図書室での調べ物 2
「……ノーレ!」
「……ザック様!!」
「リディオノーレ!」
「グレイザック様!!!!」
揺すられ、大声を出され、グレイザックは目を瞬いた。
「………はぁ」
起こしに来たのはサムエルだった。
ため息をついている。
「リディオノーレ!!」
サムエルはリディオノーレにまだ声をかけ続けている。でも反応がない。
机の上に本が15冊ほど積み上がっていた。
「……どれくらい経った?」
グレイザックはサムエルに尋ねる。
体があちこち痛い。
首を鳴らしたり、上半身を捻る。
「もう消灯の鐘は鳴りました。いつまで経っても帰ってこないのですから、心配して来たのです。まさかとは思いましたが、まだ図書室にいらっしゃったとは」
サムエルが怒っている。
「グレイザック様がついているから大丈夫だと思っていたのですが、まさか寝ていらっしゃるとは。お風邪をひきますよ」
サムエルはそう言いながら、あったかいお茶を渡してきた。
「すまない」
グレイザックは素直に謝る。
「まさか、寝てしまうとは」
お茶で暖をとりながら、グレイザックはそう呟く。
「そういう時もあると思いますが、ここでは風邪をひいてしまいますので、お気を付けください」
サムエルは苦笑する。
「さて、この娘はどうしましょうかね」
まだサムエルに気付かない集中しまくって周囲の音を遮断しているリディオノーレを困った風に見つめる。
「耳を引っ張ってやれ」
「……そんな乱暴なことは致しません」
「じゃあ、頬をつねってやれ」
「………」
そんな方法しかないのだろうか、とサムエルはひたすら考えているのが手にとるように分かる。
体を揺すっても手は止まらないのだ。
なら、手を止めればいいのか?
「この用紙を取り上げてみますか」
彼女が書き殴っている用紙を取り上げることに決めたサムエル。
サッと音もなく奪った。
だが、彼女はそのまま机に書き始めた。
「!!!」
「どうする」
グレイザックは苦笑いだ。
「グレイザック様、よろしくお願いします」
サムエルは引き下がった。
グレイザックは腕を伸ばし、伸びる限り最大限両頬を引っ張った。
「ぅああいぃぃいぃだぃぃ」
リディオノーレは声にならない悲鳴を上げた。
「……気づいたか?」
グレイザックは唇の端を上げ、彼女をまっすぐ見つめた。
「ぅあぁぁああ、すぃましぇん……」
両頬を引っ張られながら、彼女は謝った。
「分かればよろしい」
グレイザックはにやりと笑うと手を離す。
彼女は両頬を撫でながら、涙目でグレイザックを見つめる。
「痛いです…」
「知ってる」
グレイザックは悪気もなくそう答えた。
「リディオノーレ」
サムエルは仁王立ちで彼女を呼ぶ。
「ひっ。サムエル様までいらっしゃったとは」
「いくら呼んでも揺すっても気付かないので、グレイザック様が頬を引っ張ったのです」
「……すみませんでした」
リディオノーレは項垂れる。
「本当に悪い癖ですね、こればかりは。どうしましょうか」
サムエルは顎に手をやり考えこむ。
「とりあえず今のところは体に訴えかけるのが1番だろう」
グレイザックは残っている茶を飲み干しながら、そう述べた。
「ですが、このままだと学院生活が思いやられます」
「まだ3年ある。直していくしかないな」
「……直りますかね?」
リディオノーレがちらりと2人を見つめる。
グレイザックはもう一度両頬を引っ張ってやった。
「いだぁぁぁい」
痛さに涙が出た彼女を見て、満足そうにグレイザックは手を離した。
「体に覚えさせていくしかないだろう」
「……はぁ」
サムエルはため息をついた。
「とりあえず、こんな所に長時間いると風邪をひきます。これを飲んで温まったら、部屋に戻りますよ」
サムエルは怒りながらも彼女にお茶を出してくれる。
「……えへ」
何だかんだ世話をやいてくれるサムエルに思わず笑みがこぼれる。
「こんな状態が続くのでしたら、自室や1人での読書やお勉強を禁止しますよ」
何だかんだ優しいサムエルに甘えてたら、厳しい言葉を投げかけられたのでリディオノーレは慌てる。
「っっ!!無理です無理です!監視付きとか嫌ですー!!!」
「このままだとそうなるぞ」
グレイザックはあっけらかんとそう口を開く。
「うぅぅぅ」
唇を尖らせるリディオノーレ。
「じゃあ気をつけるんだな。もう消灯の鐘は鳴ったらしい。戻るぞ」
グレイザックは立って体を捻ったりして伸びをする。
「わかりました。片付けてきます」
リディオノーレも立ち上がる。
だが。
がくっ、と膝が崩れ落ち、思わず机に手をついた拍子に大きい音を立ててしまう。
「ん?」
扉に向かっていたグレイザックは大きな音に振り向く。
「すいません……やりすぎました……」
目眩がして、リディオノーレは謝りながら意識を手放した。




