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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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アブストールの兄妹




「!!!」

もう既に結構集まっていたようで、一斉に視線が2人に集まった。


「あれって……」

「金髪と赤紫の髪、そうよ……!」

「あれ、どこの方?すごくカッコいいんですけど!」

皆が次々と囁き出す。


『ほら言ったろう』

グレイザックが念話を飛ばす。

『……グレイザック様に対する声の方が多いですけどね』

リディオノーレも返した。



「制服はこちらです。お並び頂いて、自分の大きさの制服を購入して下さいませ」

教授とみられる人たちが声をかけて案内している。


並んでいると「リディ」と背後から声をかけられ、振り返った。

そこにはアブストールと見たことのない双子だと思われる少年少女がいた。


アブストールを見て、グレイザックは少し息を吐いた。

すごく面倒くさそうに口を開く。


「そう言えば、まだ下がいたな……」

グレイザックは呟いた。

「アブストール様じゃないですか」

リディオノーレは目を見開いて驚く。


その瞬間、「アブストール様ともお知り合い?」

「何で知らないんだよ。アブストール様の結婚式で付き添い人をしただろう」

「え、じゃあ、あの人がすごい魔法を繰り出したっていう!?」

「騎士団も怯むような魔法だったんでしょう!?」

「そうらしい!」


「魔力操作がえげつないと聞いたぞ!」

「魔力もかなりあるらしいわ!」

「領主会議で名前も出るくらい、有名らしいぞ」

「ええ!そんな有名なの!?」

「お友達になった方がいいわね」


などと、皆がざわめく。


「………有名人だな」

アブストールは苦笑いで述べた。

「気のせいだ」

グレイザックは吐き捨てると、周囲に視線をやった。


「きゃ!こっち見たわよ!」

「ひっ!怖っ!」

「待て、威圧されてないか!?」

「見たらやられる!」


「…………」

リディオノーレは口を押さえ、肩を震わす。

グレイザックはそんな彼女を見て額を弾いた。


「グレイザックに威圧されたら、ここにいる奴ら全員失神するぞ」

「そうですよ。睨むだけで威圧されたなんて、威圧を知らなさすぎですね」

アブストールとリディオノーレが呟く。


「お前たちもういい」

グレイザックはため息をついた。

「……兄上、早く紹介して下さい」

双子の少年がアブストールの服を引っ張った。


アブストールによく似ている少年だ。

肌の色はアブストールより日焼けしていて健康的な感じだ。


「前一度名前だけ言ったことがあると思うのだが、アングロードとスティルナーデだ。見ての通り双子だ」

「………あー、名前だけ覚えがあります」

リディオノーレは記憶を辿る。

兄の葬儀で初めてアブストールと話したときに、名前を聞いた気がする。


スティルナーデも同じような健康的な肌の色で、貴族女性ではあるまじき短髪だった。


「アングロードです。リディオノーレ様ですよね?式の天馬合戦見てました。凄かったです」

人懐こい笑みを浮かべながら、アングロードは話しかける。


「ありがとうございます。リディオノーレ……えぇと」

リディオノーレはグレイザックを見る。

『ネルク・オルネリア』

グレイザックは念話で答える。

「リディオノーレ・ネルク・オルネリアです」

彼女は微笑んで名を告げた。


「オルネリア?」

アブストールが1番に反応した。

グレイザックはそんな反応など無視だ。


「入学したら仲良くして下さい」

アングロードが微笑んだ。

「こちらこそよろしくお願いします」

「どうせ魔法だけなんでしょう?剣はからきしって聞いてるわ」

スティルナーデが腕を組みながらリディオノーレに言い放った。


「ティル!!!」

アブストールとアングロードが彼女を咎める声を上げる。

「何よ」

スティルナーデは2人を睨む。

「……えらく好戦的だな」

グレイザックはそう呟いて、スティルナーデを見下ろした。


「……っ」

スティルナーデはたじろぐ。

「師匠、それ威圧です」

リディオノーレがグレイザックの袖を引っ張る。

グレイザックはスティルナーデを睨むのをやめた。


「……っ!手合わせしなさい」

スティルナーデはリディオノーレに向かって指を差す。

「剣ですか?相手になるか分からないですが」

リディオノーレは「いいですよ」と許可をする。


グレイザックは無言でリディオノーレの額を弾いた。

「軽々しく約束をするな。そして、黙っておく約束だったろう」

グレイザックに睨まれ、彼女は肩をすくめた。


「……スティルナーデ様、すみませんが、今の話は無しで」

リディオノーレは断る。

「……断れとは言っていない」

グレイザックが発す。

「え?」

リディオノーレは目を丸くしてグレイザックを見た。

アブストールも同じように見やる。


「軽々しく約束をするな、と言ったんだ。別に手合わせはしても良い。だが、俺が見てる所でな」

グレイザックがまさか許可をおろすと思っていなかったので、アブストールは目を瞬いた。

リディオノーレも驚いている。


「アブストールの妹」

グレイザックは少しにやりとしながら呼びかける。

「スティルナーデです」

彼女は臆することなく、言い返す。

「妹」

グレイザックはそんな名前は無視して、妹と呼びかける。


「もし、剣でお前が負けたらリディオノーレに一生従うと誓えるか?」

グレイザックが吹っかける。

「おい、それは駄目だ」

アブストールが慌てる。


「……もちろんです。だって負けませんから」

スティルナーデは言い切った。

その言葉を聞いて、グレイザックは唇の端を上げた。

「身体強化はありで良いか?」

「大丈夫です。私も使いますので」

「……言質は取ったぞ、アブストール」

グレイザックはにやりと笑った。


「〜〜〜っ。身体強化だけだからな」

アブストールは仕方なしに認めた。

スティルナーデは嬉しそうな顔をする。

グレイザックもご機嫌な顔だった。


「……剣はそこまででしょう?」

アブストールがリディオノーレに確認を取る。

「そうですね。グレイザック様には完全に劣ります」

リディオノーレは認める。

その言葉にスティルナーデはにやりとした。


「じゃあ、こちらも条件を出させて下さい。私が勝てば、グレイザック様の弟子になりたいです」

スティルナーデの発言にアブストールはぎょっとした。


グレイザックは無表情。

アングロードは頭を抱えている。


「……物好きなんですね」

リディオノーレは思わず呟いてしまった。

その瞬間、彼女は思い切り頭をはたかれた。

勿論、グレイザックにである。


「ティル、辞めておけ」

アブストールが低い声音で止める。

「いいえ。グレイザック様の剣の腕が凄いのは知っています。お兄様より強いでしょう?是非、弟子入りしたいです」

「………だそうですよ、グレイザック様」

リディオノーレは彼を見つめた。


「………勝てば、考えてやろう」

グレイザックは無表情なまま呟いた。

「ありがとうございます!!!」

スティルナーデは喜んだ。


『……考えるだけでしょう。弟子入りさせる気さらさら無いじゃないですか』

リディオノーレは念話を飛ばした。

『それで喜んでいるんだから放っておけ』

相変わらず面倒ごとには態度が冷たい。


「ティル、先に教科書代を払いに行こう」

空気を読んで発言したのは、アングロードだ。

「そうね」

「リディ、愚妹がすまない」

アブストールが謝りながら、双子を連れてこの場を去って行った。



「………」

グレイザックは無言かつ無表情だが、あまり機嫌が良くないことは、リディオノーレは分かっていた。

彼女は内心でため息をつく。


好奇の目を向けてくる人たちは多いし、話しかけたそうにしている人たちも多い。


『グレイザック様』

リディオノーレは念話で呼びかける。

『何だ』

簡潔で少し冷たい声音の返事だった。


『勝てると思いますか?』

リディオノーレは尋ねる。

『………負けると思ってるのか?』

グレイザックは彼女を冷めた目で見下ろした。


『だって、剣なんてまだまだでしょう?』

『俺からしたらな』

『………?もしかして、まあまあ強くなってます?』

リディオノーレは目を瞬いて尋ねた。


グレイザックはそれには答えず、『ほら、順番が来たぞ』と促した。


制服の売り場に立っていた教授は、グレイザックを見て驚いた。


「……グレイザック様ではありませんか。お久しぶりですね」

男性の教授だった。

「息災でしたか?」と聞かれ、「ああ」と頷くグレイザック。

何とも無愛想な会話である。


その態度に教授は嫌な顔もせず、話を振る。

「こちらが噂の弟子ですか?」

またもや、「ああ」と答えるグレイザック。


「リディ、3年同じ服だから、少し大きめで買うぞ」

グレイザックはリディオノーレに話しかける。

その優しい口調に教授は更に驚く。

「紹介していただくことは可能ですか?」

教授はグレイザックに尋ねる。

「入学したら否が応でも知るでしょう」

グレイザックの素っ気ない答え。


リディオノーレは発言したくてウズウズしているが、念話でひたすら『喋るな喋るな』と連呼されている。


「相変わらずなようですね」

教授は笑うとリディオノーレを見て、口を開いた。

「天馬の扱いを教えております。あなたの入学、楽しみにしていますね」

「はい」

リディオノーレはそれには返事を返した。


「新入生の校章の色は赤になります。こちらは常に制服につけておいて下さい」

「分かりました」

リディオノーレは校章と制服を受け取る。


天馬に乗るので、女性でも簡易的な騎士服のような衣装の制服である。


「教科書の代金まで払いましたら、食堂にて食事をしながら学院長によるご説明がございますので、食堂に集合して下さい」

「分かりました」

リディオノーレは頷いてその場を去った。


グレイザックとリディオノーレは先に天馬車に制服を置きに戻り、それから教科書の代金を払ってから食堂に向かった。


制服代も教科書代も皆からもらったお金を使わせてもらった。充分足りたので、愛されてるな、と実感したリディオノーレである。




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