訓練場の修復
半壊した訓練場をグレイザックとリディオノーレが複雑な魔法を使って修復していく。
その様をサムエルと騎士たちが呆然した様子で眺めていた。
ムナグレークも興味津々でやってきて、興奮した様子で見ている。
グレイザックは複雑な魔法陣をいくつも描く。
リディオノーレは見たことある魔法陣を描いているが、色々重ね掛けしている。
「………結界の魔法がありませんでしたか?」
ムナグレークが隣に佇むサムエルに尋ねた。
「私もそんな気がしました」
サムエルが目を凝らす。
「………まさか」
サムエルが声を漏らす。
「何か分かりましたか?」
ムナグレークが尋ねる。
サムエルは修復魔法をおこなっている2人に視線を向けたまま、ため息をついた。
本当にリディオノーレに甘いグレイザックである。
サムエルは少し笑ってから、口を開いた。
「結婚式の帰り道、リディが言っていたことを覚えていますか」
サムエルが尋ねる。
ムナグレークは記憶を辿る。
近くに控えていたバルデミアンが徐に口を開いた。
「……もしかして、グレイザック様と試合がしたい、との発言ですか?」
バルデミアンの言葉にムナグレークと同じく近くにいたフェルバールが彼を見た。
「そう言えば、言ってましたね。でも被害が出るから無理だと言われ……」
フェルバールがそう言いかけて他の3人を見た。
「結界を張れば大丈夫だろう、という話をしていましたね……」
ムナグレークがフェルバールの言葉を引き継いだ。
「………なるほど」
サムエル以外の3人が頷いた。
壊してしまって修復する際に、結界の魔法陣を組み込んでしまえば、試合する時にそこに魔力を流し、発動させるだけで結界が張れる仕組みなのだろう。
グレイザックの知恵を借りれるなら容易く出来るだろう。
リディオノーレも嬉々として助力するに違いない。
「……ちょっと待って下さい。そうなると、絶対我々も付き合わされますよ?」
フェルバールが顔を引き攣らせながら言った。
「……フェル、今日も鍛錬するぞ。ムナグレーク殿もどうですか」
バルデミアンが誘う。
「やります。サムエル様は?」
ムナグレークは答え、サムエルも誘う。
「私もたまにはやっておいた方が良さそうですね。3日に1回くらいの頻度で集まりましょうか。夜と早朝でしたらどちらがいいですか?」
サムエルが意見をまとめる。
「夜にしましょう」
夜の方が意見が多かったので、3日に1回、彼らは夜に集まり訓練を始めることに決まった。
そんなことになっているとは露知らず、グレイザックとリディオノーレは訓練場を修理し終えた。
自分たちが使えるように訓練場に少し魔法陣を組み込んだことは内緒にして。
「よし、終わった。戻るぞ」
グレイザックは満足気に杖を振り払った。
元通りになった訓練場。前より綺麗になっている。
「壊して悪かったな」
グレイザックはそう言って颯爽と城に戻って行くので、リディオノーレは慌てて追いかける。
「では、本日の夜に」
サムエルは3人に述べると師弟2人を追いかけ、城に戻って行った。
執務室に戻れば、仕事を再開する3人。
何事もなく仕事をする師弟にサムエルは苦言を呈した。
「……結界の魔法陣を組み込んだでしょう」
「流石ですね」
リディオノーレは目を瞬きながら答えた。
「結界さえあれば、文句ないんだろう?」
グレイザックは書類に目を通しながら尋ねた。
「……確かにそう言いましたが」
「なら問題あるまい」
グレイザックは一刀両断する。
「リディ、5日後に市が開かれるのだが行くか?」
「行きたいです!」
もちろんっ!!!とリディオノーレが身を乗り出した。
「………怖さより行きたい方が勝るのか」
グレイザックは片眉を上げた。
「グレイザック様と一緒ですし、今は防御の装飾品がありますし」
リディオノーレは装飾品を触る。
「それに、私もまたグレイザック様に何かあげたいです。その腕輪、もう役に立ってないでしょう」
疲労回復の腕輪を指差すリディオノーレ。
「……じゃあお前に課題を出そう」
グレイザックはにやりと笑って、腕輪を差し出した。
「この腕輪に魔法を組み込み直せ」
「……それくらいなら」
リディオノーレが首を傾げる。
前は、物に魔法を組み込むことができなかった為に組み込まれていた腕輪を購入したが、今なら出来る。
「それくらいなら簡単だろう。ついでに加工し直して、違う装飾品にしてみせろ」
「……え?」
リディオノーレは聞き返す。
「装飾品をつくれ、ってことですか?」
「魔石と一緒だ」
「………」
リディオノーレは無言で腕輪を受け取った。
「簡単だろうが」
困った顔をしているリディオノーレを見て、グレイザックは眉間に皺を寄せた。
「グレイザック様を納得させられるような装飾品をつくれる自信がありません」
リディオノーレは告げた。
「……そっちか」
グレイザックは笑う。
「リディ、グレイザック様はあなたから何をもらっても喜ぶと思いますよ」
サムエルは微笑んで口を挟む。
「文句言われないでしょうか」
リディオノーレはサムエルに尋ねる。
「大丈夫ですよ」
サムエルはそう答え、「そうですよね?」とグレイザックに尋ねる。
「……好きにしろ」
グレイザックは息を吐いて答えると、仕事を続ける。
「ほらね」と、サムエルがくすりと笑った。
その夜、皆が寝静まった頃にサムエルは訓練場に赴く。
ムナグレーク達は既に来ていた。
少し準備運動をしたのち、練習用の剣を手に取り、2対2の試合が始まった。
その様子を自室の窓から覗いて見ているグレイザック。
遠いので、遠視の術をかけている。
サムエルと剣を交われば、否が応でも強くなるだろう。
グレイザックは唇の端を上げる。
グレイザックに剣を教えてきたのは、彼なのだから。
そんなサムエルの実力を知らない他の3人にグレイザックはほくそ笑む。
まあでも少しでも強くならないといけないと思ってくれたようで何よりである。
特にリディオノーレと共に学院に向かわせる予定であるどちらかの騎士には、もう少し実力をつけてもらわないといけないと思っていた所なので丁度良い。
ただ、側近として赴くので側近の仕事ももう少し身につけて欲しい所なのだが、リディオノーレ自身が自分のことは自分でできるのでまあいいかくらいに思っているグレイザック。
特殊だが、自分のことは自分で出来た方が身を守れる。
それでとやかく言ってくる奴もいるだろうが。
同性の側近でないだけで、色々言われるだろうが仕方ない。
グレイザックに女性の側近の知り合いがいないし、護衛を任せることができる女性も知らない。………おかまならいるのだが。
グレイザックは物思いに耽りながら、4人の稽古を見る。
サムエルにこてんぱんにやられる3人を見て、思わず笑った。




