたの面談の時間はいつ?時間あるなら、早速手合わせしない?」
スティルナーデが好戦的に話しかける。
「悪いが、すぐだ」
グレイザックはそう答え、立ち上がる。
リディオノーレも慌てて立ち上がる。
ここで本当の時間を言うと後が怖いため、リディオノーレは黙ってついて行くだけである。
「嘘なんでしょう?さっきの紙、見せなさいよ」
手を出すスティルナーデ。
「ティル」
アングロードは咎める。
「今日はお互い忙しいから駄目だ」
アブストールも止める。
「じゃあ、いつならいいんですか」
スティルナーデが睨む。
「その内な」
グレイザックは適当に流すと、「行くぞ」とリディオノーレに声をかける。
「意気地なし!負けるのが怖いんでしょう?師匠を取られるのが嫌なんでしょう!」
スティルナーデは声を荒げた。
その言葉にリディオノーレは首を傾げる。
「……嫌なわけないじゃないですか。魔法に関しては大好きなのでいいですが、武器はあまり得意でないのに手合わせさせられてるんですから、私の負担が減るなら是非譲ってあげたいですよ」
リディオノーレは苦い顔で言う。
何を言っているんだ、という顔をしている。
「なら、受けて立ちなさいよ。私が負けたら一生、あなたに従えばいいんでしょう?やってやるわよ」
スティルナーデの勇ましさは脱帽ものである。
リディオノーレは困った顔でグレイザックを振り返る。
「お前たちの時間は?」
グレイザックは簡潔にアブストールに尋ねる。
「俺たちも最後の方だ」
「……分かった。弟、先生に言って訓練場使用の許可を得て来い」
グレイザックはアングロードにそう命じる。
彼は何一つ嫌な顔せずに許可をもらって帰ってきた。
先程、制服を買う際にいた教授も一緒に。
「剣の手合わせをおこなうと聞いたのですが?」
「ええ。構いませんか?」
グレイザックは尋ねる。
「別に構いませんが、誰と誰が?」
「こいつとこいつです」
グレイザックは親指で示す。
「私が監視役としてつきますがよろしいですか?」
「構いません」
グレイザックは答える。
「ではこちらに」
教授について、訓練場に向かう5人。
訓練場はアラウィリア並みに広く、客席もきちんと設置してある。
「……施設や備品を壊しませんよう、よろしくお願いしますね」
教授はリディオノーレとスティルナーデに向かって忠告する。
「はい」
「分かりました」
「では、試合前に条件を確認する」
グレイザックが進み出る。
「使える魔法は身体強化のみ。武器は剣。そして、どちらかが降参と言うか、剣を弾き飛ばされるか、審判である先生が止めたらそこで終了だ」
グレイザックは女子2人に確認を取る。
リディオノーレは頷き、スティルナーデは「はい!」と元気よく、胸を張って返事した。
「では、互いに武器へと変換せよ」
指示通り、2人は杖を出して武器へと変える。
スティルナーデは女子が扱うにしては大きい剣だった。
「では、先生。よろしくお願いします」
グレイザックが下がり、教授の合図で剣の試合が始まった。
グレイザックは腕を組んで見ている。
『お前は馬鹿か』
時々念話が飛んできて、リディオノーレは気が削がれながらもスティルナーデに応戦していた。
スティルナーデは自分で試合をふっかけるくらいなので、そこそこ強い。
「………グレイザック、リディの剣の腕が上がっているじゃないか」
隣で見ていたアブストールが呟く。
「当たり前だろ」
グレイザックは言い放つ。
『ほら、そこ、足が来るぞ』
グレイザックの念話通り、足技までかましてくるスティルナーデ。
リディオノーレは飛びすさり、着地した足に魔力を込めて反動をつけて突っ込んだ。
「ぐ!」
スティルナーデは呻く。
『押し切れ』
グレイザックの指示に従い、身体強化を強めにしてそのままスティルナーデに向かって力任せに押していく。
『そのまま』
グレイザックは腕組みしたまま、指をとんとんと叩きながら様子を見ている。
「これは、やられますよ……」
アングロードが呟いた。
「ティル!体をねじれ!」
アブストールが声を上げた。
「〜〜っ!!」
スティルナーデはリディオノーレの剣を頑張って横にずらし、彼女の剣をそのまま押さえたまま肘鉄を食らわす。
「!!」
リディオノーレは仰け反りながら、それを何とか避けると、力の緩んだスティルナーデの剣を払う。
剣を払い体勢を崩した所を、リディオノーレは腕に魔力を多めに流し、剣を叩き折るくらいの力を込める。
『もし、折れたら、杖はどうなり、ますかっ』
リディオノーレは力を込めたまま念話を飛ばした。
『解除されて杖に戻るだけだ。だから、やってしまえ』
リディオノーレは更に魔力を込める。
魔力量だけで言えば彼女に敵う者などいないだろう。
「ぐぅっ!」
スティルナーデは呻く。
リディオノーレは歯軋りしながら力を流し、そのまま押し切った。
パァン!と弾けた音がして、剣が解除され杖が地面に落ちる。
「………」
スティルナーデはリディオノーレを睨みつけた。
リディオノーレも剣を解除して杖に戻すと、ぽりぽりと頭を掻く。
そんなに睨まなくてもいいのではないだろうか、と思っているが言えない。
「そこまで」
教授が号令をかけ、試合が終了した。
教授は「私はこれで」とその場を去る。
「……ティル、よくやったよ」
アングロードが駆け寄り、声をかける。
「……っ」
スティルナーデは泣きそうだった。
すごく悔しい顔をしている。
「……スティルナーデ様」
リディオノーレは声をかける。
「何よっ」
「純粋に剣だけなら、スティルナーデ様が勝ちますよ。私は魔力が多いから、身体強化にたくさん魔力を流せるんです」
「……でも、負けは負けよ」
この潔さは、素晴らしかった。
「では、お前はリディに従うか」
グレイザックが腕を組んだまま尋ねる。
「……ええ」
その答えを聞いて、リディオノーレは彼女に手を差し出す。
「お友達になりましょう」
まさかの発言にスティルナーデは目を丸くする。
「……ふんっ」
彼女は顔を背けながら手を握り返した。
「妹よ」
グレイザックは声をかける。
手を離したスティルナーデはグレイザックを見つめる。
「お前に仕事がある」
「??はい」
「お前は女だ。寮も一緒だ。こいつが実験や徹夜せずにきちんと就寝しているかの監視。授業中の発言や態度など規格外なことをしていないか、見てやってほしい」
スティルナーデは目をぱちくりさせる。
「え?あ、はい。お安いご用です」
スティルナーデは答える。
反して、リディオノーレは苦い顔をしていた。
「……私、信用されてませんね」
「当たり前だろう。女の側近をつけられないから、こいつは役に立つだろう。何か変なことをしていたら注意してやってくれ。弟も同様にリディを頼めるか?」
「分かりました!やります!」
スティルナーデはグレイザックに弟子を頼まれたことが嬉しいのか笑顔だ。
アングロードも静かに頷いて「かしこまりました」と頭を下げる。
「使える兄妹だな」
グレイザックは笑う。
アブストールは苦い顔でため息をついた。
「アングロード、頼んだぞ」
アブストールは弟の肩に手をやる。
もう約束してしまったし、ここまで関わったなら仕方ない。
しっかり者のアングロードに任せるしかない。
アブストールは今度は弟子のリディオノーレに関わることにより、いろんなことに巻き込まれるであろう双子に哀れみの目を向けた。




