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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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帰路の会話




「長い間ありがとうございました」

アラウィリア出立時、リディオノーレはグレティアーナ達に頭を下げた。


「こちらこそありがとう。素敵な式になったわ」

グレティアーナが微笑む。

「頑張った甲斐がありました!」

リディオノーレが嬉しそうに微笑む。


「そうね。あの試合とても良かったわ。皆の記憶に残るものとなったでしょうね」

「それなら良かったです」

「リディ、いつでもまた来てくれ」

アブストールも微笑む。


「是非!素材を交換条件に」

リディオノーレがにこりと微笑む。

「……ちゃっかりしているな」

アブストールは苦い顔になるとグレイザックを見つめた。


「……何だ」

グレイザックは眉を吊り上げる。

「このままだと素材がなくなる」

「……俺の知ったことか?」

グレイザックの言葉にアブストールはため息をつく。


「言っても無駄か。何かあれば言えよ、グレイザック。リディもいつでも頼ってくるといい」

アブストールはリディオノーレの頭に手を置く。

「ありがとうございます」

アブストールはぽんぽんと彼女の頭を撫でる。

今までもこれからも波乱になる人生を進む彼女の少しでも助けになれるようにと思いながら。


グレイザックは「行くぞ」とリディオノーレに声をかけた。

彼女はグレイザックの後を軽快についていく。

今日は馬車ではなく、天馬に相乗りする2人。


その様子を遠くから見守るアラウィリアの面々。

「仲が良くて何よりだ」

アブストールは呟き、息を吐く。

「あれで恋仲ではないと言い張っているんだろう」

領主はその呟きに返す。

「あのグレイザック様があそこまでお世話している時点で前代未聞なんですけれどね」

グレティアーナも呟く。


「ティアの言う通りだ。あのグレイザックが……」

アブストールは学院時代を思い出しながら呟いた。

「丸くなったようで話しかけやすくはなりましたけど」

「確かにな。だが、自分とリディが優先だから昔より厄介だ」

アブストールはため息をつく。


彼が自分だけを優先するならそこまで被害はないのだが、リディオノーレを優先させるようになって、周囲にも色々求めるようになったものだから昔より厄介なことは確かだ。


彼女のしたいようにさせようとグレイザックが付き合うものだから、周囲も巻き込まれている。


「良い影響なのか……」

アブストールは少し疑問に思う。

「良い影響でしょう。楽しそうですもの」

グレティアーナは天馬で駆けて行くリディオノーレに、見えなくなるまで手を振る。


彼女も必死に手を振り返してくれている。

可愛いものである。


「あれほど規格外で女性嫌いで無愛想のグレイザック様に好意を示すのはリディだけよ。不思議だけれど」

グレティアーナは微笑む。

「確かに何であんなに好いているのか訳が分からん。今度はリディに聞いてみるか」

アブストールは笑う。

「そうね。そうしましょう」


姿が見えなくなって、グレティアーナは手を下ろした。

あんな充分苦労している幼気な少女に、何をまだ苦労させるのか。

どうしても彼女を殺したいという敵の目的に、グレティアーナは少し苛立っていた。





「……はぁ。楽しい時間が終わりましたね」

リディオノーレは天馬にもたれかかり、抱き締めながら呟いた。

手綱はグレイザックが握ってくれているので楽である。


「これからは楽しくない、と?」

グレイザックが片眉を上げた。

「いやいや、そういう意味で言ったのではなく!」

リディオノーレは慌てる。


「あんな天馬合戦できるときなんて、もう無いんだろうな、と思いまして」

「……無いだろうな」

グレイザックは答える。

「無いでしょうね」

隣で天馬車を引くサムエルも同意する。


「やっぱりそうですよねー。とっても楽しかったんですけど」

リディオノーレは天馬に頬擦りする。

「それは何よりだ」

「だって、あんなに容赦なく魔法をぶっ放せるなんて、興奮しましたよね」

リディオノーレはちらりとグレイザックを見る。


「日頃制御してるからな」

「アインズビルでもやりましょうよー」

リディオノーレが提案する。

「げ」

彼女の言葉に誰かが声を漏らす。

バルデミアンだった。


リディオノーレは体を起こして、彼を少し睨む。


「……何かあるなら言ってください」

「………」

バルデミアンは無言で彼女を見つめ返し、少しの間考えたのち、口を開いた。

「誰が相手するのですか」

「私とグレイザック様だけでやりますよ」

リディオノーレは唇を尖らせながら、「ね?」とグレイザックを振り返る。


「駄目ですよ。被害を考えて下さい」

サムエルが先に口を挟んだ。

「アインズビルの訓練場はアラウィリアほど広くありません。あなた達が同じような魔法を使えばそこら一体焼け野原になります」

「でも、たまにはしたいです」

リディオノーレは引き下がらない。


グレイザックは面白そうに話を聞いている。


「被害を考えて下さい」

サムエルも譲らない。

でもリディオノーレも譲らない。

どうやったら試合が出来るのか、サムエルにどうやったら交渉で勝てるのか必死に考える。


「け、結界を張ります!」

「そんな大きな結界を張れるのですか?」

「……っ」

リディオノーレは口ごもる。

訓練場全てを覆えるような結界は張れない。

そんな結界を張ったまま試合するとなると、かなり魔力が削られてしまう。


「訓練場の四隅に1人ずつ配置してもらって、結界を繋げるのはどうでしょう!?」

思いつきを口にするリディオノーレ。

なかなかいい案だが、4人で訓練場を覆えるような結界を張れる人材はいない。


「4人では無理ですね」

サムエルが一刀両断する。

「じゃ、じゃあ人海戦術で結界を張ってもらえれば」

「そんなことに時間と人員を割くのを領主さまは許しませんよ」

「〜〜〜っ」

リディオノーレは唇を噛み締める。

サムエルに勝てる気がしない。


そんな彼女の様子に他の皆は苦笑いである。

グレイザックも苦笑しながら、口を開いた。


「結界に関しては書物を読むといい。何か閃くと思うぞ」

グレイザックの言葉にリディオノーレは目を輝かす。

「私1人でも出来るようなことがあるってことですか?」

「お前の魔力量ならな」

グレイザックの返事にリディオノーレはにやりと思わず笑った。


その顔でサムエルを見るリディオノーレ。


「………大々的に何かをするときは必ず報告して下さい」

サムエルはそう言ってため息をついた。

「帰ったら早速図書室行きますね!」

リディオノーレはわくわくする。


「………ちょっと楽観的すぎませんか」

ムナグレークが呆れた顔で口を挟んできた。

「え、何がですか?」

リディオノーレは聞き返す。

「だって、内通者をご存知なんですよね?じゃあ、もうちょっと普通は警戒しませんか?」

内通者が分かったことはここにいる面々には伝わっている。


ムナグレークの言葉にリディオノーレは首を傾げた。彼女のその様子にムナグレークも首を傾げ返す。

グレイザック以外も「ん?」という表情をしている。


「怖くないんですか?」

フェルバールも尋ねる。

「狙われているのはあなたですよ?」

バルデミアンも心配している。


リディオノーレは手綱を引いてくれているグレイザックを振り返った。

「……何だ?」

グレイザックが少し眉間に皺を寄せて尋ねた。


「警戒した方がいいですか?」

「……普通はな。だが、お前が警戒し過ぎると威圧しそうだ」

グレイザックの言葉にムナグレーク達が「確かに……」と呟いた。

それではその内通者を敵としてみなしているのがすぐにバレてしまう。


「私もその意見に同意です。敵として見ちゃうとどこでもかんでも考えなしに威圧しそうですもん。それに普通に振る舞っておかないと囮の意味がないじゃないですか」

リディオノーレは笑う。

その言葉に皆が苦い顔をした。


グレイザックだけは、わしゃわしゃと彼女の頭を撫で回す。


「それに」

リディオノーレは撫で回す彼の手を握って動きを止めると、皆を見回した。


「それに、皆がいますから何も心配していません」

リディオノーレはにこりと微笑んだ。

「サムエル様は全力で守ってくれそうですし、グレーク様と天馬に乗れば絶対に逃げおおせる自信ありますし、フェルバール様とバルデミアン様も私より強いですし」

リディオノーレはそこまで言って、グレイザックを見る。


「それにグレイザック様がいる限り、なーーーんにも心配していません」

彼女はにこりと微笑んだ。

「当たり前だ。心配する要素など何もないだろう」

グレイザックは唇の端を上げた。

「ですよね」

リディオノーレのグレイザックに対する全幅の信頼に他の皆は苦笑する。


「あ、ひとつ聞いてもいいですか?」

リディオノーレはひとつ質問を口にした。

「私はグレイザック様に命預けられるくらい前から信頼してますが、グレイザック様はどうですか?」

「………」

その質問の答えに聞き耳を立てるサムエル達。


グレイザックはゆっくりと考えたのち、口を開いた。


「命はまだ無理だが……」

だが?

皆が注目する。


「背中は預けても良い」

「!!!」

その発言にサムエル達が目を見開いて驚いた。

リディオノーレは目を丸くしたのち、とても嬉しそうな顔をした。


「本当ですか?」

「ああ。戦闘において、魔法に関しては背中を預けても良い。だが、武器の腕はまだまだだな」

「……頑張りますぅ」

リディオノーレは不満気に唇を尖らせた。


それでもグレイザックが彼女に背中を預けられるようになったことに驚いた。

いつぞやはまだその域に達していなかったのに。

グレイザックもまた彼女に全幅の信頼を寄せているということだ。


「……さあ、とっとと帰るぞ」

グレイザックは手綱を強く握りしめると少し速度を上げた。

後ろから見ると首が少し赤くなっている。

サムエルは思わず、くすりと笑ったのだった。




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