2人の領主息女
1番困った対応は、勿論王族である。
その時には、シャーリネーヴェとシャイリーネが居てくれたので心強かったが。
「リディオノーレ。師匠であるグレイザックと共に王宮騎士団への入団を確約しましょう。どうですか」
王妃が提案をしてきた。
「後見人であるグレイザック様の許可を得てくださいませ」
リディオノーレはまっすぐ見つめて答える。
そう答えるのが1番楽なのだ。
「あそこまでの魔法が使えるのです。騎士団でなくとも王宮で研究者としての道もありますよ」
王妃の提案に思わず揺らぐリディオノーレ。
揺らいだのが分かったシャーリネーヴェは慌ててリディオノーレの手を握った。
「リディ」
シャーリネーヴェが小声で咎める。
「………」
リディオノーレは少し驚いて彼女を見たのち、ひとつ咳払いをする。
「んん、すごい魅力的なお誘いなのですが、やはり後見人であるグレイザック様の許可をお願いします」
リディオノーレは表情を取り繕い述べた。
「グレイザックは後見人なだけであり、別に家族ではないだろう」
王妃の隣にいたセラフィリオンが口を開いた。
「あ……………」
誰かは分からないが、誰かがふと声を漏らした。
フェルバールは思わず息を吐く。
シャーリネーヴェはリディオノーレの左手をそのままぎゅ、と握りしめた。
グレティアーナも彼女の空いている右手を握りしめる。
グレイザックのことを貶されるとこの娘は暴走することを、年上の彼女たち2人は知っている。
「………」
急に両側から手を握りしめられ、リディオノーレは少し目を瞬いて2人を見た。
なかなかの力で握り締められている。
………少し痛いくらいに。
領主息女2人のただならぬ雰囲気に気付いたセラフィリオンは思わず半歩下がった。
「確かに血は繋がっておりませんが、家族同然の方でございます」
リディオノーレは落ち着いた様子でそう答えた。
ふぅ、と息を吐く。
両側から手を握られているだけで魔力が暴走しない。
「殿下、家族同然の方を貶す発言をされたら、誰もが気を悪くします」
シャーリネーヴェが意を決して口を開いた。彼女の発言にその場にいた全員が驚く。
不敬と言われてもおかしくない発言だった。
「シャーリネーヴェ」
シャイリーネが咎める。
「お母様、でも……」
「お姉さま、ありがとうございます」
リディオノーレが口を挟む。
シャーリネーヴェを巻き込んではいけない。
「いいえ、リディ。あなたこそ出しゃばるべきではないわ。あなたはアインズビルの領主一族として認められているもの。わたくしが妹のように思っている娘よ。あなたが何でもかんでも矢面に立たなくていいのよ」
シャーリネーヴェは堂々と言い切った。
「あなたはまだ守られるべき存在なのよ。守ってもらえる内は守られておきなさいな」
シャーリネーヴェが微笑んだ。
その発言に背中を押されたのか、グレティアーナも口を開く。
「私も彼女を妹のように思っていますの。彼女にはもう血の繋がっている家族がいないのですから。彼女が敬愛してやまないグレイザック様を貶す発言は看過できません」
グレティアーナも言い切った。
まさかの対応にセラフィリオンはたじろぐ。
「………」
セラフィリオンは唇を引き結んだ。
王族であるが故に格下の者に謝罪はできないのだろう。
「……謝罪は結構です。理解してくれたら良いのです。今度、師匠を貶したら本気で威圧しますので」
「………」
リディオノーレは脅しておく。
セラフィリオンはまっすぐ彼女を見据える。
「………それに」
リディオノーレは口を開く。
「王宮に所属することがどれほど魅力的なのかを語ってくれませんと」
にこりと微笑むリディオノーレ。
そりゃもう素材、素材、素材、蔵書数、蔵書数、蔵書数。
それが最低条件である。
恐らく素材と蔵書数のことを考えているんだろうな、と何となく分かった背後のフェルバールは苦笑いになる。
「では、今度は魅力的な条件を持って行くとしましょう」
王妃がにこりと微笑んで返事した。
「学院で会えること、楽しみにしておきましょう」
王妃は話を締めくくると王子を連れて去って行った。
完全に王族の姿が見えなくなってから、シャーリネーヴェとグレティアーナはとてもとても長い長い息を吐いた。
「……寿命が縮まったわ…」
シャイリーネが呟く。
「申し訳ございません」
リディオノーレが謝罪する。
「だから、リディは悪くないのよ」
シャーリネーヴェが言う。
「第一、ちょっと魔法が上手いのを認めた瞬間にあの手のひら返しは好きではないわ」
シャーリネーヴェは怒っている。
「そうね。同意見だわ。少しでも利用価値があると分かれば、ああやって近付いてくる所が嫌なのよ」
グレティアーナも怒っている。
珍しい2人の様子にリディオノーレは目を瞬く。
「リディもよ。研究者ごときで揺らがないの」
シャーリネーヴェは手をぎゅーーーっと握りしめる。
「本当に。隙を見せたら一瞬で食べられるわよ」
グレティアーナも手を握って注意を促す。
グレティアーナはアブストールからグレイザックとした約束のことを聞いている。
もし、彼がいなくなった時はリディオノーレのことを頼む、と言われているのだ。
「それに、リディが離れたところに行ってしまったら寂しいわ。私は嫌よ」
グレティアーナに懇願されるように言われ、リディオノーレはたじろいだ。
こんなことを言われることがないので、何と返せばいいか分からない。
グレティアーナはそのまま続ける。
「シャーリネーヴェ様が仰っていた通り、守ってもらえる内は守ってもらいなさい。何でもかんでも自分が解決しないといけないなど思っては駄目よ」
「執務に関しては上手に仕事を割り振るわりに、そういう所は師匠に似たようね」
シャイリーネが苦笑しながら述べた。
「……」
リディオノーレは目を瞬いてシャイリーネを見た。
まさか、そんな所が似ているなんて。
「……気付きませんでした」
リディオノーレは少し苦笑する。
「本当にあなた達は似た者同士よ?」
シャイリーネはくすりと笑う。
「確かに。魔力操作、全然負けてなかったじゃない」
シャーリネーヴェが言う。
「そんなことないですよ!師匠なんて私の倍の数を操れるんですから」
「そこ謙遜するところじゃないのよ、リディ。あんな魔力操作できるの初めて見たもの」
グレティアーナはくすくすと笑う。
リディオノーレがどれだけ規格外なのかを皆は一斉に語り始めた。
あれはおかしい、など。
あんなもの人間の芸当じゃない、と言われたり。
規格外すぎて言葉が出ない、とか。
リディオノーレが理屈を説明しても意味が分からない、と否定され。
彼女が喋れば喋るほど、彼女の規格外さが露見する一方であった。




