表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/912

図書室での調べ物



先日に午前は天馬の勉強と午後は執務を言い渡されてからというもの、忙殺の日々だった。

そう、文字通り忙殺。


何も余計なことを考えられる暇などない。

目の前の与えられた仕事をこなしていくだけの日々。

淡々とこなしていく内に執務仕事が一つ増えた。

たまにサムエルについて、書類を渡しに本館に行ったりするのだ。


なので、すれ違う使用人や領主側近と話したりするようになり交流が少し広がった。


先日のグレイザック達とおこなった歓談の雰囲気はどこに行ったのかと思うような忙殺な日常。


彼のお茶目なとこを見たのはあの日きりだ。

ちょっと親近感を覚えていたのだが、あれは幻覚だったのだろうか、と思ってしまうほど。


会話は必要最低限。

事務的な会話のみだ。

「よくやった」と褒めてもらえることもなく、ひたすら仕事をこなす。

少し褒めてもらいたいと思うのは気のせいだろうか、という考えもよぎったが、切り捨てられそうで言えない。


だが、その代わりと言ったらなんだが、ムナグレークがとても褒めてくれる。

そして天馬に関する書籍も貸してくれた。


その書籍を夜に読み進めているのだが、自分が今まで読んだ書籍とどうも内容が正反対なのだ。

これは一度他の書籍と比較した方がいいと思うのだが、なかなか図書室にも行けない。

自由時間が全くないのだ。

このままだといつまで経っても比較できない。


このまま考え込む毎日を過ごすくらいなら、夜中に図書室の入室許可をもらえたら調べることができる。

ここは交渉して入室許可をもぎとるべきだと決意した。



(……いつその話ができるのーーーーっ!!)

図書室に行きたい話をしたいのだが、決意してから早1週間、話す隙がない。


その間も天馬の扱いはムナグレークとムナグレークから貸してもらった書籍のもと、進められていく。

折角厚意で教えてもらってる相手に自分の知識と違う、などと言えるわけもない。

流石にそれくらいは分かる。


はぁぁぁ、と思わず大きいため息をついてしまう。

このままでは睡眠不足で体がもたない。


仕事中、意を決して、リディオノーレはグレイザックに声をかけることにした。


「……グレイザック様」

書類から顔を上げ、彼女は彼を見つめる。


「何だ」

彼は顔を上げることなく、仕事をしたまま声だけで尋ね返す。


「と、図書室に、行きたいです。許可をください」

その言葉に彼はちらりと彼女を見た。

それだけで、仕事を続ける。


「何かと思えば、そんなことか。それでずっと悶々としてたのか」

仕事の手を止めないまま、グレイザックは呆れたように喋る。


「う」

だって…、などと続けられない。


「お前はバカか。最近隈が酷い理由は、それか」

「……はい」

彼女はしゅん、とする。


「言い訳を聞いてやろう」

まさかの言葉に彼女は背筋を正す。

聞いてもらえるときに意見は言っておくべきだ。


「……あまりにも仕事に忙殺されて、図書室に行けません。なので、夜に図書室に入れる許可をください」


「忙殺されてるのか?」

グレイザックは不思議そうな顔をした。


「え?」

聞き返されると一瞬違うのかと思ってしまった。

いやいや、完全に忙殺されている。

自由時間が寝る時しかないのだ。

忙殺されているだろう。完全に。


「仕事の量を減らせ、そういうわけか?」

彼は仕事の手を止め、腕組みしてそう聞いてきた。


「ち、違います。仕事量はこのままで構わないので、夜に図書室に入れる許可さえ頂けたらいいんです」

「夜は許可できんな。第一、何しに図書室に行く?」

鋭い視線で見つめてくる。


「調べものがしたいです」

「何の?」

「て、天馬の」

尋問のようで狼狽えてしまうリディオノーレ。


「何故?」

グレイザックはお構いなしに簡潔に聞いてくる。


「自分の記憶にある天馬の本を読んだ内容と、今ムナグレーク様に貸していただいている本の内容が違いすぎて困惑しています。図書室で他の天馬の本も読ませていただき、比較させて欲しいです」

彼女は頑張って言い切った。


「……ふむ」

グレイザックは腕を組んだまま、指先をトントンする。


「グレイザック様、そう言えばムナグレーク様の天馬の扱い方に関しては公のものと全く正反対だったのでは?」

サムエルは思い出したようにそう言った。


「ムナグレークを基準としていたから忘れていたな」

グレイザックはため息をつく。


「図書室入室の許可を出そう。だが、俺かサムエルが付き添わないと許可はできん。今日の夕食後で良ければ付き合おう」


「あ、ありがとうございます!助かります」

リディオノーレは喜んでお礼を言う。


やっと図書室に行ける。

彼女は心中でふぅ、と息を吐いた。






夕食後、リディオノーレはグレイザックに連れられて、図書室に向かった。


図書室は本館と別館にそれぞれ1つずつ設置されている。

入室するには登録がいるらしい。


「ここに手の平を当てろ」

グレイザックに言われた通りに図書室の扉の横にある壁に埋め込まれた手の平サイズの黄色い石に触れる。


触れた途端、何かが吸われた気がした。


「!!」

驚いて手を離してしまう。


「色が変わるまで手を当てていろ。魔力が吸われてるんだ」

恐る恐るもう一度手を当てて、色が変わるまで待つ。

魔力を吸われた経験がないため、すごく気持ち悪い感覚だった。


「み、緑になりました!」

黄色だった石が緑に変わった。


「手を離していいぞ。登録が完了した。図書室に入室するにはこの手順を踏んで、入室しないといけないから覚えておくように。無理矢理入室しようとすると、扉に施されている魔法陣ではじかれる」


「……厳重なんですね」

図書室に入るだけなのにやたらと厳重すぎやしないだろうか。


「アインズビルだからな」

理由になってるのかよく分からない答えを言って、グレイザックは入っていく。

リディオノーレも慌ててついて入る。


入って驚いたのはその蔵書数だ。

カルムクラインとは比べ物にならない量が保管されている。

恐らく軽く見積もって5倍くらいあるだろう。


部屋自体も広い。

机も椅子も完備されている。


「ぅわぁ……すごい」

彼女は感嘆の声を漏らす。


「天馬に関してはこっちだ」

グレイザックが案内してくれる。


歩きながら背表紙を見ていると、魔法陣や呪文やらたくさんの書物がある。

すごい惹かれるがグレイザックの後に続き、天馬のコーナーに向かった。


「ここだ」

天馬は奥の方にあった。


見てみると、天馬だけでゆうに50冊はこえるだろうという数が目に入る。


「届かない上の本は魔法で取るんだ。お前は杖がないから、俺が代わりに取るから読みたいやつがあれば言え。俺はすぐそこの机で仕事してるから」


「分かりました!!じゃあとりあえず、上の左端から3冊ほど取ってください」

わくわくしてるリディオノーレ。


グレイザックは杖を出すと「バニヴィアン」と唱える。

右に向かって杖を薙ぎ払い、その後にシュッと下に振り下ろす。

すると本が上からゆっくりと浮いておりてきた。


その本はグレイザックの左手の上にゆっくりと重なった。

「わぁぁぁ」

リディオノーレは目を輝かせる。


「その杖の動きも重要なんですか?」

本を3冊受け取りながら尋ねる。


「一応な。ある程度の形は必要だ。あまりにも違う動きだと発動しない」

それだけ言うとグレイザックは近くの机で仕事を始めた。


リディオノーレは彼に取ってもらった3冊と自分の背の位置にあった本を数冊取って、グレイザックとは別の机に向かう。


持ってきてた白紙の用紙を取り出し、準備が整ったところで本を読み始める。


「………やっぱり」

本を見ながら、思わず呟くリディオノーレ。

3冊ほど広げて見比べながらひたすら書き留めている。


グレイザックは仕事の書類を持って、彼女の向かいに腰を下ろした。

そして、彼女が見ている本の内容を反対から覗く。


確かに、ムナグレークのやり方と書籍では正反対だ。

そう言えばそうだったな、と彼も徐々に思いだしてきた。


学院のやり方もムナグレークと反対だった。

ムナグレークは天馬合戦が得意な領地の領主一族の異端児だ。

それをグレイザックがムナグレークのやり方に惚れ込み、アインズビルに勧誘したのだ。


そういやそうだったなぁ、と彼は思い出に浸る。


8割のことがムナグレークと反対なのだ。

学院や一般書籍では、天馬と最初に触れ合うとき、「威圧」を推奨している。


自分の方が主人だと思いこませるため、魔力を天馬にぶつけるのだ。

でもそれは間違いだ、とムナグレークは言っていた。


ムナグレークは「対等」が基本である。

人間を主人だと思いこませるのではなく、友達として対等な関係を築くのだ。

そしてその方が上手くいくのをグレイザックは知った。

だから、グレイザックはムナグレークに一目置いている。


学院の教師陣や周囲に何を言われようとムナグレークは自分のやり方を貫き通した。

でも従来のやり方を逸したことはなかなか受け入れられない。

彼のやり方の方が良いことを周囲に認めさせることができなかったグレイザックは、アインズビルでその腕をふるってくれ、とお願いして連れてきたのだ。


そんな過去のことも話した方がいいのだろうが、説明が億劫なのでグレイザックは語らない。

聞かれたら答えるのだが。


「……何か分かったか」

グレイザックが向かいにいることも気づいてないんじゃいかと思うくらい、リディオノーレはひたすら書き殴っている。


「…………」

これはまた集中しすぎているパターンか、とグレイザックは腕組みして、背もたれにもたれかかった。


一体、いつまで音を遮断できるのか。少し待ってみるか。などと悠長なことを考えているグレイザックは椅子に体を預け、目を閉じた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ