歓談
夕方の鐘が鳴り響く。
ちょうど仕分けが終わったリディオノーレは顔を上げる。
グレイザックとサムエルは彼女が顔を上げたのを見て、手を止めた。
「終わりましたか?」
サムエルは優しく尋ねてくる。
「はい。多分」
リディオノーレはそう答え、恐る恐る書類を差し出す。
「確認する」
グレイザックは自身の仕事を止め、書類を受け取る。
「サムエル、確認している間にお茶の淹れ方を教えてやってくれ」
グレイザックに命じられ、彼女はサムエルにお茶を教わる。
メモを出して、控える。
グレイザックはこの茶葉が好きだとか、領主はこの茶葉が良いとか、何分茶葉を蒸らすとか、このお茶と合う茶菓子はこれだとか、とりあえず最低限を教えてもらった。
もっともっと覚えることがあるそうだが、とりあえずはこれだけで当分は何とかなるとのことだった。
「そろそろ確認が終わりそうなのでお茶を淹れてみましょう」
サムエルはグレイザックをちらりと見て、お茶の用意をし始める。
リディオノーレはメモに控えた通りの時間で茶葉を蒸らし、茶菓子を用意してグレイザックの元に置く。
最後の書類を確認し、グレイザックは顔を上げ、意地悪く笑った。
「よくやった」
まさかの言葉にリディオノーレは驚く。
「お褒めにあずかり光栄です………が、もっと褒めてる顔をしてください……。悪いことを企んでいるような顔です……」
彼女は恐る恐る進言してみた。
くくっ、とサムエルが笑う。
「リディオノーレ、あれが褒めてる顔なのです。上出来だとあの顔になるのです」
サムエルはまだ笑いながらそう口を挟む。
「余計なことを言うな」
グレイザックは眉間に皺を寄せる。
「仕分け作業だとよく分かったな」
「……何となく、です。自信があったわけではございません」
「じゃあなぜ、この仕分けの内訳にした?」
グレイザックは見つめる。
答えを楽しみにしている感じがある。
あまりにも見つめてくるので、う、となったが、堪えて答える。
「自分ならこう分けて仕事すると思うので……」
その答えに彼はまた意地悪い顔になる。
これは、喜んでいる顔なのか…。
でもサムエルがそう言っていたし。
悶々とリディオノーレは考える。
「予想外にお前が使えることが分かった。この仕分けしてくれた書類は明日確認しようと思っていたものだ。前日にこれだけ仕分けしてあれば大いに助かる」
「力になれたのならよかったです」
ほっと息をつく。
「では、明日からのお前の仕事を言う」
その言葉に背筋を伸ばすリディオノーレ。
「午前中はムナグレークのところに行き、天馬のことを学べ。午後からは仕分けと計算書類の手伝いだ」
「かしこまりました」
「ムナグレークには伝えておく。とりあえず杖を取得するまでに出来る学院の予習をしていく」
「分かりました」
「では、夕食にしよう。サムエルについていき、料理の準備も覚えてこい。3人で食べよう」
グレイザックはそう言って少し微笑んだ。
何だか2日目にしてもう馴染めた気がして、すごく嬉しい気持ちになるリディオノーレ。
グレイザックとサムエルに質問攻めにされる。
カルムクラインではどんな仕事をしていたのか。
勉強は誰に教えてもらったのか、など根掘り葉掘り尋ねられた。
「逆に質問なんですが、何故私を引き取ってくれたのですか?」
ふと疑問に思い、尋ねてみた。
リディオノーレがどれくらい勉強してるか実力を知るのにはあの資料だけでは足らなかったはずだ。
「いや、結構満足いく内容だったぞ。あの資料」
グレイザックはにやりとする。
「まず、杖もないくせに試しようがないだろう?なのに何故研究する必要がある?」
「……好きだから?」
リディオノーレは数秒考えたのちそう答えた。
「私も見させてもらったのですが、魔法陣のことよく考察できていましたね。感心しました」
サムエルも口を挟む。
「試しようがないのに研究するなんてバカだろう」
グレイザックはそう言ったが、顔は喜んでいるように見えた。
「でも、あんな複雑な魔法陣って描くの難しいじゃないですか。じゃあどうやって省略できるか、とか気になりませんか?」
リディオノーレはもぐもぐと食べながら語りだす。
「杖を持ったら魔法陣を描くんです。本当に発動するか試したいんです」
「……分かる。俺もそうだった」
グレイザックは遠い目をする。
「それを考えただけでわくわくしませんか。あと早く呪文を唱えてみたいです」
興奮しているリディオノーレ。
「完全にグレイザック様と一緒ですね」
サムエルはくすくすと笑う。
「一緒にするな。あんな興奮していない」
「私、学院のこと聞きたいです!どんな授業があってどんなことをするんですか?」
「んー……」
グレイザックは顎に手をやり考える。
「まあお前の言う通り魔法陣の授業は面白い。だが、研究という名の講義はないぞ」
その言葉にリディオノーレは驚いて目を見張る。
「基本的なことは教わる。魔法陣の研究となると、卒業して学院の教師になるか、研究者となるかのどちらかだな」
「学院で研究できないんですか……」
がっくりと項垂れるリディオノーレ。
「だが」
そんな彼女を面白そうに見つめて、グレイザックは言葉を続ける。
彼女は顔を上げてその先の言葉を待つ。
「試験も全て最速で終わらせれば、あとは自由時間だ。その時間に研究すればいい」
にやりと笑うグレイザック。
「なるほど!じゃあ最速で終わらせてそれに励みます!!」
ぐ!と腕を掲げるリディオノーレ。
「まあ首席だからな。当たり前だな」
「!!!」
体よく騙された感じはあるが、首席なら当たり前か。
でも頑張らないといけないという意識じゃなく、頑張れば好きなことができる!という考えの方がやる気が上がる。
「グレイザック様も自由時間を確保するために最速で試験を終わらせていましたね」
サムエルは微笑みながら言う。
「余計なことを言うな」
グレイザックが眉間に皺を寄せた。
グレイザックが厳しいだけでなく、お茶目な部分もあることに気付いたリディオノーレは笑ってしまう。
「こら」
グレイザックは困った顔で怒るが、それにもまた彼女は笑ってしまった。




