学院からの手紙
「お仕事中すいません。今大丈夫ですか?」
リディオノーレは許可を得て、部屋に入った。
「どうした?」
領主が怪訝な顔をしている。
「この前、市に行ってきたんです。それで皆にお揃いの腕輪をつくったんです」
リディオノーレは微笑んで説明をする。
部屋にはシャイリーネもジャンドバルトも居て少し驚いたリディオノーレである。
「領主さまにはこちらを。シャイリーネ様とジャンドバルト様もどうぞ」
腕輪をそれぞれに渡す。
「ザファムート様もありますよ」
リディオノーレは笑って差し出した。
「私もいいんですか?」
ザファムートは目を瞬く。
「もちろんです」
「ありがとうございます」
ザファムートは微笑む。
「リディ、ありがとう」
シャイリーネも微笑む。
「ほら、ジャンドも」
「………ありがとう」
ジャンドバルトは少し照れながら礼を言った。
「いえいえ!因みに疲労回復魔法をかけていますので、是非使ってくださいね」
リディオノーレは言う。
「すまない、疲労回復魔法をかけているとは?」
ジャンドバルトが尋ねる。
「?そのままですけど」
リディオノーレが首を傾げる。
「疲労回復の魔法を付与しています」
リディオノーレはもう一度言う。
「売り物ではなく?」
「え?あ、はい。その魔法さえ分かれば、簡単に出来ますよ?」
彼女はジャンドバルトが尋ねる意味が分からず、そう返す。
ジャンドバルトは目を瞬いた。
その様子を見ながら、ザファムートは苦笑しつつ口を開いた。
「回復系の魔法はですね、あまり使われてないんです」
ザファムートが述べる。
「え?でも魔力回復や体力回復とかするじゃないですか?」
リディオノーレはますます首を傾げる。
「それは薬でしてませんか?素材を調合して、薬をつくっていませんでしたか?」
「………そう言えば、そうかもしれません」
彼女は目を瞬いた。
「でしょう?回復の魔法陣は魔力もまあ使いますし、術者の魔力量によって回復できる程度も変わってきます。ですので、皆平等の回復が出来るよう回復薬をつくるのです。魔法を使うのはどちらかと言うと珍しいのですよ。しかも、もしこれが売り物であればまあまあ高価ですね」
ザファムートの説明にリディオノーレは目を丸くした。
「………本当に一般的なことを知らんな」
領主が呆れたように述べた。
「これ、売ったらそんなにお金になるんですか?」
「そうよ、リディ。貴重なものをありがとう」
シャイリーネが微笑む。
どうりで皆が目を瞬いていたわけだ。
リディオノーレは納得する。
「まあ有り難く使わせてもらう」
領主はそう言って、腕輪をつけた。
領主がつけたことにより、他の皆も腕輪を通す。
「規格外なのは構わんが、常識も教わっておけよ。バルデミアンだったか?そういうのは、周囲のお前たちがきちんと教えておけ」
領主が呆れたように発言した。
「かしこまりました」
バルデミアンが答える。
贈り物をしたのに何故かリディオノーレがおかしいことを述べられ、少しモヤモヤしながら彼女は部屋を出た。
「………皆さん、つけてくれましたね」
廊下を歩きながら、バルデミアンが口を開いた。
「良かったです。疑われなくて」
リディオノーレはからりと笑った。
「ちょっと聞きたいんですが、これ、お金になるんですか?」
「なりますよ、確実に。学院で売ってみて下さい。かなり儲かるかと」
バルデミアンの言葉に彼女はにやりと笑った。
リディオノーレはあと、料理長と副料理長にも腕輪を渡しに行き、ついでに昼食も受け取るとそれを持って執務室に戻った。
あっという間に昼の鐘が鳴る頃になっていた。
「遅かったな」
グレイザックは書類を綺麗に揃えると、顔を上げてそう言った。
「すいません。その代わり、昼食のおかず、一品多くもらってきましたので」
リディオノーレは皆の昼食を並べ始める。
その間にバルデミアンは、グレイザックにメモをこっそり渡した。
「乱筆ですいません」
バルデミアンは呟く。
グレイザックはそれに素早く目を通すと、く、と笑った。
「連絡、礼を言う」
バルデミアンは頭を下げ、部屋を去って行った。
「サムエル」
グレイザックもサムエルにこっそりメモを渡す。
サムエルも素早く目を通すと少し目を瞬き、グレイザックを見た。
「面白いだろう?」
グレイザックは唇の端を上げて言うとメモを返してもらい、すぐに燃やす。
ボオッ!と急に変な音がしたので、リディオノーレは驚いた。
「驚かせたか。ほら、食べるぞ」
グレイザックは何事もなかったように促した。
食後、執務開始前にグレイザックは1枚の手紙を取り出した。
「もうそんな時期ですか」
その手紙を見て、サムエルは言う。
リディオノーレも覗くが、封蝋の紋章を見たところで、差出人が誰か分からなかった。
「学院からだ」
グレイザックは封を開けて、リディオノーレに渡す。
そこには入学時の持ち物と面談の日程が書かれていた。
面談は今から1ヶ月後となっている。
「面談って、何するんですか?」
リディオノーレは尋ねる。
「どこの領地の誰が入学して来て、保護者が誰なのかと、魔力量の確認だ」
「………ということは、グレイザック様と一緒にこの日行くってことですか?」
「そういうことになるな」
グレイザックはすんごい嫌そうに述べる。
「魔力量の確認とは具体的に何するんですか?」
「杖の検分だな。この日までに杖をつくっておくように、という意味でひと月後の日程になっている」
「……でも、魔石の数は言っちゃ駄目なんですよね?」
「この時ばかりは仕方ない。聞かれたら言ってもいい。聞かれん限りは、自分のことをぺらぺら喋らなくて良い」
「何か全くもって信用されてないですね、私」
リディオノーレは唇を尖らせた。
「余計なことを言いそうだろう。まあ、俺も一緒だから止めれるから別にいいがな」
「私はその日は天馬車を出しますね」
サムエルが言う。
「頼んだ」
「もうここに来てもうすぐで3年ですか。早いものですね」
サムエルが感慨深げに言った。
「早かったな」
グレイザックも同意する。
「あっという間でしたね。もう12ですよ」
リディオノーレも言う。
「……ということは、グレイザック様は今18ですか。早いものですね。昔はこんなに小さかったのに」
サムエルが手で小ささを表現する。
「そんなに小さいわけがあるか」
グレイザックが苦い顔で突っ込んだ。
そして、リディオノーレを見て、「お前は、この面談の日までに耳飾りを仕上げろよ」と話す。
「頑張ります」
「何を企んでいるか知らんが」
「何も企んでませんよ。でもやっぱり教えてもらっていない魔法陣は難しくて」
リディオノーレは悔しそうな顔をする。
「企んでいるじゃないか」
グレイザックが少し彼女を睨んだ。
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。頑張ってるんですから」
「……悪かった悪かった」
「リディ」
サムエルが名を呼ぶ。
「はい。何でしょう」
サムエルはグレイザックを一瞥したのち、にこりと笑って口を開いた。
「グレイザック様は楽しみにしているんですよ」
「!サムエル!」
グレイザックが声を上げる。
「さあ、仕事しましょうか」
サムエルは悪びれることもなく、微笑んで仕事を始めた。




