耳飾りの完成
あっという間にひと月が過ぎようとしており、リディオノーレは耳飾りに付与する魔法をやっと成功させることができ、安堵した。
「できました!!!」
夜、寝る前までリディオノーレは魔法陣と悪戦苦闘し、やっと完成にこぎつけた。
「はぁ。この魔法陣も結界と一緒で複雑すぎますよ」
彼女は愚痴をこぼし、半円形の耳飾りをグレイザックに渡した。
グレイザックは読書をしながら、ちらちらと様子を見ていたが、何を付与するかはなるべく見ないように気を付けていた。
「………よくやった」
グレイザックは受け取り、耳の窪みに引っ掛ける。
「これも」
先程のより少しだけ小ぶりの耳飾りもリディオノーレは渡す。
その小ぶりの耳飾りはもう1つあり、それは彼女が自分の耳につけた。
お揃いである。
「多分、成功したと思うんですけど」
リディオノーレは少し不安げな顔をする。
『聞こえ、ますか?』
リディオノーレは念話を飛ばした。
「!!!!」
グレイザックは驚いて、耳飾りを外した。
1つずつ手で握り、何の魔法が付与されているか目を閉じて探る。
先にもらった方は魔法防御。
小ぶりの方はなんと、念話の魔法がかかっていた。
「嘘だろ、おい」
グレイザックは驚愕を露わにする。
言葉遣いがおかしくなっている。
「本や資料には載ってましたから。でも何がどうなってるか全然分からなくて、時間がかかってしまいました」
「………」
グレイザックは耳飾りを見つめ、その後に彼女をまっすぐ見つめた。
「………嘘だろ、お前」
グレイザックはもう一度、同じ言葉を発した。
「成功してましたか?」
リディオノーレは尋ねる。
彼はそれに答えず、小ぶりの耳飾りをつけ直した。
『正直、かなり驚いている』
グレイザックから念話が飛んできて、リディオノーレは顔を綻ばした。
『成功して良かったです』
グレイザックは長い息をゆっくり吐いたあと、彼女の頭を優しく撫でた。
「よくやった。上出来すぎる」
グレイザックは笑って、手を離した。
「かなり苦労しただろう」
グレイザックは唇の端を上げて尋ねた。
「そりゃもう」
リディオノーレは苦い顔をする。
「念話も習わないからな」
グレイザックは言う。
「やっぱりそうなんですか」
どうりで教えてもらえないわけだ。
「のちのちでいいからな。すぐに覚えなければいけないものではない」
グレイザックはそう言いながら耳飾りを触る。
どうやら、気に入ってくれているようだ。
「こっちに耳を出せ。落ちないようにしてやる」
グレイザックにそう言われ、リディオノーレは飾りをつけている方の耳を出す。
彼は杖を振った。
「これで落ちない」
グレイザックはそう言って、自分の耳飾りにも同じ魔法をかける。
リディオノーレのまだ知らない魔法だった。
「ありがとうございます」
彼女は礼を言って、耳飾りを触る。
「いや、礼を言うのはこっちだ」
グレイザックは微笑む。
「いえ、遅くなってすいませんでした」
「念話の魔法を施すなら、早く出来た方だろう。本当にお前には驚かされる」
「なら、私の思惑は成功しましたね」
彼女はにやりと笑う。
「流石にこんなことをしていると思ってなかったからな」
グレイザックは笑い、そして少し真剣な顔をして口を開いた。
「面談の日のことだが、恐らくお前に近付いてくる輩がたくさんいると思う」
「……私に近付いてきてどうするんですか」
「少しでも仲良くなろうとするだろう。結婚式に見せたあの天馬合戦。参列してた者から、噂は広がってるはずだ。領主会議にはお前のことが話に出たことがあるしな」
リディオノーレは嫌な顔をする。
「お前の価値が上がっているのは確かだ。だが、結婚式のあの衣装、分かる者なら絶対に恐れ多くてお前に近付かない。それでも近付いてくるのは、どうしてもお前と友達になりたい奇特な奴か、利があると見込む傲慢な奴かのどちらかだ」
「私とお友達になりたい人は奇特な方なんですか」
リディオノーレが眉間に皺を寄せる。
「どう考えてもそうだろう?俺は同級にお前がいたら、なるべく近寄らないぞ」
「えー!」
彼女は驚いて少し大きい声を上げ、慌てて口を押さえる。
「一緒に実験するのは構わないが、一緒にいるだけで変な奴だと思われる」
「失礼なー!」
リディオノーレは憤慨する。
「とりあえず、その日は大人しくしておけ。念話もあるから心配はないが」
「でもこれ、グレイザック様のあの指輪の念話ほど効果範囲がないかもしれません」
「その日は離れることがないから大丈夫だ」
グレイザックはそう言って、彼女の額を触った。
「熱が出ることも減ったな」
「はい」
グレイザックは熱がないことを確認すると、彼女の額を押して寝台に寝転がす。
「寝ろ。学院は明後日だ。その分の執務を明日終わらせるぞ」
「はーい」
「執務もかなり楽になった。お前のおかげだな」
「だって、私が学院行ってる間、お一人でしょう?少しでも負担を減らしておかないと」
「気にしすぎだ。お前は自分のことを気にしろ」
グレイザックは軽く彼女の額を弾いた。
「魔法をかけるか?」
「手を置いててくれたら寝れます」
グレイザックは彼女の瞼の上に優しく手を置いて、視界を塞ぐ。
「面談が終われば、次は視察の準備だ。忙しくなるぞ」
「はい……」
リディオノーレは返事をして、眠りに落ちた。
翌日、リディオノーレは朝から来客に見舞われた。
「……仕事が進まん」
グレイザックが苦言を呈す。
執務室に次々と色んな人がやってくる。
「明日は学院に行く日だとお聞きしました。これ、少しだけですが」
騎士団長までが訪れる。
「………何してる。訓練しておけ」
グレイザックが呆れ果てる。
「……これお金じゃないですか」
リディオノーレは目を瞬く。
「教科書代や制服代は馬鹿になりませんよ。まあ微々たるものですが」
団長は微笑む。
「グレイザック様の貯金がありますから何も問題ないかとは思いますが、少しでも」
「………本当にいいんですか?」
「ええ。是非使ってください」
団長は微笑み、部屋を去って行った。
次に現れたのは何と料理長と副料理長である。
「………」
顔が引き攣るグレイザック。
「………何をしている。仕事しろ」
グレイザックは頬をピクピクさせながら、彼らに告げる。
「明日は学院に行く日なんでしょう?教科書代と制服代の足しにして下さい」
彼らは銀貨を1枚渡す。
団長は銀貨を2枚渡してくれたので、今で3枚。
「……いいんですか?」
リディオノーレは目を丸くする。
「いいですよ。よく頑張っているのを知っていますからね。こんなんで申し訳ないですが」
副料理長が苦笑する。
「いえ、そんなことないですよ。有り難く頂きます」
リディオノーレは微笑んだ。
さて、次に訪れたのは何と領主夫妻だった。




