結界の魔法
翌日、昼食を食べたあと、修復時に組み込んだ結界がきちんと発動するか試しに訓練場に向かったグレイザックとリディオノーレ。
サムエルには、執務の仕分けを頼んでいるため、部屋に留守番である。
「そっち2つに魔力を流せ」
グレイザックの指示通り、結界の魔法陣に魔力を流すリディオノーレ。
全身から思ってるより魔力を吸い取られ、少し驚いた。
「どうだ」
「……思ってるより、魔力取られました」
リディオノーレは目を瞬きながら答えると、発動した結界に感嘆の声を上げた。
「まあでも発動したな」
グレイザックは結界を触る。
「……勝手に訓練場を弄らないで下さい」
2人を見ていた騎士団長が呆れたように言う。
「誰でも魔力を流せば発動するようにしているからお前たちも使っていいぞ」
グレイザックが団長に言う。
「こんなの発動させたら魔力枯渇で倒れますよ」
団長は呆れ返る。
半壊させた所を覆う結界が今完成しており、団長は見上げながらため息をついた。
「よく、魔力もちますね」
団長がリディオノーレに話しかける。
「私もこれ、ギリギリかもしれません。これ発動させた後、グレイザック様と試合できる余裕がないかもしれないです」
リディオノーレが苦い顔で言う。
「それで丁度いいだろう」
グレイザックが答えた。
「どうしてですか」
リディオノーレが眉間に皺を寄せる。
「残った魔力で無駄に魔力を使わないように術の練習をすれば、もっと魔力の減りを抑えられるようになるぞ」
「なるほど」
彼女は納得する。
「今日はお前に学院で習わない術を教えに来たんだ」
グレイザックはそう言って、訓練場の結界を解除した。
リディオノーレは目を瞬きながら、身を乗り出す。
「あまり、激しいことはやめて下さいね」
団長は忠告する。
「団長、ムナグレークを呼んできてくれ」
「ムナグレークですか?分かりました」
少ししたのち、ムナグレークが急いで訓練場にやって来た。
グレイザックは「結界について教える」と口を開いた。
「結界は習わないんですか?」
リディオノーレは首を傾げる。
「結界を使うときが日常生活であるか?」
「………無いかも、しれませんが、盗聴防止の結界は使いますよ?」
「普通はないですよ」
ムナグレークが突っ込み、「……私は何をすれば?」と尋ねる。
「俺は普通に結界を使うが、一般的には使わないと聞いている。お前が捕捉してくれるとありがたい」
「近くにフェルバール達もいますが?」
ムナグレークは騎士団の方を見る。
「お前の方が教えるの上手いだろ」
グレイザックはそれだけ言うとリディオノーレの方に向き直る。
その言葉にムナグレークは少し嬉しそうな顔をしていた。
「今回組み込んだこの結界は1番単純な結界だ。ただの結界だからな。お前に覚えてもらいたいのは、先程言っていた盗聴防止と遮蔽の結界だ」
グレイザックは説明する。
「サムエル様も知ってますよね」
「そうだな。俺といるには必要だから覚えてくれた」
グレイザックはそう言って、まずは盗聴防止の結界の魔法陣を描き始める。その隣に遮蔽の魔法陣も描く。
一回見ただけでは絶対に覚えられない複雑さである。
「これは省略とかも出来ない感じですか?」
リディオノーレが質問する。
「出来ないことはない」
「ですが、やはり基本を抑えておかないといけません」
ムナグレークが杖を出す。
「グレーク様、分かるんですか?」
リディオノーレが目を丸くする。
「実際に使ったことは殆どないですが、これでもグレイザック様と付き合い長いですからね。リディよりは確実に見てますね」
ムナグレークがにこりと微笑む。
「別にそこまで詳しくはないんですが、遮蔽からの方が分かりやすいかな、と思います」
ムナグレークがそう言って説明を始めてくれた。
「周りから見えないように膜を覆いたいのです。暗くしたいけれど、自分のところも暗くしてしまうと駄目ですよね?なので、黒い膜を薄くして指定した範囲だけ覆いたいわけです」
「ここが闇の魔法陣ですよね?」
ムナグレークが描く魔法陣の一部を指差すリディオノーレ。
「そうです。闇にしたいけれど、その効果を薄く。ここですね」
ムナグレークが陣の一部を指す。
「光を入れてしまうと相殺してしまうので、光を入れてはいけません」
リディオノーレはうんうんと頷きながら聞いている。
「なので、この記号、文字を入れつつ展開します」
2人の様子を見ているグレイザックは、ムナグレークを呼んでよかったと安堵する。
「ですが」
ムナグレークが一際、音量を大きくして声を上げた。
「ですが、遮蔽の結界を使うことは殆どありません。盗聴防止も然りです」
「何故ですか?聞かれたくないことだってあるでしょう?」
リディオノーレは首を傾げる。
「何か悪巧みをしていると思われるじゃないですか」
ムナグレークが睨む。
「基本は不要です。よっぽどでない限り、使わないと約束して下さいね」
「……はい」
「それに、盗聴防止は声が聞こえなくなるだけで、唇は読めますので」
「なら、読唇術も覚えた方がいいですね」
リディオノーレは意気込む。
「必要なときなんてありませんよ。覚えても使うときなんてありませんからね」
ムナグレークが止める。
「何でですか。グレイザック様は出来るじゃないですか」
「リディ、グレイザック様に対抗意識を持つことはいいことなのですが、何でもかんでも真似しなくていいですからね」
「でも、弟子ですもん」
頬を膨らますリディオノーレ。
「それは分かっていますが、念話の魔術具もあるのですから、読唇しなくてもいいでしょう?」
ムナグレークは言う。
「んーーー…」
それでも納得がいかないようで、反論の言葉を考える彼女だったが、ムナグレークは魔法陣の話に戻す。
「盗聴防止もやりますよ」
ムナグレークは思考をやめさせて、話しかける。
2人はやいのやいの言いながら、魔法陣を何回も何回も練習し始めた。
「………よし、そこまで」
グレイザックは夕の鐘が鳴ったので、終了を告げる。
「大体覚えたんじゃないか?」
グレイザックはリディオノーレに声をかける。
「多分」
何十回と描いたので恐らく大丈夫だろうが、時間を空けると忘れそうなくらい複雑だ。
「でも、省略できないことはない、って言ってましたよね?」
「まあな」
グレイザックは答える。
「それに関しては自分で研究してみろ。出来たら見せてくれ。時間がかかるだろうがな」
「分かりました。待っててくださいね」
リディオノーレは意気込んだ。




