腕輪を渡しに
リディオノーレは皆の装飾品をつくることに勤しんでいた。
アラウィリアでの初参加の魔獣狩りで得た魔石がたくさんあったのでそれらを使用して、グレイザック以外のはつくった。
型自体が小さいので、1つの魔石で2人分補えたのでそこまで魔石も乱用していないはずである。
腕輪にするために、丸く固めた魔石に穴を開けて紐を通し繋げるという地味な作業を暇があればおこない、全員のが出来上がったのは2週間くらい経ってからだった。
普通の石を5つ繋げて、その後に魔石を通し、また普通の石を通し……となかなか肩が凝る作業だった。
1つの腕輪に、丸くした魔石を5つ使っている。
魔石部分には人によって、さまざまな魔法を組み込んでいる。
「はい、サムエル様」
リディオノーレは朝一番でサムエルに会ったので、腕輪を渡した。
「ありがとうございます」
サムエルは目を瞬いて受け取ってくれた。
「私にいいんですか?」
「もちろんです。疲労回復をかけてますので、どうぞ」
彼女はにこりと笑う。
「グレイザック様にも同じものを」
執務室に行って、彼女は同じ腕輪を差し出した。
彼のだけ魔石は虎である。
「耳飾りはどうした?」
グレイザックが眉間に皺を寄せる。
「耳飾りはもう少し待ってください。今、調べてるのでもう少し」
「………耳飾りに何を付与するつもりだ?」
更に皺が寄るグレイザック。
その質問にリディオノーレは微笑みで返した。
「フェルバール様たちにも渡してきていいですか?」
リディオノーレは尋ねる。
「分かった。そこまで付き添う。サムエル頼めるか。あとは、フェル達に頼んで帰ってきてくれ」
グレイザックが命じる。
そうして、サムエルと共に騎士団へ赴くリディオノーレ。
朝から騎士たちは剣の稽古や攻撃魔法の精度を上げようと練習していた。
「フェルバール様!バルデミアン様!!」
リディオノーレは呼びかける。
フェルバールとバルデミアンは、丁度2人で剣の稽古をしていた。
「どうされましたか?」
バルデミアンが少し驚く。
「腕輪が出来たので渡しに来ました」
リディオノーレは赤紫の腕輪を2人に渡す。
「体力回復の魔法をかけてます。是非、使ってください」
「………いいんですか?」
フェルバールが目を瞬く。
「売れますよ?」
その言葉にサムエルが苦笑した。
「だって、最近傷だらけじゃないですか」
リディオノーレが突っ込む。
2人はちらりとサムエルを見て、唇を引き結んだ。
元凶は彼女の横で爽やかな笑顔で佇むサムエルなのだが、言えるわけもない。
「でも、大分怪我も減ってきたんですよ」
フェルバールは胸を張る。
「何してるかまでは知らないですが、厳しい訓練をしてるってことですよね?頑張ってください!」
リディオノーレは応援する。
「あー!お前たちだけずるいじゃないか!」
腕輪をもらった2人を見つけた他の騎士が声を上げる。
「羨ましいだろ。体力回復魔法までかけてあるんだぞ」
フェルバールがにやりと笑う。
「リディ、そんなことが出来るのか!すごいな!」
「普通ですよ、普通」
リディオノーレは謙遜する。
「何が普通ですか。そんなに簡単にできることではありませんよ」
団長もやってきて、また呆れた声で突っ込む。
「あ、団長さまにもありますよ」
リディオノーレは腕輪を取り出す。
団長も目を瞬きながら受け取った。
「いいんですか?」
「いいですよ。お世話になってますから」
彼女は微笑む。
団長は思わず彼女を抱き上げた。
「なんて、いい子なのか……」
団長によしよしされている彼女は放置して、サムエルはフェルバール達に話しかける。
「今から他にも腕輪を配るようなので、どちらか付き添ってもらっても構いませんか?」
「では、私が」
バルデミアンが立候補する。
「では、お願い致します。私は執務に戻りますね」
サムエルは護衛をバルデミアンに託し、中に戻って行った。
「団長さま、次渡す人がいるのでそろそろお暇します」
リディオノーレはそう言って、次はムナグレークの元へ向かった。
「グレーク様!」
一体一体の天馬を丁寧にブラッシングしているムナグレークに声をかける。
「腕輪出来ましたので渡しに来ました!」
リディオノーレは同じ腕輪を渡す。
「疲労回復かけてますので」
「ありがとうございます」
ムナグレークは驚いていた。
「皆お揃いにしてますので、是非使ってくださいね」
リディオノーレはそれだけ言うと次は城内に戻る。
護衛してくれているバルデミアンが「次はどちらに?」と尋ねる。
「領主さまたちです」
リディオノーレはにこりと笑った。
「え?」
バルデミアンが凍りつく。
「………グレイザック様はご存知ですか?」
「どうでしょう?」
彼女は微笑む。完全に企んでいる顔だ。
「………はぁ」
バルデミアンがため息をつく。
「領主さまということは、あの方にも、ということですよね?」
バルデミアンが怖い顔で尋ねる。
「顔が怖すぎます」
リディオノーレは肩をすくめた。
「理由を聞いても?」
「腕輪を渡すだけですよ、本当に。皆と同じく」
「………」
バルデミアンが彼女を鋭く見つめる。
「………1つだけ、他の人と違う魔法を付与しています」
リディオノーレは観念して口を開いた。
「このバルデミアン様に渡したこの腕輪の魔石5つには言った通り、体力回復をかけています」
早速腕につけてくれているバルデミアンの物を触りながら、彼女は説明する。
「でもあの人の分だけ1つ、違う魔法をかけています」
「何の魔法ですか?」
「………通報の魔法です」
「通報?………禁書庫に施されてるやつ、ですか?」
バルデミアンが聞き返す。
アラウィリアの禁書庫を破る際に、グレイザックが説明していたのを覚えている。
「それです。解除の方法はまだ不明ですが、それを施すのは資料や本に載ってるので余裕で出来ます」
リディオノーレはにやりと笑った。
「で、何故、通報を?」
「あの人に攻撃をするということは、そういう状況にあるというわけですよね」
「………そうでしょうね」
バルデミアンが苦い顔で同意する。
「もし、その時にグレイザック様がいなかったら?」
「!」
リディオノーレの問いにバルデミアンが目を見開いた。
「グレイザック様の腕輪の魔石の1つに通報が届くように連携させています。通報魔法が発動すると連携者と繋がるように光の線が出来ます。それを辿れば、到着できるように」
「………」
なかなかに恐ろしい発想だが、必要な手段だった。
どうやったのかは不明だが、かなり調べたことは確かだろう。
だが、これをグレイザックが知らないのはよくない。
バルデミアンは彼にきちんと知らせるべきだと判断する。
「………分かりました。付き合います」
バルデミアンは答え、覚悟を決めて領主たちがいる執務室へと向かった。




