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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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訓練場の破壊




案の定というか、訓練場は半壊しつつあった。

もう八つ当たりがすごかったグレイザック。

攻撃魔法の連発。それを凌ぐリディオノーレ。

その余波で倒れこむ騎士たち。


雷撃、風刃、炎の矢はいつもの事ながら、天候を操り雨を降らせ雷撃で通電。

通電でどれだけ騎士たちが失神したか。


風魔法でそこらの物を操り、ぶつけ合う2人。

異様な光景だった。


「……何をされたんですかっ」

リディオノーレは今度竜巻を起こしながら叫んで尋ねる。

「手を触ってきやがった!」

グレイザックは鳥肌を立たせながらそう答える。

「………」

リディオノーレは思わず相手に同情する。


女嫌いのグレイザックが女の弟子を取ったのだから、女嫌いが直ったと誰でも思うのだろう。


「それでどうされたのですか」

竜巻を相殺されたので、リディオノーレは炎の矢を出現させる。

「威圧した」

「………」

失神したんだろうな、とリディオノーレはまた同情した。


「でも、師匠もいつか結婚しちゃうんでしょう」

リディオノーレは話題を変えた。

「嫌か?」

「嫌かそうでないかと問われたら、勿論嫌ですよ」

リディオノーレは頬を膨らます。


「でも、嫌だからと言ってもその時が来たら何処かに行っちゃうんでしょう」

リディオノーレは責める。

「………」

グレイザックは思わず杖を下ろした。

彼女もゆっくりと杖を下ろす。


「私は師匠が大好きなので、師匠が幸せになればそれでいいですけどね」

リディオノーレはそう言って微笑む。


「そうか」

グレイザックが無表情で答える。

「………そろそろやめるか」

グレイザックは終わりを促す。

その言葉を待っていたと言わんばかりに、リディオノーレは大きく頷いた。


「私、正直もうへとへとなんですよ」

リディオノーレは苦笑する。

剣の相手をしていたとき、身体強化をずっとしていたため、反動が来ている。

実はもう立っていられないし、グレイザックの重い剣を受けすぎて、手の感覚も殆どない。


「出来れば、背負ってくれるとありがたいです」

リディオノーレは恥ずかしながら、そう言った。

部屋まで歩ける自信がない。


グレイザックは彼女の前に行き、背中を向けてしゃがみ込む。

その行動にその場にいた全員が驚いた。

あの、グレイザックが?と心の声が聞こえてくるような表情をしている。


リディオノーレは彼の背中にしがみつく。

グレイザックは彼女の足を持ち支え、立ち上がった。

安定したことを確認すると、リディオノーレは脱力した。


「………重くなったな」

グレイザックは一言漏らす。

その言葉にリディオノーレはグレイザックを叩く。


「………グレイザック様、それは女性に言うべき言葉ではありません。ここは大きくなった、か成長したな、と言うところです」

サムエルが近付いて、呆れながら進言した。


リディオノーレは膨れ面で頷く。


「悪かった悪かった。成長を感じていた所だ」

グレイザックは笑ってそう答えると歩を進める。


「修復は後日しますので、今日はここらで失礼させて頂きます。お邪魔致しました」

サムエルは頭を下げ、グレイザックと共に城に帰って行く。



3人の姿が見えなくなって、騎士たちは次々と騒ぎ始めた。


「え、あの2人遂に?」

「まさか。あのグレイザック様だぞ」

「いやだが、大分仲が良さげだったぞ」

「グレイザック様が誰かを背負うなんて」

「えらく可愛がられてますよね」

「実際のところ、どうなんだ」

フェルバールとバルデミアンが質問攻めに遭う。


「お二人共にお互いのことをとても信頼しているんです」

バルデミアンが告げる。

「グレイザック様の悪口を言う奴がいればリディが怒るし、リディのことを貶す者がいればグレイザック様から天罰が下ります」

フェルバールのその説明に騎士たちが身震いする。


あの2人に敵と認識されたら、勝てる気がしない。

かなり魔力を流して身体強化をしていたリディオノーレだが、グレイザックの剣にあれほどついていけるならこのまま鍛錬すれば騎士たちより強くなる可能性がある。


剣の相手としてグレイザックほど適任な相手はいない。

短期間で腕を伸ばすには、グレイザックに相手してもらうのが1番なことを騎士たちは知っている。


魔法も剣もグレイザックに教わるのが1番手っ取り早く習得できるのだが、異常な厳しさなので誰も寄りつかないし、すぐに諦める。

そんな中、あんな少女がグレイザックに懐いているのが異常なのである。


「今日は何があったのか知ってるのか?」

団長がフェルバールに尋ねる。

「……グレイザック様に来客があったことしか」

「どんな客だったんだ」

「知りません。ですが、グレイザック様が苛つくほどのお相手だったのでしょう」

フェルバールは息を吐く。


グレイザックを怒らすとは度胸がありすぎる相手である。


「本当に今この時にグレイザック様を怒らすなんて余計なことはしないで欲しいです…」

バルデミアンが呟く。

頼むからやめてほしい。

バルデミアンとフェルバールが苦い顔になる。


警戒すべきことがあるのに、これ以上事を起こされるのは御免だ。

2人は顔を見合わせてため息をついた。





グレイザックは寝台にリディオノーレを下ろすと、頭を撫でた。

「やりすぎた。すまん」

グレイザックは寝ている彼女に謝った。


まさかの謝罪にリディオノーレは少し笑った。


「いいえ。少しでもお役に立てたなら、何よりです」

リディオノーレは微笑む。

グレイザックは彼女が熱が出てないか確認すると、安堵の息を吐く。


「少し疲れただけです。身体強化の反動ですね。あれくらい魔力を込めないと師匠についていけないんですよ」

リディオは悔しそうな顔をする。


「大丈夫ですよ、リディ。対等とはいかないにしても相手してくれる方ができたことにとても喜んでおりますので」

サムエルが微笑んで口を挟んだ。

「……」

グレイザックは無言。

だが、もう一度彼女の頭を撫でた。


「いつでも相手になります。師匠と実戦した方が、色々勉強になりますし」

「………相変わらず変わってるな」

グレイザックは答えた。


グレイザックに教えを請う者は今までたくさんいたが、誰も彼もが早々に諦めた。


「変わってませんよ。絶対に師匠と戦う方が手っ取り早いですもん」

リディオノーレはまっすぐ見つめてそう言った。

その言葉にグレイザックは彼女の頭をもう一度撫でた。


「明日は半壊させた訓練場を直しに行くぞ」

「はい。修復魔法を調べた方がいいですね…」

リディオノーレは考える。


「資料と本はこっちに持ってきてやるから、体調が戻れば読め。それまで無茶しないこと」

相変わらずの過保護さに彼女は笑う。


「こちらに書類お持ちします」

サムエルはそう言って執務室に戻って行く。


「横で仕事してるから何かあれば呼べ」

隣の彼の部屋と繋がる扉は開放したまま、グレイザックは自室に向かった。


まだ昼が過ぎたところである。

仕事はたくさん残っている。


「グレイザック様」

リディオノーレは彼の名を呼んだ。

「??」

グレイザックは振り返る。


「グレイザック様の良さは、私やサムエル様、グレーク様たちは知ってますからね」

「………ああ」

「今度、もし面会が来たら付き合います」

リディオノーレは言う。


「是非そうしてもらうつもりだ」

グレイザックはにやりと笑ったのだった。





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