帰城
「今日は楽しかったです」
市からの帰り道、リディオノーレはグレイザックに告げる。
城に帰るまで右手はサムエルと左手はグレイザックと繋いだままである。
「何事もなく、良かったです」
サムエルは安堵する。
「流石にこれではな」
グレイザックは繋いでいる手を上げる。
「もし毒を混入するなら、あの食事のときしか無かったがそんな様子もなかったしな」
グレイザックはさらりとそんなことを言う。
「警戒し過ぎですよ。もしかしたら、もう襲ってこないかもしれませんよ?」
リディオノーレの言葉にグレイザックは空いている左手で額を弾いた。
「んなわけあるか。カルムクラインの生き残りだけが、あの情報を知っていると思っているんだぞ」
毒のことである。
彼女の兄であるバイリムートを害した毒は、特殊な毒なため、調べられても大体は分からないだろうが、なんせリディオノーレにはグレイザックという歩く辞書がいる。
リディオノーレがどこまで毒の正体を掴んでいるかは分からない敵からしたら、早々に彼女を始末したい所だろう。
それに、かなり魔法のことを勉強して使いこなせるようになっていることをあの結婚式で知ったことだろう。
彼女が兄の死因について調査でも始めれば、毒の正体が分かってしまうかもしれない。
調査しなくても、バイリムートがもう既に判明させていたのだが。
今の時点で何の毒であるかを知るのは、彼女ではなくグレイザックなのだが、それも敵は知らないだろう。
だが恐らく、グレイザックなら断片的な情報でも繋ぎ合わせて答えを導き出せる聡明さを持っているのを知っているため、彼女と一緒についでに殺すことを目論んでいるだろう。
「………やっぱりまだ狙われてます?こんなに守られてるのに?」
リディオノーレは呑気に尋ねる。
「俺なら、情報を少しでも持っている可能性の奴がいれば、必ず殺す」
その言葉に全員が唇を引き結んだ。
「前も言った通り、警戒するに越したことはないが、警戒し過ぎるとあちらが手を出せないからほどほどにな」
グレイザックは唇の端を上げた。
「私は全く心配してませんけどね」
リディオノーレはグレイザックと握っている手をぶんぶんと振る。
「まあ内通者の始末も大事だが、お前は学院に行く前にあらゆる自衛の術を覚えてくれ。武器の訓練も並行しつつな」
グレイザックの言葉にリディオノーレは頷く。
「色々細かいことはまだあるんだが、今言った所で覚えてないだろうから入学前に伝える」
「……嫌な予感しかしないんですけど」
彼女は顔を歪めた。
「流石に分かるか」
グレイザックはにやりと笑う。
リディオノーレだけが内容を分かっていないだけで、他の皆は小言の内容が分かる。
実験に集中して徹夜するな、とか。
図書室にこもるな、とか。
寝食忘れるな、とか生活全般心配である。
そうこう6人で歩きながら話している内に、城に戻ってくると、グレイザックは革袋から購入品を1つずつ取り出す。
「私がこれで」
「これは私のです」
皆がそれぞれ自分の物を受け取る。
「あとは俺らのだな。部屋で出すからこのまま持って行く」
革袋にしまったまま、師弟はグレイザックの自室に戻った。
部屋に戻ると、リディオノーレは早速購入品を広げる。
「お茶、お出ししましょうか」
サムエルが尋ねる。
「少しもらおうか。サムエルも一緒に休め」
グレイザックが席ををすすめる。
2人はお茶を飲みながら、リディオノーレの様子を見守る。
買ってきた魔石と型を出し、早速その型に魔石を液状にして流し込む。
かなり集中している。
型から溢れないように慎重に。
型に流し込むと、時短に冷却魔法をかける。
その後は無地の紙に魔法陣を描いていく。
魔法防御の魔法陣を描き、その陣の上に丸くなった魔石を乗せる。
魔法陣が浮かび上がり、その魔石を包み込むと消えた。
「……ふぅ」
リディオノーレは息を吐く。
上手くいった。
「今日は終わりにしておけ」
グレイザックが声をかける。
「分かりました。あ、アラウィリアで取った小動物の魔石も使っていいですか?」
「別にいいが」
「ありがとうございます!あと、色々工夫したいので、少し図書室で調べたいことがあります」
「ほぉ、何をするんだ?」
グレイザックは唇の端を上げながら尋ねた。
「内緒です。もし宜しければ、そちらの棚の資料も参考にさせてもらえるとありがたかったり」
リディオノーレはグレイザックの本棚に視線をやる。
「俺がいるときなら良い」
「では、お願いします。今既にお借りしといてもいいですか?」
「ああ」
彼の許可が出たので、リディオノーレは嬉々として本棚を物色し始める。
「ありました。今日はとりあえずこの2冊、貸してください」
彼女は魔法陣関連の本を見せる。
「分かった、いいぞ。洗浄魔法だけして、さっさと寝ろ」
「はい」
リディオノーレは本を持って自室に下がった。
だが、本を読むのに集中しすぎて寝ていなかったため、かなり怒られたリディオノーレである。




