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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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作戦と血判証明




二次会が終われば、招待客もどんどん帰っていく。

シャイリーネにシャーリネーヴェ、ザファムートとジャンドバルトもひと足先にアラウィリアを去って行った。


そして、残るはグレイザック一行である。

帰る前夜に皆で夕食を摂ることになり、改めて祝いの言葉を述べ、そして案の定天馬合戦の話で盛り上がる。


「………あれ、最後何で暗闇にしたんだ?」

アブストールがふとグレイザックに尋ねた。

「あれはですね、私の杖が割れそうだったので隠すために……」

リディオノーレが答えた。

「割れたのか!?」

アブストールは目を瞬いた。


「割れちゃいました。でも見てください!師匠からきちんと杖をもらったんです!!」

リディオノーレは嬉しそうに貰った杖を取り出した。


「触ってもいいか?」

「折らないなら」

リディオノーレは差し出した。


その杖を覗きこむグレティアーナや領主たち。


「………何なんだ、これは」

アブストールは杖を返しながら眉間に皺を寄せて尋ねた。

「杖だ」

グレイザックは簡潔にスパッと言い放つ。

「どうやったらこうなる?」

アブストールは顎に手をやり考えこむ。


「え、分かりませんか?これはですね……」

リディオノーレが解説しだす。

その解説を聞いて、アブストール達はますます眉間に皺が寄る。


「魔石をくっつけることができるのか」

「できる」

「魔力操作が難しそうだが」

「誰だと思ってる」

グレイザックは言い放つ。

彼だけ冷静に食事をしながら話を続けていた。


「それが出来るグレイザックが相変わらずだし、それを理解しているリディもおかしい」

アブストールが述べた。

「おかしいのは今に始まったことではないぞ」

領主も口を挟む。


「どんな訓練をすれば、そこまで魔力操作が出来るんだ?」

領主は師弟2人に尋ねた。

グレイザックはリディオノーレを見る。

グレイザックは何も言わないので、好きにしていいということだろう。

「………実演、でいいですか?」

リディオノーレは見てもらった方が早いと思い提案する。


リディオノーレは立ち上がり、椅子の後ろに下がり、貰った杖で初めて呪文を唱えた。

「ヴァンビエ」


誰も使っていないカトラリーを風で操作させる。


「うわ、ちょっと待ってください」

リディオノーレは操っていたカトラリーを下ろす。

皆が彼女に注目する。


彼女は手元の杖をジッと見つめ、その後グレイザックを見た。

皆は彼女を凝視している。


「どうした。……おかしいか?」

グレイザックは立ち上がり、彼女の杖を確かめに行く。

「……すごすぎます」

リディオノーレは杖を見たまま呟いた。

何なんだ、この手に馴染む感じは。

「吸い付いてくるというか……、魔力がすごい乗せやすいというか……」

リディオノーレは前に立つグレイザックを見上げた。


「感動してます……」

リディオノーレは目を見開いている。

「誰がつくったと思ってる」

グレイザックは唇の端を上げた。

「問題ないなら見せてやれ」

グレイザックはもう一度席に着く為、背を向けた。


「では」

リディオノーレは杖を掲げて、解説しながらカトラリーを操作した。


バルデミアンとムナグレークは前回の視察の際に一緒に訓練させられたので何となく理解できるが、それまでだ。

結局そんな緻密な魔力操作は今も出来ない。

フェルバールも城内での護衛の際に彼女がしていたのをよく見ていたので驚きはしないが、理解はできない。


サムエルはもう師弟2人が規格外なことを知っているので何をしようが驚かないというかあまり動じなくなっていた。



魔力操作を理解しようとしているアブストールは頻りにリディオノーレに質問する。

彼女は嫌な顔をせずに答えていく。


その2人のやりとりをどうでも良さそうに見ながら酒をあおるグレイザック。

杖が変わってやりやすいのだろう。

彼女の操作できる量が何故か増えていた。

犀の魔石4つは間違っていなかったことに彼は唇の端を上げた。


「………そこまでだ」

グレイザックはある程度説明し終えた所でリディオノーレを止める。

アブストールは「面白かった。ありがとう」と礼を言ってくれて、リディオノーレは嬉しくなった。


そうして、アラウィリアで過ごす最後の晩餐は締めくくられ、それぞれが寝床につく時間に、リディオノーレ以外がまた広間に集まった。



「リディを1人にして大丈夫なのか」

アブストールが尋ねる。

「結界を張ってあるから大丈夫だ」

グレイザックは答えると、広間に集まった者を見渡した。


アラウィリア領主にアブストール夫妻、そして、リディオノーレ以外のアインズビルの面々。


「何の話なんだ」

領主が切り出した。

「……内通者、ですよね?」

グレティアーナが怖い顔で尋ねる。

「そうです」

グレイザックは短く答える。


「分かったのか」

領主も顔が少し強張った。

「はい。フェルバール、説明を」

グレイザックはフェルバールに話を振った。

フェルバールはゆっくりと語り出す。


「あの方は、誰もが知らない情報を喋りました。そこで何も聞かずに機転を利かせていただいたグレティアーナ様に感謝申し上げます」

フェルバールが礼を述べた。


「何と言ったのだ?」

領主が尋ねる。

「あの方は〝毒″と言ったのです。お父様、アブストール、あなた方はリディが毒で倒れていたことをご存知でしたか?」

「まさか」

領主は答える。

「グレイザックが徹底的に隠していたんだから、知る由もない」

アブストールも答える。


「ですよね。私も知りません。なのに、あの方はさらりとその単語を仰いました。その後、リディは震える手で私の手を握ってきたのです」

グレティアーナは形相を変えた。

「私の可愛いがっている妹のようなリディを害した輩はあいつなのだと分かったのです」

「……ティア、言葉遣いが…」

アブストールが隣で咎める。


「許しません、絶対に。何かあれば助力しますので、何なりとお申し付けください」

グレティアーナはグレイザックに告げる。

「それは頼もしい限りです。では、是非お願い致します」

グレイザックは意地悪く笑った。

何かを企んでいる顔である。


グレイザックは作戦を語り出した。

そして、話し終えると紙を取り出す。


「では、血判証明をお願いします」

グレイザックは1人1人に配り始める。

「もし作戦のことを少しでも漏らすと、魔力封じの術がかかります。それを話していた相手にもかかるようになっていますので、お気を付け下さい」

グレイザックはにこりと微笑んだ。


「………」

何という血判証明だ。

一同の顔が一斉に引き攣った。


その中で1番に筆を取ったのは、サムエルとムナグレークである。

迷うことなく署名をし、血判を押す。


それを皮切りに皆が次々と署名していく。

アブストールは血判を押しながら、口を開いた。


「魔力封じの術まで知っているのか」

「俺だからな」

グレイザックは当たり前のように答える。

「その術はそれを専門とする者が教わるものだろう」

領主が突っ込む。

「ええ。ですが、書物もありますから」

「………それは禁書庫だろう」

アブストールが苦い顔になる。


「それがどうした」

グレイザックは眉を吊り上げる。

禁書庫だろうが何だろうが関係ない。

「……いや、そりゃお前のことだからそうなんだろうが………、いやもう何でもない。言うだけ無駄だな」

アブストールは息を吐いた。


全員が血判証明をすると、グレイザックは満足気に笑った。


「では、その時はよろしくお願い致します」

グレイザックは皆を見渡してそう告げた。





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