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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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二次会での出来事




「サムエル様!見てください!」

リディオノーレは貰った杖を嬉しそうに見せる。

サムエルはそれを見て目を瞬いたのち、眉尻を下げた。


「良かったですね。グレイザック様らしい杖ですね」

「ですよね!これ凄くないですか?」

リディオノーレは凄さを述べていく。


「当の本人に感謝しましたか?」

サムエルは尋ねる。

「そりゃもうぎゅーーーって、最大限の感謝を表しました」

リディオノーレは抱きつく仕草を見せる。

「………え?本気ですか?」

サムエルはまた目を瞬き、今度はグレイザックを見る。


「……」

グレイザックはしらーっと目を逸らす。

サムエルは今度、リディオノーレを見た。


「抱きついたのですか?」

「そりゃもう嬉しかったので、ぎゅーーーってしました。ね、師匠」

リディオノーレは興奮がおさまりきっておらず、満面の笑みでグレイザックの方を向く。

グレイザックは目を逸らしたままである。

そんな彼の様子にサムエルは目を瞬いた。



「おはようございます」

また扉を叩く音が聞こえてきて、3人入ってきた。

ムナグレークとフェルバールとバルデミアンである。


3人が入ってきた瞬間、リディオノーレは今度3人に駆け寄って杖を見せびらかす。

「見てくださいっ!!」

リディオノーレは満面の笑みで杖を見せる。


3人が興味深そうに杖を覗く。


「これは一体、どうやってつくっているのですか」

ムナグレークが眉間に皺を寄せる。

「多分なんですけど…」

リディオノーレが嬉々として説明を始める。

そんな彼女の様子を遠目から見ているグレイザックとサムエル。


こうなったらリディオノーレには周囲の声が聞こえない。


「かなり、工夫を凝らしましたね」

サムエルはグレイザックに話しかける。

「ああ」

「アインズビルの紋章をわざわざ刻むとは」

「アインズビルの姓を名乗れない代わり、だ」

グレイザックは答える。


「あれは名前こそアインズビルでは無いが、アインズビル領主一族の1人だということを分かってもらわんとな」

「そうですね。彼女はもうアインズビルですから」

サムエルも同意する。


「それより、です。今日はどうされますか」

サムエルが尋ねる。

「二次会の話だな。昨日のその後の首尾はどうだった?」

グレイザックが逆に尋ねる。


「かなりの質問が来ていましたよ。お会いしたい人やお近づきになりたい人もたくさんいらっしゃいます。王族の方々は、本日正式にご質問等にいらっしゃるかと」

サムエルが説明する。

「………めんどくさいな」

グレイザックが息を吐く。


「俺とリディは同じ席には座れんからな。そこが厄介だ。あいつは何でもかんでも口走る」

グレイザックがため息をつく。

「………確かに」

サムエルは同意してしまう。


アブストールとムナグレーク、そしてグレティアーナとリディオノーレの組み合わせで席に座る。

あとの立役者はまた別席だ。


「では、これを」

サムエルは持参していた魔術具を出す。

それは念話の魔術具だった。


「これしかないよな。でもあいつ、心の声もたまにおかしいからな……」

グレイザックはため息をついて、魔術具を受け取った。





案の定、二次会では質問攻めがすごかった。

新郎新婦も、アラウィリア領主夫妻も、アインズビル一行も皆揃って質問攻めであった。

食事を摂る暇なんてほぼ無いに等しい。



やっと少し落ち着いたところで、ザファムートがリディオノーレとグレティアーナの所へやってきた。


「お疲れですね」

ザファムートが苦笑いしながら話しかける。

「そうですね…」

グレティアーナが少しぐったりしながら苦笑気味に答えた。

「ザファムート様もお疲れでしょう。一杯どうですか」

グレティアーナがお酒を一杯すすめる。

「ありがとうございます」

ザファムートは快く受け取って喉を潤した。


「……リディはいつの間にあんなに魔法が扱えるようになっていたの?」

少し客足が遠のいてる間に話を振るグレティアーナ。

「普通に練習していただけですよ?」

リディオノーレは首を傾げながら答える。

「普通に練習した程度であれほど出来ませんよ……」

ザファムートが苦笑いになる。


「でも、そんな特別なことしてませんよ?」

リディオノーレはますます首を傾げる。

背後で護衛をしているフェルバールは、その言葉を聞いて苦笑いになる。

「約一年、瀕死状態だったでしょう?それなのにそんな練習をする時間があったのかと不思議で」

グレティアーナもお酒をあおる。


「本当に、あの期間はどうなることかと思っておりました」

ザファムートが思い出しながら述べる。

「手紙を出してもリディから返ってこないものだから本当に心配していたのよ」

グレティアーナも思い出しながら苦い顔になった。


「私も心配していたんですよ?リディが毒で倒れてから、本当に大変だったのですから…」

ザファムートが呟く。

「……………え?」

グレティアーナが目を瞬いた。

リディオノーレは一瞬顔が強張ったものの、何もなかったように机の下でグレティアーナの手を握った。

その手は少し震えていた。


グレティアーナは握り返すと、ザファムートに話しかける。


「本当にあの頃はリディの安否が分からなくて心配でした。こうして元気な顔を見ることができて、本当に良かったと思っています」

グレティアーナは微笑む。

「全くもって同意見です。あの時のグレイザック様は、もう誰も手が付けられないほど荒れておりましたから」

ザファムートとグレティアーナが会話を続けている間、リディオノーレは護衛のフェルバールを一瞬振り返った。


フェルバールの顔が少し強張っている。

リディオノーレは少しだけ頷くと、念話を飛ばした。


『グレイザック様』

『………どうした』

数拍のち、グレイザックから返事が来た。


『内通者がいました』

リディオノーレは単刀直入に告げる。

今、自分の表情は大丈夫だろうかと気にしながら。


『それで?』

グレイザックが簡潔に返す。

『流石、グレイザック様です』

リディオノーレはそう答えた。

彼女のその言葉に、グレイザックは唇の端を上げた。


『よくやった』

グレイザックは告げる。

『リディ』

グレイザックが名前を呼ぶ。

『俺の身内を害する奴には、俺は容赦しない』

『………分かりました』

リディオノーレは思わず下唇を噛む。

情を捨てろ、ということだろう。



「そろそろお暇します。リディ、体調に気を付けてほどほどに」

ザファムートは最後に彼女を心配する声をかけて、去って行った。

「………リディ」

ザファムートが去ってから、グレティアーナが徐に口を開いた。

「何でしょう、ティア様」

リディオノーレは何事もなかったように尋ねる。


「あなた、毒で倒れていたの?」

声量を抑え、グレティアーナは尋ねた。

「まさか」

リディオノーレは微笑みながら返事する。

「1年は流石に倒れすぎでしょう?」

その言葉にグレティアーナは彼女をじっと見つめる。


リディオノーレは微笑みで返す。


「………彼が、そうなのね」

グレティアーナが悔しそうな顔をして口を開いた。

「妹のように可愛いがっているリディを……っ」

グレティアーナがぎり、と歯を食いしばった。

「ティア様がそこまで怒らなくてもいいんですよ」

リディオノーレは慌てる。



リディオノーレの言葉に、グレティアーナは微笑むだけで何も答えなかった。





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