皆からのお小遣い
「……仕事して下さい」
グレイザックは思わずこめかみを揉んだ。
「他にも何人か来ているそうじゃないか」
領主が言う。
「そうですが、まず仕事を優先させて下さい」
「それだけリディは愛されているってことよ」
シャイリーネが笑いながら言った。
「はい、リディ。私たちからよ」
領主夫妻から金貨5枚を受け取る。
「こんなに、いいんですか?」
リディオノーレは驚愕する。
「あれだけ皆に装飾品を買ったら、粛清時の報奨金もなくなるんじゃなくて?」
シャイリーネの言葉にリディオノーレは苦笑した。
「お前のことに関しては全てグレイザックが管理しているからな。それだけ執務しているが、給金はないんだろう?」
領主が尋ねる。
「住む場所とご飯を与えてくれれば、それでよかったので」
給金まで欲していたら、カルムクラインから脱出出来なかっただろう。
「私たちからのお給料だと思ってちょうだい」
シャイリーネは優しく微笑む。
「ありがとうございます」
リディオノーレは深々と頭を下げた。
「それに比べると微々たるものですが、私からも」
側近なのでついてきていたザファムートも金貨1枚、彼女に渡す。
リディオノーレは目を瞬いた。
「いいのですか?」
まさか、ザファムートからも貰えると思っていなかった。
『貰えるものは貰っておけ』
急に念話が飛んできて、リディオノーレはグレイザックを見た。
彼は無言で頷く。
リディオノーレはザファムートに向き直って、礼を述べた。
「これからたくさん入り用になってきますからね」
ザファムートはそう言って、後ろに下がる。
「学院生活中のお金はどうするの?」
シャイリーネが尋ねる。
リディオノーレはグレイザックをまた見つめる。
「……稼げばいい。稼ぎ方は教えたはずだ」
グレイザックは答える。
リディオノーレは納得してシャイリーネを見た。
「実験とかたくさんする予定なので、それを売り付けます」
リディオノーレはにこりと笑って答える。
「………何を教えてるんだ、全く」
領主は苦い顔をする。
「先生たちに売りつけると買ってくれるそうです」
リディオノーレはグレイザックを見る。
彼は視線を逸らしていた。
「お前は全く……」
領主は呆れる。
「リディオノーレ、明日は大人しくグレイザックの言うことを聞くこと。探検するんじゃないぞ」
「しませんよ。子どもじゃないんですから」
「子どもだ。驚くくらい規格外の子どもだがな。グレイザックから離れるんじゃないぞ」
領主に言い聞かされるリディオノーレ。
「分かってます。私が一体、何をすると思っているんですか」
リディオノーレは少し頬を膨らます。
「煽られたらすぐ威圧するだろう。よく分かってないだろうが、お前たちは有名人だぞ」
領主の言葉に彼女は目を瞬いた。
「有名人なんですか!?」
少し嬉しそうなリディオノーレ。
『馬鹿が』
念話で叱りつけるグレイザック。
あまりにも低い声音だったので、彼女は思わず肩をすくめた。
「まあ確かに義兄上の言う通り、威圧に関しては同意ですね」
「お前もだぞ、グレイザック」
領主は顎でしゃくる。
「互いが互いに敏感すぎるんだ。グレイザックはまだ自制できるが、リディオノーレは普通に魔力が漏れるだろう?あれは、他の者には毒になる」
「そうなんですか?」
リディオノーレは首を傾げてグレイザックを見た。
「………気のせいだ」
グレイザックは少し視線を逸らして答えた。
「………サムエル。入学までに必ず、常識を叩き込むように」
領主は師弟2人に言うのを諦め、サムエルに話を振る。
「善処しますが、諦めも肝心かと」
サムエルは微笑みながら答えた。
「………あー、もう好きにしろ」
領主は諦めた。
そのやり取りを見て、シャイリーネはくすりと笑う。
「リディ、あなたは魔力が高いから、急に威圧されると相手は失神してしまうのよ」
シャイリーネは話しかける。
「別に威圧したくてしてるわけではないんです」
「それも分かってるわ。けれど、もう少し自分を抑えないと。威圧をしていい時は、相手が威圧してきた時だけよ」
「分かりました」
リディオノーレは頷く。
「シャイリーネの言うことは聞くんだな」
領主が意外そうに目を瞬いた。
「同性ですから。シャーリネーヴェの言うこともよく聞くと思いますよ」
グレイザックが告げる。
「シャーリーにリディが抑えられるか?」
領主が眉間に皺を寄せる。
「あら、リディは存外あの子に懐いてるから大丈夫よ。そうでしょう?」
「はい!お姉様の言うことはきちんと聞きます」
リディオノーレは頷く。
「なら、こやつの扱いはシャーリーに任せるとしよう」
領主は少し安心した。
だが、在籍期間は1年しかかぶらない。
それ以降が心配だ。
「まあ明日はグレイザックの言うことをきちんと聞くように。金は無駄遣いしないように」
領主夫妻が部屋を辞して行く。
「ザファムート」
側近なので、そのまま去るザファムートにグレイザックは声をかけた。
リディオノーレとサムエルは驚く。
「何でしょう?」
ザファムートは振り返り尋ねる。
「今年の視察、リディに任せようと思っている。1人でどこまで出来るか一緒に行って見てやってほしい」
「!!!!」
その言葉にリディオノーレとサムエルが目を見張る。
「え?それならグレイザック様が付き添った方が良いのでは?」
ザファムートが言う。
「俺が行けば、皆、俺の顔色を窺いながらするだろう?リディだけでどれだけ舐められずに済むか知りたい」
「……なるほど。では、サムエル様とかの方が良いのでは?」
ザファムートが尋ねる。
「できれば、執務覚えたてのフェルバールとバルデミアンのどちらかをつけようと思っている。サムエルは何でもこなしてしまうから駄目だ。だが、もし分からない事があった時に聞ける人物がいないと不安だろうから、ザファムートが適任かと思ったのだが」
グレイザックは答える。
最もらしいことを述べているが、いわゆる囮である。
「……リディ、私でもいいですか?」
ザファムートは彼女に尋ねる。
「もちろんです。もし、何か間違ってたら教えてください」
「厳しく頼む。第三者から見てのリディの評価も欲しい。その内、俺の代わりがつとまるのか見て欲しい。頼めるか」
「分かりました。私で良ければ」
ザファムートは頷いて、部屋を辞した。
彼の気配が完全に消えてから、リディオノーレとサムエルはグレイザックを見つめた。
サムエルなんて、彼を睨んでいる。
「………やってくれるか?」
グレイザックはサムエルの睨みには応えず、リディオノーレを見つめた。
「………やりますよ。それが一番、手っ取り早いですからね」
リディオノーレは答える。
「ケネスもつけるつもりだから大丈夫だ」
「………ケネス?」
彼女は聞き返す。
「ん?紹介していなかったか?」
グレイザックが聞き返す。
「また紹介する。とりあえず明日の分までの執務をこなせ」
彼に促され、リディオノーレは必死に2日分の仕事を捌いた。




