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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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市へ




「………何でそんなぼろぼろなんですか」

市に行くために集合したリディオノーレは、フェルバールとバルデミアンとムナグレークの傷だらけの様子を見て、思わず突っ込んだ。


サムエルだけ涼しげな様子で佇んで見ている。


「……喧嘩でもしたんですか?」

リディオノーレは質問する。

彼女だけ、彼らが訓練をしているのを知らない。


「喧嘩だと思われますか」

フェルバールが苦い顔で聞き返してくる。

「………ち、がい、ますよねー……」

リディオノーレも苦い顔になってしまう。

では、何があったというのだろうか。


想像がつかないリディオノーレは、サムエルとグレイザックを見る。

サムエルは微笑んでいるだけ。

グレイザックは「聞いてやるな」と彼女の肩にぽんと手を置いた。


「前は出店のものを食べたが、今日は人数も多いし店の中で食事を摂る。俺の奢りだ」

グレイザックがそう言うと、全員が目を瞬いた。


「本気ですか!?」

「本当にいいんですか!?」

フェルバールとバルデミアンの目が輝く。


「今日だけな。よく頑張ってるようだしな」

グレイザックは傷だらけの彼らを上から下まで見て、ほくそ笑みながら答えた。

「………私もたくさん食べていいですか」

ムナグレークも言う。

「良い。肉でも何でも食べろ」

グレイザックは笑いながら、ムナグレークの肩に手を置いた。


そうして、6人は和気藹々と市に向かった。





「師匠!あっち見てきていいですか!?」

リディオノーレは叫ぶ。皆の名前を呼ばないように言われているため、〝師匠″と呼ぶ。

今回の市は前よりかなり盛況だった。

出店の数も多く、客足もすごい。


リディオノーレは、はぐれないように右手をサムエルに繋がれていて、左手をグレイザックに握られている。


彼ら3人が手を繋いでる状況が少しおかしくて、後ろを歩いているムナグレークは笑ってしまう。

「手を握っているのが違和感ありすぎますね」

ムナグレークの隣を歩くフェルバールも思わず笑う。

バルデミアンも口を手で押さえている。


後ろを歩く3人のことなど知らず、グレイザックは「どこだ?」とリディオノーレに尋ねる。


「あっちの本屋さんと装飾品屋さんと素材屋見たいです」

「分かった。近い所からまわろう」

グレイザックは右手に力を込めた。


まずは、本屋に寄る。

サムエルは手を離すが、師弟2人は手を離さない。

前回のこともあり、人混みの中では手を離さないことを条件に市に来ている。


リディオノーレは空いている右手で本を何冊か物色する。


「お嬢ちゃんたち仲良いね」

本屋の店主が手を繋いだままの2人に声をかける。

「そうなんです」

リディオノーレはにこりと微笑む。


「何か欲しいものあったか?」

「んーー。今回は無さそうですね。ありがとうございました」

リディオノーレは店主に礼を言い、右手はサムエルと繋ぎ直して本屋を後にした。


「グレイ様、あちらの武器屋を見てきてもいいですか」

フェルバールが発言する。

グレイと呼ぶにはかなり恐れ多いが今日は仕方ない。

「いいぞ。サム」

グレイザックがサムエルを呼ぶと、サムエルは懐からお金の入った袋を取り出した。


「フェル、バルデ、小遣いだ。グレークはどうする?見てくるか?」

お金を手渡され、3人は目を丸くする。


「………これを受け取ると、後々大変なことを押し付けられるとか、そんな感じですか?」

フェルバールは恐る恐る尋ねる。

「フェル、失礼だぞ」

ムナグレークが咎める。


「ここ最近よく頑張っているだろう?労いなんだが」

グレイザックは唇の端を上げて言う。

「いらないならいいぞ」

「いえ!いります!」

バルデミアンが食い気味に答えた。


まさかのバルデミアンの食いつきにリディオノーレは笑う。


「お金は死活問題なんですよ、リディ」

バルデミアンは切実に言う。

「その通り」

フェルバールも大きく頷く。

「私も、本当に、いいのですか?」

ムナグレークがお金を手に取り、グレイザックを見た。


「いつもよくやってるからな。何だかんだ感謝してる」

グレイザックのその言葉にムナグレークは少し目を潤ませた。


「え、おい、男に泣かれる趣味はないぞ」

グレイザックの顔が引き攣る。

「好きに見て来い。俺らも見てくる。後ほど、ここに集合だ」

小遣いをもらった3人は嬉しそうに店をまわり始めた。


その3人を見送ってからリディオノーレ達は装飾品の店に寄る。

「紐か鎖だけ、とかって売ってたりしますか?あと型とかあったりします?」

リディオノーレは店主に尋ねる。


「あるよ。自分でつくるのかい?」

「はい!……師匠、どれがいいですか」

リディオノーレは尋ねる。

「半円形の型」

グレイザックは耳飾りの型を所望する。


「じゃあそれと、これとこれと……」

型をいくつかと紐や装飾に使う石を購入するリディオノーレ。

「ありがとうございました!」

目当ての物が購入でき、彼女はるんるんで店を出る。

「あとは、素材屋だな。よくある普通の物しかないと思うが……」

「いいんです。素材庫の素材は師匠のでしょう?あれを使って師匠のをつくるのは気が引けます」

「お前も魔獣狩りで取ったやつがあるだろう」

「あれも師匠がいてこそ、取れたものなので」

リディオノーレはからりと笑う。


「自分で購入するか、自分1人できちんと取れたやつじゃないと」

「………お前がそれでいいならいいが」

グレイザックはほんの少しだが、嬉しそうな顔を見せた。

その表情に気付いたサムエルは、彼も顔が綻んだ。



購入物はグレイザック持参の収納魔法がかかった貴重な革袋に入れていく。

素材屋に向かうと、リディオノーレは驚愕した。

「え、この馬や虎でこれだけの値段ということは、私の杖の魔石………」

彼女は思わず腰に見えないように挿してある杖を服の上から触りながら、グレイザックを見た。


「犀なんて素材庫に無かったですよね……?」

リディオノーレは重ねて尋ねる。

「お前が気にすることじゃない。杖をあげるのは、保護者の役目だ」

グレイザックは手を握ったまま言う。


「これくらいでいいだろ」

グレイザックは馬の魔石を指差す。

「いやいや、私が知らない間に師匠は色んなことをしてくれているので疲労がすぐ溜まるんですよ。疲労回復に使おうと思ったら、馬くらいじゃ足らないですよ。せめて、虎を」

リディオノーレは虎の魔石を取る。

「高い」

グレイザックはその魔石を奪う。


「じゃあ、虎2つ買いますよ」

リディオノーレはまだある虎の魔石2つを手に取る。

「!!」

グレイザックは彼女を睨みつける。


サムエルは2人の様子を面白そうに見ている。


「私にこれだけ装飾品くれてるんですから、私も同じだけのものを少しずつ返していきたいです。まだまだですけど」

リディオノーレは微笑む。

グレイザックは顔を思わず逸らす。首が赤いのは気のせいだろう。

リディオノーレは少し笑いながら、虎の魔石を2つ購入した。


グレイザックは裏のない好意にとても弱い。


「師匠、他の素材も見ましょう」

リディオノーレは杖の素材である枝や薬の素材をグレイザックと物色する。


結局2人はアインズビルでは採れない素材をいくつか購入した。

グレイザックが値切れるだけ値切るものだから、かなり安値で買い叩いた。


最後、もう来るなと店主に追い出されたが。


全てを革袋にしまうと、待ち合わせ場所に向かう。

そこには嬉しそうに武具を持つ騎士2人と天馬用品をたくさん抱えるムナグレークの姿があった。


「……」

グレイザックは無言で革袋の口を開く。

そこにムナグレークは購入品を全て放り込む。

「ありがとうございます」

ムナグレークはとても嬉しそうである。


「収納魔法の袋ですか!?」

フェルバールとバルデミアンが驚く。

「早く入れろ。ご飯に行くぞ」

グレイザックに促され、2人は興味津々な顔で袋を覗きながら武具を入れたのだった。



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